注目映画紹介:「イリュージョニスト」初老の手品師と少女の交流 胸に刺さるリアル感

「イリュージョニスト」の一場面 (C)2010 Django Films Illusionist Ltd/Cine B/France 3 Cinema All Rights Reserved.
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「イリュージョニスト」の一場面 (C)2010 Django Films Illusionist Ltd/Cine B/France 3 Cinema All Rights Reserved.

 フランスの喜劇王ジャック・タチの幻の脚本を「ベルヴィル・ランデブー」(02年)のシルヴァン・ショメ監督がアニメ化した「イリュージョニスト」が公開中だ。変化する時代の中で信じることを教えてくれる秀作。1950年代のパリを舞台に初老の手品師と少女の交流を描く。ロマンチックであり、切なくもあり、シビアでもあり、トホホな笑いもある。今年の米アカデミー賞長編アニメーション映画部門でノミネートされた作品。緻密(ちみつ)に描かれた背景の街の風景が美しい。ただ美しくファンタジックなだけではなく、チクリと胸に刺さるリアル感もあるところが、いかにもフランスの作品らしい。

ウナギノボリ

 59年、パリ。今や時代遅れとなった手品師のタチシェフは、三流の劇場や場末のバーを回る日々。ある日、スコットランドの離島で手品を披露すると、珍しく人々が喜んでくれた。手品を見ていた貧しい少女アリスはタチシェフのことを魔法使いだと信じてしまい、エンディンバラに行くタチシェフのことを追ってくる。やがて2人は親子のように一緒に暮らし始めて……というストーリー。

 タチシェフおじさんと少女アリス。言葉の通じない2人が次第に心を通わせていくさまは見進めていくうちに、心がじんわりとしてくる。時代から見向きもされなくなったタチシェフだが、アリスにとってはヒーローだ。この世にたった一人でも、心を通じ合わせる人がいる喜びを感じたタチシェフおじさんは、アリスに娘の面影を見て、じゃんじゃんプレゼントを贈る……。おじさんの「魔法」の行く末、あるいは、おじさんと同じ宿に定住する興行師たちの末路が痛い……。人生のいい時間はなんとはかないことか。一瞬の夢のような映画だ。TOHOシネマズ六本木ヒルズ(東京都港区)ほか全国で順次公開中。(キョーコ/毎日新聞デジタル)

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