3月12日に全線開通した九州新幹線を題材に、子どもの冒険と成長を描いた映画「奇跡」が11日に全国で公開された。「誰も知らない」(04年)の是枝裕和監督が、兄弟お笑いコンビ「まえだまえだ」の前田航基君(12)と旺志郎君(10)を主演に据え、本木雅弘さんと内田也哉子さんの娘、内田伽羅さんなど子どもを中心に人と人とのきずなを描いた。最新作について是枝監督に話を聞いた。(上村恭子/毎日新聞デジタル)
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−−新幹線がすれ違うときに奇跡が起こるという映画のアイデアはどこからきたのですか?
プロデューサーから「新幹線が出てくる映画を」という企画をいただきました。普段、電車の撮影は制約が多くてなかなか扱いにくい題材なので、「電車が撮れるぞ」と思って喜んで引き受けました。子どもの映画をつくりたいという思いとくっついて、小学生を主人公にしました。子どもが車両に乗った映像ではなく、電車に対する期待感を描こうと思って、子どもが新幹線を見に行く話を思いつきました。
−−主人公の航一(航基君)が住む製菓店を含めて、オールロケにこだわった理由は?
その土地の街並みが重要だと思ったので、オールロケにしました。兄弟が鹿児島と福岡で離れて暮らしているというリアリティーが欲しかったからです。航一の家のベランダから桜島が見えるという映像も欲しかった。
−−オーディションで選んだという「まえだまえだ」の2人が自然体でとてもいい雰囲気です。起用理由を教えてください。
オーディションでは900人近くの子どもに会いました。「こんなのあったらいいなという新幹線」と「起きてほしい奇跡」について絵を描いてもらったりしました。そのプレゼンの仕方を見ました。そのときの2人は、エネルギーがみなぎっていました。生き物としてのエネルギーというか、魅力がありましたね。彼らのキャラクターをいただいて、台本を作っていきました。
−−たとえば2人のどんなところを役柄に生かしましたか?
航基は周囲への観察力があって繊細な性格。旺志郎は天然で計算しない性格です。2人の個性の違いを生かして、映画の中で兄・航一は家族がバラバラになる前の記憶があっていろいろと悩んでいますが、弟・龍之介(旺志郎君)は両親がケンカしているところしか覚えていないという設定です。弟は男女問わずモテる役柄になっていて、新幹線を見に行くのに女子を連れて行きます。オーディションで「2人はどんなことでけんかするの?」と聞いたとき、「ポテチの取り合いで」と言いました。2人はポテトチップスの袋に残ったカスが好きなのだと。それを映画にも盛り込みました。
−−監督は台本を読ませないで子どもたちを撮影するスタイルをとりますが、今回もそうですか? 2人を撮ってみていかがでしたか。
今回も台本を読ませずに、現場でシーンを告げて芝居をしてもらいました。2人は勘が鋭いです。大人の前に立って何かをやることに物おじしなかったです。お芝居がとてもピュアで必死でした。
−−今作では大人は徹底的に脇役です。出番は多くないけれど、阿部寛さんら是枝作品に欠かせない顔ばかり。監督が気に入っている大人の脇役キャラは誰ですか?
みんな人物の背景を感じさせてくれて、存在感があります。やっぱりうまい役者さんたちなんだなあ、と……。そうですね、橋爪(功)さんが演じた(兄弟の)おじいちゃんのあり方が僕は好きですね。おじいちゃんの子どもの迎え入れ方と送り出し方に、ブレていない生き方が表れている気がします。橋爪さんと航基君のリハーサルのときの掛け合いを、そのまま生かしたシーンもあります。
−−桜島という自然とともに生きる人々と、監督の作品に共通する「生死」というテーマが含まれていました。大震災をへて、改めて今作について考えたことは何かありますか。
僕が映画に込めたメッセージは震災前も後も変わりはなく、「子どもの持っている可能性が大人をちょっと動かす話」に「世界は思い通りにならないこと」と「子どもの成長」を加えて描いたつもりです。公開後の映画は僕の手を離れて、観客の皆さんのものになる。見た人の中で何か“奇跡”が起こることでしょう。
<プロフィル>
1962年東京都生まれ。95年、劇場用初公開作「幻の光」でベネチア国際映画祭ほか多数の賞を受賞。04年、「誰も知らない」で主演の柳楽優弥さんがカンヌ国際映画祭で史上最年少主演男優賞を受賞して話題になった。監督作に「歩いても歩いても」(08年)、「空気人形」(09年)などがある。
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