時空覇王伝:歴史シミュレーションのタブーに挑戦 開発者に聞く

 「十英雄」徳川家康のカード
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「十英雄」徳川家康のカード

 アーサー王や坂本竜馬、マリー・アントワネットなど歴史上の英雄が集結して戦う新作ブラウザーゲーム「時空覇王伝」の正式サービスが9月から始まった。ゲームを開発したのはホスティングサービスなどサーバー事業を手がけるASJ(埼玉県川口市)の執行役員で新規事業企画室長の福津浩さん。かつて人気シミュレーションゲーム「三國志」や「たけしの挑戦状」などの開発に携わったことがある福津さんは同ゲームであえて歴史シミュレーションのタブーに挑戦したという。(毎日新聞デジタル)

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 ◇世界の英雄300人以上

 「時空覇王伝」は、プレーヤーがシーザーや坂本竜馬、卑弥呼ら10人の英雄の1人に仕え、英雄を時空帝国の覇権に導くシミュレーションカードバトルだ。プレーヤーは、「十英雄」に属する領主(時空豪族)として、歴史上に登場する英雄や物語のキャラクターたちを配下に置き、さまざまな戦術を駆使しながら時空帝国の覇王を目指す。

 ゲームの流れは、戦いに必要な資材と兵力を準備する「内政」、時空戦参加を表明し、拠点となる「本営」に軍などを配備する「時空戦準備期間」、ほかの時空豪族と戦う「時空戦」で、プレーヤーはすべての英雄の共通の敵である「暗黒帝国」とも戦いながら、ほかの時空豪族との戦いに勝ち抜いていかなければならない。古今東西の偉人から神話に登場する美少女まで300人以上が、「英雄カード」として登場するのが特色で、カードのイラストは、refeiaさんによる「かぐや姫」、成庵さんの「ラムセス2世」など、ライトノベル界やアニメ業界など活躍する有名イラストレーターが手がけている。

 ASJは84年創業し、96年からホスティングサービス事業を展開するマザーズ上場会社。オンラインゲームへの進出は06年からで、プロ野球選手の活躍を数字化して評価する自社開発の格付けサービス「BBR(Baseball Ratings)」を利用し、選手の実際の活躍が即座に反映するオンラインゲーム「ドリームベースボール」を始めたのがきっかけ。同ゲームは、野球ファンを中心に人気を集めており、今年でサービス7年目に突入したオンラインゲームの人気作の一つで、それに続く同社のゲーム第2弾が「時空覇王伝」だ。

 ◇ネット時代だから生まれた

 開発を手がけた福津さんは、かつて光栄(現コーエーテクモゲームス)に在籍し、歴史シミュレーションゲームの先駆けとなった「信長の野望 全国版」や「三國志」を手がけたゲームクリエーターだ。「三國志」は偶然に中国を訪れ、北京の故宮博物院や万里の長城など、史跡の圧倒的な存在感に感動した福津さんが、帰国後に企画を持ち込んだのがきっかけだったという。

 当時はインターネットもない時代で、開発チームは、三国志について横山光輝さんのマンガや吉川英治さんの小説に目を通し、図書館に通って資料を集めて開発したという。福津さんは「『三国志』は、日本にまとまった資料があったからできたけれど、他の時代は資料がないからそうできない。『時空覇王伝』は登場人物が膨大なので、(資料がすぐに探し出せる)ネット社会の今だからこそ生まれたゲーム」と話す。

 ◇歴史の魅力は「人」

 「時空覇王伝」の魅力は、曹操や徳川家康など実在の人物からかぐや姫、シャーロック・ホームズなど架空の人物までを取り込み、時間や場所を超えて古今東西の偉人やキャラクター300人以上が登場することだ。福津さんは「注目されにくい英雄も登場させることができる。実は、私は中国の春秋・戦国時代が好きなんですが、この時代は日本では知っている人が少ないのでゲーム化してもヒットしにくい。しかし、諸葛孔明の憧れの人物だった楽毅や管仲などすばらしい英雄も、時空覇王伝なら登場させられる」と明かす。ゲームには福津さんが宮城谷昌光さんの歴史小説「沙中の回廊」を読んで魅せられたという春秋時代の晋の宰相・士会(しかい)も登場する。

 福津さんは「元々歴史好きということもあるが、歴史の魅力を突き詰めると『人』そのものに行き着く。人が持っているバックストーリーに魅力を感じるんです。たくさんのキャラクターを登場させることでより幅広いユーザーを取り込みたいというのはもちろんあるけれども、一番はやはり人が好きだから。学校で歴史を学ぶ中高生もゲームから人(キャラクター)を知って、自分たちが知らない時代のことや歴史、小説などに興味を持ってくれたらと思う」と語る。

 ◇パラメーターの設定に苦労

 「時空覇王伝」には「三國志」と同様、おのおののキャラクターにパラメーター(能力の数値)が設定されているが、苦労したのはこの点だという。「例えばナポレオンとハンニバルはどちらが強いんだろうか、とかいうところで悩みました。実際に戦ったわけでもないから、どちらが強いかというよりどちらに思い入れがあるかという話になるんです。でも悩みながら楽しく作っています」と笑う。また、ゲーム名にふさわしく従来の歴史シミュレーションのタブーにも挑戦した。ゲームではSF仕立ての設定を利用して、ワープやバリアなどの未来の武器や技術があったりする一方で、弓矢などの旧来の武器も登場する。福津さんは「時代考証をあえてせず、いろいろな時代のものを融合させた。それでいて自然に受け入れられる世界観を作れたと思う」と自信をみせる。

 今後の展開としては、同社が運営する自作の小説をオンラインで公開・販売することができる無料SNS「のべぷろ!」と連動し、同サイトで公開された小説に登場した特に人気のキャラクターをゲームに登場させることも構想しているという。福津さんは「オンラインゲームの楽しさは、世に出したゲームでも、改良したり要素を追加できること。作り手とユーザーのキャッチボールが面白い。そしてゲームに登場するキャラクターを見て、ユーザーが調べて歴史に興味を持ってくれたらクリエーター冥利に尽きますね」と話している。

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