池上彰:「日本は世界1位の被支援国」 久しぶりの登場で東日本大震災後の海外支援を解説

「なんとかしなきゃ!プロジェクト」の1周年企画トークイベントで話す池上彰さん
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「なんとかしなきゃ!プロジェクト」の1周年企画トークイベントで話す池上彰さん

 ジャーナリストの池上彰さんが6日、JICA研究所(東京都新宿区)で行われた国際協力広報プロジェクト「なんとかしなきゃ!プロジェクト」の1周年企画トークイベント「池上彰と考える『支援される日本、支援する日本』」(毎日新聞社後援)に出席し、来場者とディスカッションした。池上さんは4月いっぱいでレギュラー番組を降板して以来、久しぶりの登場となったが、定評のある分かりやすい口調で、東日本大震災をへて世界1位の被支援国となった日本が考えるべき開発途上国への支援や援助のあり方について解説した。

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 池上さんは大震災後に「海外への支援よりも国内の被災地への支援を」という声があることも紹介し、日本が貿易依存国であること、途上国が抱える問題はグローバルな問題で、人道的な理由があることを挙げ、「(途上国への支援は)日本の発展につながり、日本の将来の子供たちの将来のためになる。そういう視点を持った方がいい」と呼びかけた。

 「なんとかしなきゃ!プロジェクト」は、開発途上国の実情を伝え、市民参加型の国際協力活動を推進するプロジェクトでJANIC(国際協力NGOセンター)、JICA(国際協力機構)、UNDP(国連開発計画)が主催。著名人や有識者などが国際協力の重要性を説き、人々がそれぞれの立場で国際協力を行うきっかけ作りを目指している。10年7月27日に設立し、現在、ユニセフ(国連児童基金)親善大使の黒柳徹子さん、王貞治・福岡ソフトバンクホークス会長、俳優の塩谷瞬さん、モデルの知花くららさんら75人の著名人が名を連ね、企業など196の団体が加盟している。

 この日のディスカッションは、これまで世界5位の援助国であった日本が東日本大震災によって世界から資金や物資など約864億円の援助を受けて世界1位の被援助国になったこと、日本が支援をしてきた開発途上国から多くの支援が寄せられたことを受け、支援される国となった日本人が世界とどう向き合うべきかをテーマに開催。医師でNPO「地球のステージ」代表理事で、震災によって宮城県名取市で被災した桑山紀彦さん、経営コンサルタントのショーンKさん、元「TOKYO FM」アナウンサーの高柳恭子さんが出席し、池上さんと議論した。イベントには一般から約280人が無料で参加した。

 池上さんは今回の大震災でトルコ、イラク、ボツワナ、モルディブ、北朝鮮などの開発途上国から受けた支援を紹介。40年代後半から50年代初頭に日本が世界からの援助を受けた資金で、新幹線を開業したことや、戦後賠償の一環で援助を行ったこと、89年にODA(政府開発援助)の拠出額が世界1位となり、93~00年は世界1位であり、その後、拠出額が減少していることなど、日本のODAの歴史を示したほか、事前に寄せられた質問や来場者からの質問に答えた。

 池上さんは、近年の日本のODAの現状を「場当たり的で計画性に欠けている印象。政府に経営マインドがないのかな」と指摘。大震災後に「海外への支援よりも国内の被災地への支援を」という声があるといい、同様の趣旨の質問も受けた池上さんは、東アフリカの大干ばつを例に挙げ、「大勢の子供たちが餓死している。それを見ているだけでいいのかという人道的な理由。あのあたりは無政府状態になっており、テロの巣窟になりつつある。ソマリアの飢えを放置することはテロとの戦いというグローバルな問題にもかかわってくる。またソマリアのあたりは海賊が出現して、(それを避けるため日本の)貨物船が南アフリカの南を回っており、運送費がかかっている。船の保険料もものすごく上がっている。ソマリアの国内が安定しないと、貧しい人がてっとり早く海賊予備軍になり、海賊問題が解決しない。結果的に貿易依存国の日本にとって非常にマイナスになる」と話し、「東アフリカの子供たちの惨状を見て、あの子供たちを助けるためにやるべきことがある。それは日本の発展につながり、日本の将来の子供たちの将来のためになる。そういう視点を持った方がいい」と、継続した支援を呼びかけた。

 この日のディスカッションの様子は動画配信サイト「ニコニコ動画」の「ニコニコ生放送」で配信された。またディスカッションの後には「地球のステージ・東日本大震災と国際協力版」と題した桑山さんのコンサートが行われた。(毎日新聞デジタル)

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