昨年、NHKのBSプレミアムで10話にわたってドラマ化された、沖縄出身の作家・池上永一さんのベストセラー小説「テンペスト」。このたび劇場版としてスクリーンによみがえった。小説を執筆中には、展開の起伏の激しさに体がついていけず入院までしたという池上さんに、完成した作品について話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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小説「テンペスト」(全4巻・角川文庫)は、08年に単行本が刊行され、井上ひさしさんや筒井康隆さん、有川浩さんら多くの作家が絶賛した歴史小説で、現在までに100万部を売り上げている。ドラマは中国の清と日本の薩摩藩の間で翻弄(ほんろう)される19世紀の琉球王国を舞台に、女であることから学問を禁じられた仲間由紀恵さん演じる少女・真鶴(まづる)が、父・孫嗣志(そん・しし/奥田瑛二さん)の願いをかなえるために宦官(かんがん)去勢された男性で、昔、中国などで後宮に仕えた役人)・孫寧温(そん・ねいおん)として性を偽り、政治の世界に身を投じていく波瀾(はらん)万丈の物語だ。
これまで、自身の著作の映画化の企画を何度か持ちかけられ、そのたびに「お蔵入り」を経験してきたという池上さんは、今回の「テンペスト」の映画化の話も、「実現不可能だろう」と聞き流していたという。ところが、映画化はもとより、舞台化とドラマ化が動き出し、最後に、池上さんいわく、「休眠中だった映画が目覚めた」という。
「僕の作品の中でなら、『バガージマヌパナス わが島のはなし』あたりの、ローコストでできそうなものを選べばいいのにと思いましたよ(笑い)。舞台も現代だから特撮など使わないで済みますからね。ところが、『テンペスト』は竜が出てきたり、衣装やカツラやセットなど一番お金がかかる。それが先に映画になるんですから、皮肉なものですよね」と映画化の話を持ちかけられた当時のことを振り返り、池上さんは笑う。完成した映画については、「ダウンサイジング(小規模化)はしていますが、原作が持つスピリットは生きていて、嵐のような映画になっています。最高です」と大絶賛。中でもお気に入りのシーンはラストで「見る人の側に立った心遣いが感じられた」と編集のうまさをたたえる。
今作は、3Dであることはもとより、特別許可を取って実際の首里城で撮影が行われたことも話題になっている。池上さんは、もともとマンガ家を目指していたというだけに映像をイメージすることは得意だ。その池上さんが「首里城の中にも御内原(ウーチバラ)という復元されていない場所があるんですが、そこでの女官たちの世界などは、僕の想像を超えていました」というのだから、完成度の高さは想像がつくだろう。
お気に入りのキャラクターは、高岡早紀さん演じる強い霊力を持つ王族神の聞得大君(きこえのおおきみ)と、GACKTさんが演じる清国の宦官・徐丁垓(じょ・ていがい)を挙げた。とりわけ高岡さんについては、「敵は強くないと主人公に寄り添えなくなりますが、その点、高岡さんが演じる聞得大君は最強。高岡さん再ブレークのきっかけになるのではないでしょうか」と大変お気に召したようだ。
12年は沖縄返還40周年に当たる。公開時期が重なったことを指摘すると「奇遇ですね」と答えた。池上さんによると、原作はジェンダー論として読まれることもあれば、外交論として読まれることもあるという。さらに、「歴史論としてや、近代日本の解決していない問題として読み解く人もいます」。同様のものを映画にも求める人がいるかもしれない。だが池上さん自身は、「どう受け止めてもらってもいい」と冷静だ。そして、「あなたの心の中に『テンペスト』が入り込んで、それを踏まえて何かいいたいと思ったとしても、僕にそれは制限できません。『源氏物語』みたいですねという人もいますから、それもありです。沖縄40周年とからめて政治的なメッセージとして読み解く人がいても、それもいい。その解釈は違いますよということは、僕にはありません。なぜならこれは、“ザッツ・エンターテインメント”なのですから」とメッセージを送った。映画「劇場版テンペスト3D」は28日から全国で公開中。
<池上永一さんのプロフィル>
1970年生まれ、沖縄県石垣市出身。94年、早稲田大在学中に「バガージマヌパナス わが島のはなし」で第6回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、作家デビュー。98年、「風車祭(カジマヤー)」が直木賞候補となる。沖縄の伝承と現代社会を融和させた独特の世界観を確立。他の著書に「ぼくのキャノン」「レキオス」「シャングリ・ラ」「トロイメライ」など。初めてはまった日本のポップカルチャーは、高校時代聴いていたFM沖縄の番組「ポップンロールステーション」。「(米国人と日本人の)ハーフのケン&マスミというDJがいて、彼らがウチナーグチ(沖縄の言葉)と英語と日本語をちゃんぽんに語っている自由さがすごくよくて、ずっと聴いていました」
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