栗岩薫さん:海に潜ってモリで突く……“異端”の生物学者にWOWOWが密着 9日放送

国立科学博物館・研究員の栗岩薫さん
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国立科学博物館・研究員の栗岩薫さん

 銛(モリ)を片手にウエットスーツを着込み、素潜りで研究材料となる魚を突く……そんな一風変わった研究者に密着した「湘南の海で“宝”を探す~ウェットスーツと顕微鏡~」が9日、WOWOWのドキュメンタリー番組「ノンフィクションW」(毎週月曜午後10時放送)で放送される。“銛で生活するただひとりの研究者”と自称する生物学者、国立科学博物館の研究員・栗岩薫さんに話を聞いた。(毎日新聞デジタル)

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 無精ひげをたくわえた精悍(せいかん)な顔つき。ジーンズ姿でニットキャップをかぶった栗岩さんは、白衣をまとっていなければ、研究者には見えないかもしれない。「小さいころに『シートン動物記』や『ファーブル昆虫記』などの本をたくさん読んでいて、漠然と生物学者になりたいと思っていた」という栗岩さんが、素潜りに出会ったのは大学に入ってから。「95年に山形大学に入学して、素潜りのサークルに入ったのがきっかけです。当時から海にもぐって研究材料をモリで突いていました」と語る。

 現在はハタ科の「アカハタ」という魚を対象に、標本から遺伝子を取り出すなどして、地域による進化の変遷の差異などを研究している。魚類を扱う研究者たちは、魚市場の仲買人に頼んだり、漁協を通して研究材料を集めたりするのが一般的といい、酸素ボンベを背負って網で捕獲する場合もあるという。ただ、ボンベもなしで海に潜り、モリで突いて捕獲するというのは栗岩さんならでは。「良くも悪くも異端児扱いのところはありますね。僕の場合、研究対象はモリで突いて取れる魚であること。方法論が先にあるんですよ」と説明する。

 「海に潜ると浮遊感もありますし、水中の音が砂浜と岩場で全然違ったり、近くに来た魚が体を翻して逃げるときに、『ブンッ』って感じで振動が音で聞こえたりするんですよ。そういうのは実際に経験した人じゃないと分からないですよね」と魅力を明かす。体長1メートルを超える大物を捕獲することもあるといい、「やっぱり生き物を取っている感じはしますね。獲物が大きければ大きいほど、ものすごい力で暴れまわるので、“生命の持つ躍動感”というか自然の力を直に感じることができる。なかなか普通の日常では感じることができないんじゃないかなと思います」と生き生きと語る。

 「よく『海とは』とか『魚突きとは』とかって聞かれるんですけど、あんまり小難しいことは言いたくないんですよね。好きだからやってるんです。突いて取るのが楽しくて、小さいころにやっていた捕虫網で虫を取ったり、タモ網で魚を取ったりとか、全部あれの延長です。面白いからやっていたら、仕事になってしまっただけ」と笑顔を見せた。

 番組では早春の湘南の海に潜って魚を突く姿も披露している。「自分が潜っているのを見るのは初めてだったんです。手前みそですけど、あまり見る機会はないと思うので、そこは面白いんじゃないかな」と見どころを語り、「ぼくの研究は基礎研究なので、直接誰かの役に立つようなことじゃない。でも、研究の舞台裏を見てもらうことで、ちょっとでも研究者の仕事に興味を持ってもらえたり、将来研究者になりたいっていう人が、どんどん増えればいいかな。そういう人が出てくれたら、人の役に立つことになるかもしれないので、うれしいですね」と語っていた。

 時に伊豆大島や湘南の海を中心に素潜りや魚突きを行い、時に白衣をまとって顕微鏡をのぞく栗岩さんの活動に密着した「湘南の海で“宝”を探す~ウェットスーツと顕微鏡~」は9日午後10時から放送予定。さまざまな生物を育む、世界的に見ても稀有な“宝の海”である湘南の海の魅力も紹介される。

<プロフィル>くりいわ・かおる。1974年生まれ。川崎市出身。小学校3年で福島県に転校。95年に山形大学に入学。同大大学院で修士課程修了後、東京大学大学院で博士課程を過ごす。農学博士。国立科学博物館研究員。

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