桜 稲垣早希:女優魂目覚めた? 観客参加型の異色映画「デルシネ」で主演

沖縄国際映画祭の特別上映プログラム「デルシネ『エル・シュリケンVS悪魔の発明』」の後藤ひろひと監督(左)、主演の桜 稲垣早希さん
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沖縄国際映画祭の特別上映プログラム「デルシネ『エル・シュリケンVS悪魔の発明』」の後藤ひろひと監督(左)、主演の桜 稲垣早希さん

 お笑い芸人の桜 稲垣早希さんが、沖縄国際映画祭で特別上映される観客参加型上映プログラム「デルシネ『エル・シュリケンVS悪魔の発明』」の主演を務め、後藤ひろひと監督と共に23日、インタビューに応じた。「デルシネ」とは、見るだけではなく“出る(出演する)”シネマのことで、当日映画を見に来た観客がエキストラとして出演、その日中に映画を完成させて上映するという前代未聞の企画。優秀な新人捜査官役を演じ、女優業に「目覚めました!」と語る稲垣さんと後藤監督に、作品の魅力を聞いた。(毎日新聞デジタル)

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 「デルシネ『エル・シュリケンVS悪魔の発明』」は、エキストラの出演シーンをあらかじめ除いて撮影した短編映画に、上映当日に来場した観客をエキストラとして演技指導して、沖縄のさまざまな場所で撮影したシーンを組み合わせ、その日のうちに完成させるという観客参加型の映画。稲垣さん演じる政府特殊機関に配属された新人捜査官・南あかねが、正義の覆面レスラー「エル・シュリケン」とタッグを組み、凶悪組織「みなしね財団」の世界征服計画を阻止する……というストーリーが展開する。

 この手法を、15年前に一度試したことがあるという後藤監督は「今は家で映画を編集できて、それをそのまま映画館で公開したり、テレビ番組にしたりできる時代。それなら、上映当日に撮って、その日にその映像をはめ込んでも映画ができる」と説明。「映画なのに、(出演した)観客がスクリーンを指さして笑ったり、立ち上がって拍手をしたりするんです。インド映画の映画館のような奇跡が起こるんですよ。映画に自分が出てきて、自分が何を演じていたかが、完成した映画を見て初めて分かる。その喜びを知ってほしい」と熱く語った。

 上映当日まで未完成という特殊な映画に出演した稲垣さんは「最初デルシネの意味が分からなくて、(飛び出るという意味の)3Dだと思っていた。『お客さんが出る』と聞いて、半信半疑で撮影が始まっちゃった……」と笑った。捜査官役については「今まで、おバカな役しかしてないので『すごい!』と思った。私は後藤さんには知的タレントに見えてるんだ。『新しいのを開拓した』って思いました!」と喜んだが、後藤監督から「『優秀な捜査官』という印象が全くない人を探しました」と、起用理由を明かされると、「え~!? すごくしっくりきていると思ったんですけれどね……」と肩を落とした。

 それでも「撮影はずっと楽しかったです」と笑顔の稲垣さん。「他の作品ならめっちゃ怒られるところを、『なんか面白いからOK』と、言ってもらえた。こういう作品に向いてるんだなと思った」と振り返り、「(この作品で)女優魂が目覚めました。小さな女優がここに誕生!」と宣言。「演技で一番いいところは、自分じゃない誰かになれるところ。アホで、原付き免許の試験も2回落ちた私が、こんなエリート捜査官になれて、それを完璧に演じることができる」と演技の魅力を夢中で語り、「今度は峰不二子みたいなセクシームンムンの人にチャレンジしたい。可能性は無限です!」と自信を見せた。

 一方後藤監督は、稲垣さんの演技力については「朝起きて、スーツをスッと着るシーンで手を通せなくて3回くらいNGが出た。誰の手だよ! 常に驚きと発見ですよ……」と厳しくダメ出ししたが、「早希ちゃんは、興味のある女優ではありますね。出演者全員なんか芝居がバラバラ、という世界観にしたかったんです。この世界観には必要な女優だった」といい、「今度オファーするなら、(デルシネの)2でしょ。それまでに演技力をつけて!」と、“女優”稲垣さんにエールを送った。

 同企画は、沖縄国際映画祭で24~27日の間、1日1回開催。集まった観客に演技指導をして、沖縄のさまざまな場所で撮影したあとすぐに編集を行い、その日の夕方に完成作品を上映する。後藤監督は「早希ちゃんたちも頑張ってくれたけれど、主役はお客さん。映像で見る自分たちに笑ってほしい。出演した役者と必ず面白いギャップを見られる」と熱弁。「出演した人の中にいるのが自分だというのが一番面白い。3D映画の時代は終わったんじゃないかと思います。来年はこの映画祭の中心企画になる」と自信を見せた。稲垣さんも「いまだにちゃんと理解してない。何が完成するかが全く分からないので、めっちゃ楽しみ」と期待を寄せていた。

 ◇桜 稲垣早希さんのプロフィル

 さくら いながき・さき。1983年、神戸市生まれ。07年2月に、お笑いコンビ「桜」を結成。07年の「M−1グランプリ」で3回戦に進出するなど活躍していたが、09年末に相方がコンビを卒業し、ピン芸人として活動。アニメ「エヴァンゲリオン」のヒロイン、アスカの物まねで知られ、バラエティー番組「ロケみつ」(毎日放送)でブレーク。「R−1ぐらんぷり」で4年連続で準決勝に進出している。最近ではバラエティー番組などでナレーションもこなすなど、芸の幅を広げている。

 ◇後藤ひろひと監督のプロフィル

 ごとう・ひろひと。俳優・作家・演出家。87年に劇団「遊気舎」に入団し、89~96年の退団まで、二代目座長として活躍後、98年に川下大洋さんと「Piper」を結成し、劇作活動のほか、数多くの舞台で脚本や演出を手がけ01年に「王立劇場」旗揚げ。08年には映画「パコと魔法の絵本」の原作を手がけた。劇作のほか、テレビや映画など多岐にわたって台本を提供、出演している。

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