暴れ牛「ブル」に8秒間乗り切って得点を競う、最も危険なスポーツといわれるロデオの一種「ブルライディング」。本場の米国でこの競技に挑戦し続ける一人の日本人・芝原仁一郎さんを追ったWOWOWのドキュメンタリー番組「ノンフィクションW 8秒に賭ける夢 ~サムライ・ブルライダー in USA~」が12日に放送される。単身、米国にわたり過酷な挑戦を続ける芝原さんに話を聞いた。(毎日新聞デジタル)
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「ブルライディング」は、競技場の中で去勢していない雄牛「ブル」にまたがり、8秒乗り切ってはじめて得点が与えられるというアメリカの伝統的なスポーツ。牛の暴れ方とライダーのテクニックをポイントで評価し、その合計点を競う。アメリカではプロ化もされている人気のスポーツで、多くのファンを熱狂させる半面、凶暴なブルを目の前に、大けがや命を落とすこともあり、ライダーは常に命の危険にさらされる。
「けがは多いですよ。首の骨を3回折っても、あごを粉砕されてもまだ挑戦する人もいる。打撲やねんざなどはけがのうちにカウントされないですね」と淡々と話す芝原さん。「危険といわれますが、僕らからしたら当たり前。たしかに亡くなる人もいます。僕のコーチも亡くなりましたが、死ぬのが怖くてやっている人はいませんね」と命知らずの発言も飛び出した。このスポーツの魅力は「いつも聞かれるけれど、困るんですよ(笑い)。楽しいからやってるだけなんですよね。こんなに面白い競技はないですよ。みんなに見てほしい」と生き生きと語る。
“暴れ牛”ブルについては「対戦相手ですけど、競技で高得点を出すには彼らの協力も必要なので、同じ競技者、アスリートとして見てますよね。全然可愛くはないです」と笑い、「ブルが予想しない動きをするから面白い。こいつに乗れるか、乗れないか毎回自分が試されているんです。こいつは確実に僕を落とそうとしてくる。向こうも必死ですよね」と両者の真剣勝負を表現する。
芝原さんとブルライディングの出会いは十数年前。社会人になって、夏休みにアメリカのダラスで見たロデオが印象的で、それがきっかけでブルライディングに挑戦しようと決めたという。もともとカウボーイになろうと思っていた芝原さんは「大学を卒業する時点で、2年で(そのとき入社が決まっていた)会社を辞めて、カウボーイになろうと決めていた。計画的な退職だったんです」と安定したサラリーマン生活を捨てて、カナダの牧場で生活を始めた。「カウボーイは一年中、外で生活するわけで、ビルの中でずっと働くサラリーマンになりたくないなと思って、こういう生活を選んだのかもしれないですね」と当時を振り返った。
その後、日本でアルバイトした資金を元手にカナダでロデオを学び、03年からプロの試合に参戦。米国各地で武者修行を続け、08年に正式なプロ資格を取得した。プロになって実感したのは「ブルのランクがアマチュアと違うし、プロの選手を見ているとレベルが高い。上には上がある」こと。「彼らの乗っているブルに初めて乗ったり、そういう体験をすると、さらに上を目指したい。どこまで行けるんだろうという疑問に自分自身で答えたいと思う」と力強く語った。
夢は米国最高峰の試合「ナショナル・ファイナル・ロデオ」で優勝してワールドチャンピオンになること。「そこにたどり着けるかどうかは分からないけど、(チャンピオンを)ゴールとして設定はしています。まだまだ(その目標には)遠いですね。今年のシーズンをやってさらに実感しました。でも、いつかは……」と思いをはせる。
最後に、番組名にも入っている「サムライ」について、「実は『サムライ』というのは嫌いなんですよ(笑い)。というのも、僕は『サムライ』という人を知らないし、その時代に生きていない。僕の知る『サムライ』は、武士で日本の文化を継承していて。(僕は)好きなことをやるため国を出て行った人間なので、やっぱり『サムライ』は名乗れないですよ。“ブルライダー”で十分です」と答えた。ただ、年を重ねるにつれ日本人ということを意識し始めたといい、「現地の人は日本人であるからゆえに、(僕のことを)覚えてくれる。ロデオの世界に入っていって喜んでくれる。僕を通して日本を知ろうとするんですよね。日本を代表しているという意識はないですけど、そこで“日本人”として振る舞わないと相手から誤解されるので、日本人ですというのを前面に出します。年を重ねるにつれて、そう思いますね」と締めくくった。
芝原さんを追ったノンフィクションW「8秒に賭ける夢 ~サムライ・ブルライダー in USA~」は、WOWOWで12日午後10時から放送。
<プロフィル>
しばはら・じんいちろう 71年生まれ。北海道出身。横浜商科大学卒業。94年の夏休みに訪れたアメリカで偶然見たブルライディングに強烈な印象を受け、挑戦を決意。翌年、カナダに渡り、ロデオスクールに通いながらブルライディングを学ぶ。03年からプロの試合に参加し、08年にプロ資格を取得。現在は、ユタ州を拠点に米国各地の試合会場を転戦する。
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