黒川文雄のサブカル黙示録:中国コピー事情 欲望とハイテクの危ういアンバランス

 「ミスター円」の異名で知られる榊原英資さんによれば、かつての「欧米列強」の経済の隆盛は終わりを迎え、歴史のサイクルの中で中国、インドが中心になりつつある……という指摘があります。中でも、好調な中国経済ですが、日欧米で著作権に関して大きな軋轢(あつれき)が起こっています。最近はテレビでもよく取り上げられるようになり、ご存じのかたも多いと思います。

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 理由の一つは、中国が国際的な著作権を規定した条約に加盟しておらず、国内法に則り対応・処理していることにあります。諸外国からの強い抗議は「内政干渉」ともいわれかねず、各国や著作権保有者は苦慮を強いられることになっています。

 さて、以前は家電、オートバイなどのハードウエアや生活必需品などで類似品製造の事例が多く報道されましたが、そちらは落ち着く一方で、ソフトウエア、商標権などカタチのないものに侵食が進んでいるのが実態です。最近では、枝野幸男官房長官が国会で、中国の商標権登録のひどさと日本の弱腰対応に触れ「(国家としての)プライドはないのか!」と抗議したことは記憶に新しいと思います。

 さて、問題はこれらの著作権侵害が現在進行中であり、むしろ加速度を増しています。確かに過去に文明や文化が成長して進化していく中でコピー問題はありました。日本だって、かつて戦後を経て、朝鮮戦争特需のころには多くのコピーや模倣商品を生産し、海外に輸出してきた事実は否定できません。しかし、国内総生産(GDP)で日本を抜き世界2位になった大国が、立場を最大限に利用して、都合のいい解釈をする。その姿勢は、世界から尊敬されようもありません。

 我々のようなエンタメ業界で働くものは、中国のやり方には憤りを超えて、あきれています。音楽の命ともいえるメロディーラインをコピーして歌詞を変えて発売したり、日本の有名なブランドを商標登録してしまうなど、枚挙にいとまがありません。

 オンラインゲームもしかりです。有名な話ですが、かつて「カウンターストライク」のようなオンラインFPSゲームがブームになったとき、ユーザーが活用した「ICQ」というメッセンジャーソフトがありました。イスラエルの会社が開発したもので、非常に優れたソフトでした。ところが、中国の騰訊公司(テンセント)は「OICQ」というインターフェースを含めてそっくりなメッセンジャーソフトを出しました。ところがこのソフト、中国のユーザーの支持を得て、中国の人口に匹敵する会員数を獲得しました。

 私がビジネスで訪れて実感したことですが、中国ではインターネットでタダは当たり前で、「いいものがあれば、それをコピーするのが悪いのか?」という雰囲気すらあります。本能に忠実な人間の欲望、それを加速させるハイテクツール。このアンバランスが、中国の危うさを増幅しているのではないかと感じています。

 ◇著者プロフィル

 くろかわ・ふみお 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、映画・映像ビジネス、ゲームソフトビジネス、オンラインコンテンツ、そしてカードゲームビジネスなどエンターテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ブログ「黒川文雄の『帰ってきた!大江戸デジタル走査線』」(http://blog.livedoor.jp/kurokawa_fumio/)も更新中。

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