「カティンの森」などで知られるポーランドの映画監督アンジェイ・ワイダさんによる「菖蒲」が20日から公開された。ベルリン国際映画祭で「映画芸術の新しい展望を切り開いた作品」に授与されるアルフレード・バウアー賞に輝いている。
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映画は三つの層から成り立っている。一つは、女優のクリスティナ・ヤンダさんが本人として登場する層。もう一つが、ヤンダさんがマルタという女性を演じるポーランドの作家ヤロスワフ・イバシュキェビチの短編小説「菖蒲」を基にした物語の層。そこでは、病に侵された人妻マルタが若い青年に引かれていく。そして、本作の撮影現場風景の層。その三つが影響を及ぼしあい、1本の映画へと形作られていく。
当初は、小説「菖蒲」をベースに物語をつむぐはずだったという。ところが、撮影半ばにヤンダさんの夫であり、ワイダ監督の盟友でもあった撮影監督エドバルト・クウォシンスキさんが病死し、それによって作品は大きく変わっていった。映画が始まってまもなく、ホテルの一室で目覚めたヤンダさんが話し始める。最愛の夫の死に至る軌跡と自身の心情。その静かなモノローグに、罰当たりではあるが、このままでは睡魔に襲われると思った。ところがその後、ワイダ監督による撮影現場に切り替わり、撮影開始を告げるカチンコが鳴った途端“覚醒”。あとはただただ、不思議な構造の、愛する人を失い、絶望しながらも生きようとする人間の物語に見入った。ちなみに、ヤンダさんが夫との思い出を語る部屋の内装は、米国の画家エドワード・ホッパーの絵画を基にしつらえられたという。20日から岩波ホール(東京都千代田区)ほか全国で順次公開中。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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