ラノベ質問状:「デスニードラウンド」 マスコットの本性を暴くギリギリな企画 ネズミも…

アサウラさん作、赤井てらさんイラストの「デスニードラウンド」(オーバーラップ文庫)のカバー
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アサウラさん作、赤井てらさんイラストの「デスニードラウンド」(オーバーラップ文庫)のカバー

 話題のライトノベルの魅力を担当編集者が語る「ラノベ質問状」。今回は「デスニードラウンド」(アサウラさん作、赤井てらさんイラスト)です。オーバーラップ文庫編集部の五十嵐みよさんに作品の魅力を聞きました。

ウナギノボリ

 −−この作品の魅力は?

 私たちの日常の中には、たくさんの“マスコットキャラクター”が存在しています。最近は“ゆるきゃら”のようなご当地マスコットキャラクターもいますね。その多くは可愛らしい笑みを浮かべているのですが、その張り付いたような笑顔を「不気味だなあ」と思ってしまう瞬間って、ありませんか? もしかしたらあの笑顔の裏には、思いもつかないような本性が隠されていたりして……。

 この作品は、借金返済のために学生と傭兵(ようへい)の二足のわらじを履くことになった主人公・ユリが、苦境に立たされ困難に遭遇しながらも、未来への夢を失わず、泥まみれになって生き抜いていく物語です。ユリが生き抜くために手にしたものが“銃”で、彼女の前に立ち塞がった敵が“マスコットキャラクター”だったというところから、空前絶後のストーリーへと展開していきます。

 目の前に硝煙が立ち上りそうなリアルなガンアクション、空腹を直撃する食事シーン、ぶっ飛んだ傭兵仲間たち、ひたむきに真っすぐなユリ……。まるで一貫性の見当たらないそれらの要素を、圧倒的な筆力とテンションでつづり上げるアサウラ先生に畏怖(いふ)の念すら抱く、間違いなく本年度最も刺激的な、唯一無二のライトノベルです。

 −−作品が生まれたきっかけは?

 レーベル創刊に向けて多くの作家さんにお会いさせていただく中で、アサウラ先生とも「一緒に面白い悪だくみをしませんか?」とお話をさせていただく機会がありました。そのときに「ほかの出版社さんや作家さんに話をしても、絶対に無理だといわれる企画がある」と披露してくださったのが「デスニードラウンド」の概要で、私自身が長年キャラクタービジネスに携わっていたこともあり、大変面白く、「企画書で拝見させてください」とお願いしたところ、翌々日にプロットに書き上げて送ってくださいました。

 そのプロットの冒頭には、作品テーマとして「現代の日本における身近なマスコットキャラクターたちの本性を暴き、かつ、それを既存の銃火器と勇気と狂気で打破するハートフルストーリー」と書かれていたのですが、内容が危険すぎてちっともハートフルさが伝わってこない……。心が温まらない(笑い)! それが逆に好奇心と挑戦心を大いに刺激されまして「やりましょう!」とすぐにお会いしに行きました。アサウラ先生の「これがオレのハートフルストーリーなんである」という心意気にほれたんだと思います。

 −−作家さんとイラストレーターさんはどんな方でしょうか?

 アサウラ先生は、作中に登場するすべての銃のモデルガンを自宅にそろえられるほどのガン好き、ミリタリー好きでいらっしゃいます。そして赤井先生は、そのモデルガンすべてを手に持って触って、実際の大きさや質感を確かめてからイラストにおこされるほど、非常に高い意欲と技術力をおもちのイラストレーターさんです。

 イラストレーターさんに関してアサウラ先生からは「うそがないように銃器を描いてくださる方」ということだけリクエストをいただいていました。こちらとしては、当然ながら主人公のユリを可愛くしてほしいし、敵も魅力的なビジュアルにしてほしい……。銃と可愛い女の子と不気味に笑うマスコットキャラクターのすべてを遜色(そんしょく)なく描けるイラストレーターさんを探すというのは、まるで宝探しのような状態でしたが、運よく赤井先生に出会うことができて幸せでした。

 ちなみに赤井先生は、最終的にタクティカルベストもニーパッドも装着されて、まさに“登場人物の気持ちになって”作画してくださいましたが、2巻でユリがメイドのコスプレをすると分かったときに「資料としてメイド服の支給はありますか?」と真面目にお問い合わせくださいました。いつか赤井先生のメイド服姿の写真が流出するかもしれません!?(※赤井先生は長身美形の男性です)

 −−編集者として、この作品にかかわって興奮すること、逆に大変なことについてそれぞれ教えてください。

 “マスコットキャラクターを撃つ”というコンセプトの時点ですでに大興奮なのですが、原稿を拝読していると、銃撃戦シーンやユリが口にする食事がまざまざと目の前に浮かんでくるのです。イラストがつくとさらなる臨場感をもって浮かんできます。まるで物語を読みながら脳内で長編映画が再生されているような感覚を味わうことができるので、本当に興奮します。逆に大変なのは「実際に映像になったものを見てみたい!」という欲求を抑えることです。アサウラ先生もあとがきでおっしゃっていますが、“いろんな意味で映像化不可能作品”という「デスニードラウンド」ですので(なぜ映像化不可能なのかは、ぜひ読んで確かめてください!)、今は脳内映像で我慢しています。

 −−今後の展開は?

 創刊と同時に投げ放った豪速球を受け止めてくださった勇ましい読者の皆さまの応援を受けまして、現在2巻の制作に入っております!

 ロナウダ・ワックマインドと死闘を繰り広げた“ワック事件”から1カ月。ロナウダという規格外の化け物との戦いで大きく成長し、傭兵としてのプロ意識も備わってきたユリに、新たな困難とマスコットキャラクターが襲いかかります。1巻では「それしか方法がなかったから」と銃を握ったユリが「誰かを守りたい」という自らの意思でそれを撃ち放つ第2巻(ラウンド2)です。果たして「何」から「誰」を守ろうとするのか……。お届けできる日を楽しみにしていてくださいね。

 そして物語は“埋め立て地”へと続いていきます。最後に戦うべき相手はもちろん、あのネズミのキャラクターです! 松倉チームの勇姿に乞うご期待ください!

 −−読者へ一言お願いします。

 どんなに奇抜な敵が立ち塞がったとしても、ユリは真っすぐに銃を構えて、松倉は冷静に采配(さいはい)を振って、武島はたばこをくゆらせながら照準を合わせて、大野はばかをしながらもここぞというときにはキメて、その後は何事もなかったかのように食卓を囲んで腹を満たす松倉チームだと思います。読者の皆さまもどうぞ、この先どのような敵が登場してもその異形の衝撃に心惑わされることなく、ユリと松倉チームの生き様を最後まで見守り、“ついついやりすぎちゃう”本作を存分に楽しんでいただけたらうれしいです!

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