イナズマイレブン:花開いたメディアミックス 誕生から2年半で劇場版アニメ化

「劇場版 イナズマイレブン 最強軍団オーガ襲来」の1シーン(c)LEVEL-5/FCイナズマイレブン MOVIE 2010
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「劇場版 イナズマイレブン 最強軍団オーガ襲来」の1シーン(c)LEVEL-5/FCイナズマイレブン MOVIE 2010

 サッカーの派手な必殺技が次々と飛び出すアニメ・ゲーム・マンガ「イナズマイレブン」の劇場版アニメ「最強軍団オーガ襲来」が23日、公開される。08年の誕生からわずか2年半で小学生の男の子たちの心をつかんだ背景には、ゲーム、アニメ、マンガと展開し、メディアミックスがうまく機能したことがある。作品の誕生の経緯や、人気の秘密を探った。

ウナギノボリ

 「イナズマイレブン」は、雷門中サッカー部のキャプテン円堂守(えんどう・まもる)が、追い込まれてもあきらめない心と、サッカーを愛する心を武器に、成長していく物語だ。初の劇場版アニメとなる「最強軍団オーガ襲来」では、中学サッカー日本一を決める大会「フットボールフロンティア」で雷門中が優勝する歴史を変えようと、平和を嫌う闇の勢力が、未来から最強のチーム「オーガ」を送り込んで来て、円堂の懸命な心を折ろうとする……というストーリーだ。

 ◇アニメ化きっかけにブレーク

 同作品を生み出したのは、DSゲーム「ドラゴンクエスト9」を開発、劇場版アニメ化もされた「レイトン教授」シリーズを制作した福岡市のゲーム会社「レベルファイブ」。マンガ化は、「ポケットモンスター」を成功させた立役者の1人として知られる小学館の久保雅一さんが、「すごい会社が福岡にある」と言って、レベルファイブの日野晃博社長をコロコロ編集部に紹介したのがきっかけ。当時の「コロコロコミック」にはサッカーマンガがなく、読者からサッカーマンガの連載希望が寄せられていたこともあり、早々にマンガ化が決まった。

 そして08年5月、ゲームの発売(同年8月)に先んじて、マンガの連載がコロコロで始まったが、当時のマンガの人気は中位。ゲームも約10万本を販売(エンターブレイン調べ)したが、そこそこだった。その風向きが変わったのは、08年10月からスタートしたアニメ化からだ。アニメ放送をきっかけに08年末にはマンガの人気も上位に浮上。「ペンギンの問題」やマンガ「ベイブレード」と共にコロコロを引っ張る作品になった。ゲームも09年10月発売の「2」では大ヒットの指標となるミリオン(100万本)を出荷して人気ソフトの仲間入りを果たす。マンガで描かれた円堂の新必殺技が、逆にゲームの企画に採用されるなどマンガ、ゲーム、アニメが互いに刺激し合い、さらにアニメ好きな女性層も取り込むなどファンも拡大した。

 コロコロコミック編集部の和田誠副編集長は「今の子供たちは保守的なんです。自分が面白いのはもちろん、友達が熱中しているかなどを考える。そもそも限られたお小遣いをどの作品に張るかは重要なんです。マンガ、ゲーム、アニメがそろって初めて子供たちが『この作品は応援しても大丈夫だ』という安心感が得られたのでしょう」と話す。

 ◇多彩なキャラと必殺技が魅力

 もちろんどんな作品でもメディアミックスで成功するとは限らない。コンテンツのよさがメディアミックスで花開いたということだろう。魅力の一つは、多彩なキャラクターで、バンダナをつけた熱血主人公の円堂、ツンツン頭で無口だが熱い心を持つ天才ストライカーの豪炎寺、ゴーグルにマント姿という天才司令塔の鬼道などさまざまな姿形、性格だ。本当のサッカーの試合で、ゴーグルとマントを付けて試合に出場しようとした小学生がいて、審判に止められた……というエピソードもあるほど子どもたちの共感を得ている。

 もう一つの見どころは、度肝を抜くスーパー必殺技の数々だ。数メートルは飛びあがって、空中からオーバーヘッドキック気味のボレーで、ボールが炎と化して相手ゴールに襲いかかる豪炎寺の必殺シュート「ファイアトルネード」はその代表。必殺シュートに対して、山吹き色をした巨大な手のひらが現れて必殺シュートを止める円堂の「ゴッドハンド」。シュートには複数選手同士の合体技もあれば、一度は破られた技が進化して別の必殺技になることもある。

 ◇共感得た円堂の熱血

 だがキャラクターと必殺技に加えて、もう一つの魅力もカギといえそうだ。和田副編集長は「円堂のあきらめない気持ち、仲間を思う心を、それを口にする姿勢を『うっとおしい』と思いながらも、実は今の子供たちも欲しているのではないでしょうか」と話す。劇場版でも、敵に握手を求めても返してもらえないなど、拒絶される円堂がどういう行動を取るかは、見どころの一つだ。

 23日公開の劇場版アニメでは、作品を知らない人にも分かるようにダイジェスト的な場面がある前半と、オーガとの対決が描かれる後半からなり、初見の大人や男女問わず、理解しやすいよう配慮している。そして必殺技は実に70種類以上が登場、その3Dシーンだけでも一見の価値がある。

 「イナズマイレブン」の人気は国内にとどまらず、台湾、香港ではアニメ、韓国ではトレーディングカードが既に人気で、11年1月からはゲームが欧州で発売される予定だ。「イナズマイレブン」が世界の子供たちの心をつかめるか注目だ。(毎日新聞デジタル)

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