ちーすい丸:「キワモノの蚊を可愛いと思わせられたら」 ラレコさんインタビュー

フラッシュアニメ「ちーすい丸」制作者のラレコさん
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フラッシュアニメ「ちーすい丸」制作者のラレコさん

 キュートな丸い体を持つ蚊と、血を吸われるのが大嫌いなサラリーマンの攻防をコミカルに描いたフラッシュアニメ「ちーすい丸」のDVDが21日に発売された。作画、脚本、音楽、声の出演まですべて1人でこなしているというフラッシュアニメクリエーターのラレコさんに「ちーすい丸」とノブオの関係など制作秘話を聞いた。(毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 「ちーすい丸」は、オスなのになぜか人間の血を吸うのが大好きな蚊の「ちーすい丸」が、あの手この手を駆使して、平凡なサラリーマン「ノブオ」の血を吸うというショートストーリー。ラレコさんの「やわらか戦車」以来4年ぶりの新作で、ボサノバ調の軽快な音楽に乗せて、ノブオをからかいながら血を吸うちーすい丸と、血を吸われて空き缶のような音を立てるノブオの姿が印象的だ。

 −−「ちーすい丸」のアイデアはどこからきたのでしょうか?

 最初は落書きから始まったんです。それは「ちーすい丸」が始まるずっと前にあって。テレビの企画をやろうかとなったときに、そういえば蚊のキャラクターを描いたことあったよなってのがありまして(落書きを)もっとシンプルな形にしたんです。「やわらか戦車」も「ちーすい丸」もいわゆるキャラクターものとしては反則わざ的なものがあるじゃないですか。「蚊」なんてキワモノじゃないですか。ただ僕はあんまり可愛いものを作るのが得意じゃないって自分では思っていて、「戦車」であるとか「蚊」であるとかキワモノを可愛いと思わせられたら面白いかなっていうのがありまして。「やわらか戦車」のときにはこれをキャラクターとして展開して世界初の戦車のぬいぐるみが出せたら僕の中ではひとまず成功だと目標を決めたんですけれど、「ちーすい丸」のときも世界初の「蚊」ものを出せたら満足かな、みたいな気分で始めたところはありますね。

 −−サラリーマンの「ノブオ」のキャラクターはどうやって生まれたんですか?

 ノブオは、ある会社の社長さんに「サラリーマンっていうのは良くないんじゃないの?」って言われたんです。子どもたちに見せたいんだとしたら「ちーすい丸」と対峙(たいじ)するのは視聴者と同じ年齢層、女の子とかがいいんじゃないかと。僕は「ノブオ」じゃなきゃダメなんだということを言ったんですよ。なぜかというと、「ちーすい丸」が血を吸うとき頭頂部から血を吸う。“ハゲ”じゃないと具合が悪いんですよ。地肌に直接(刺しに)いきたいというのがあって。やっぱり(頭から)景気よくいきたいなっていうのがあって。それで必然的に“ハゲ”になったんです。大人のおっさんだな、ならばサラリーマンかなって。

 −−ほかのキャラクター、例えばノブオの“彼女”は何か設定があるのでしょうか。

 何となく出したんですよね。出してみて思ったのは、(ノブオは)“ハゲ”て丸くて、背もね、彼女より小さいおじさんじゃないですか。スラッとしたOLさんを連れて歩いているのもなんか可愛いなって、なかなかやるじゃんって。本当に彼女がノブオのこと好きなのかっていうのははっきり描いているわけじゃないんですけれど。

 −−おばあちゃんは?

 おばあちゃんは大家さんで、ノブオの部屋の下の階に住んでいる大家さんで、強い“ババア”を描きたいなっていうのがあって。今どきこんなおばあちゃんいないですけれどね。腰の曲がった、かっぽう着を着た可愛いおばあちゃんを描きたいなというのがあったので。

 −−せりふがないのが特徴でもありますが、何か意図はあるのでしょうか。

 せりふがないのをやってみたいというのがあったんです。「ちーすい丸」にしゃべらせたくなかった。しゃべったら可愛くないなっていうのがあったので、何を考えているのか分からない感じにしたかった。「ちーすい丸」がしゃべらないから、ほかのやつ(キャラクター)もしゃべらなくていいだろう、みたいな感じで。あとはしゃべらないで見せるっていうことに挑戦したいという気持ちがあって。やっぱり難しいんですよ。絵だけで伝えるというのが。そういうのはやってみて手応えを感じましたね。できることが一つ増えた感じで。

 −−作画、脚本、音楽とすべて1人でやっていらっしゃいますが。

 「やわらか戦車」をやったときは予算がついていない状態だったので自分でやるしかないっていうのが基本にあって。1人でやりたいという気持ちもあるんですが、常に1人でやっていると1人でやることの限界も常に感じて。何人かで化学反応みたいなのがある中でやった方が絶対面白くなるだろうなというジレンマも抱えながらやっています。「1人でやらなきゃ!」とは思っていないです。

 −−音楽はボサノバ風でとてもおしゃれですよね。

 「ちーすい丸」っていう名前が決まっていて、「チッチッチ」とか「スッスッス」っていうスキャットで持っていきたいなというのがあって。「チ」とか「ス」とかウィスパーボイスみたいなイメージがあって、ボサノバしかないだろう、っていうことだったんですけれど。作るときは「ボサノバって何だ」っていうところから始まって、どんなコードを使うのかとか、ギターの押さえ方から勉強して、初めて作ったボサノバです。ブスって差して血を吸う血なまぐさい描写なのでそれを中和する意味でも透明感のある可愛い感じの響きがほしいなと。

 −−いつも最後には「ちーすい丸」に血を吸われて終わるノブオですが、時には「ちーすい丸」に布団を掛けてあげたり、2人の関係を見ているとほっとさせられるものがあります。

 ケンカする仲でも、何となく寄り添っている感じが作っていても気持ちがいいし、見ている方も気持ちがいいなというのがあるし、「ちーすい丸」とノブオの関係性は“子ども”と“親”の関係性をかぶせているところがあって、僕も今小さい子どもがいて、子どもはわがままだし親の都合を考えないし、(親は)相手をしているだけでほかは何もできない。“吸われている感”というのがあって、空っぽにされるんですよね。自分の状況とかオーバーラップさせつつ思い入れていったことはありますね。ノブオは男なんですがお母さん。親子関係というよりは子育てしているときの“吸い取られ感”。全部吸い取られちゃう、「心血を注ぐ」って言いますもんね(笑い)。

 −−「まんたんウェブ」の恒例の質問なんですが、「初めてハマったポップカルチャー」について教えてください。

 (「ドラえもん」の)「のび太の恐竜」っていう小学1年生のとき、「コロコロコミック」に3号連続で載ったんですよ。140ページの長編でまだ映画ができていなくて。長編の物語を見て、物語が閉じるときの寂しさ、終わっちゃう感、扉がギーッと閉まって終わっちゃう寂しさを感じたのはその「のび太の恐竜」が最初で、“物語の快楽”を味わったのがそれが最初かなと。キャラクターの感情に寄り添いながらストーリーを最後まで読んで感動得たというのがそれが最初かもしれないですね。

  −−DVDがいよいよ発売されましたが、ファンに向けて一言お願いします。

 (DVDとして)まとまってくれるのはうれしいし、張り切り過ぎっていうくらい張り切っちゃった部分があって。特典映像とか絵描き歌とか。作らなくていいようなものをずいぶん作ったような気がしますね。通常は1分間、へたすると45秒間という制約の中でやっていて、たまっているものもあるんですね。“やり切れていない感”というか。今回は長尺とらせてもらって普段の「ちーすい丸」のオンエアでは語れない、作品を総括するようなエピソードを作りたいなっていうのがあって。そういったものを作れたので“やり切った感”はあります。メニュー画面からエンディングまで作り込んで趣向を凝らしたので隅々まで楽しんでもらえたらと思います。

 DVDは本編46分に未公開映像などの特典映像、初回特典としてポストカードとステッカーがついて2625円で発売中。

 <プロフィル>

 1971年生まれ、茨城県出身。フラッシュアニメクリエイター。脚本、作画、音楽、声の出演まで制作にかかわることをすべて一人で手がける。代表作に「くわがたツマミ」、「やわらか戦車」、「やわらかアトム」など。ネット発のアニメ「やわらか戦車」では5万枚のDVDセールスを記録した。ラレコさんが初めてハマったポップカルチャーは「ドラえもん のび太の恐竜」。「小学1年生のとき、『コロコロコミック』に3号連続で載ったんですよ。140ページの長編でまだ映画ができていなくて。長編の物語を見て、物語が閉じるときの寂しさ、扉がギーッと閉まって終わっちゃう寂しさを感じたのはそれが最初で、“物語の快楽”を味わったのもそれが最初かなと。キャラクターの感情に寄り添いながらストーリーを最後まで読んで感動を得ました」

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