テレビアニメ「忍たま乱太郎」の実写版映画「忍たま乱太郎 夏休み宿題大作戦!の段」が全国で公開中だ。尼子騒兵衛さんのマンガ「落第忍者乱太郎」(朝日新聞出版)が原作で、戦国時代の忍術学園を舞台に、一流の忍者を目指す乱太郎やきり丸、しんべヱら生徒たちが修行に励む姿などを描いている。11年7月に劇場公開された三池崇史監督の第1弾に続き、実写化第2弾となる今作のメガホンをとったのは「仮面ライダーアギト」「仮面ライダー555」「小さき勇者たち~ガメラ~」などで知られる田崎竜太監督。独特な世界観や忍者のアクション、個性的なキャラクターのキャスティング、第1弾から引き続き主人公の乱太郎役を演じた加藤清史郎君の印象などについて聞いた。(遠藤政樹/毎日新聞デジタル)
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ギャグとシリアス、歴史的な舞台と現代といった相反する要素が融合した独特な世界観を持つ「忍たま乱太郎」。作品へのイメージを田崎監督は「マンガもアニメも長い間やっているという印象もありましたが、僕は(マンガの連載が始まった)86年はもう働いていたので、詳しくは知りませんでした。その後クランクイン前にいろいろ勉強し、例えばミュージカルなどを見に行くとほぼ99%女性客で、女性に人気があるとか、いろいろな情報が入ってきました」と語る。また、自身が作品に関わったことには「(今回の映画は)がっちり原作の世界の中でやるというよりは、少しハミ出してる作品。『忍たま』の世界は原作からアニメで、声優さんが演じるなどして、ちょっと広がったところがあると思います。そこからミュージカルでまた広がり、今回の映画でまた広がる。ただし、芯を外さなければ、ミュージカル、アニメ、実写版でやるべきところはあるのかなと思いました」とアプローチの仕方を明かす。
監督してのオファーを受けたときの印象を、「三池監督がやられた続編ということで、非常に光栄だなと思いました」と感想を述べた。2度目の実写化ということで「(劇中に)出てきているのが誰なのかという作業を多くするよりは、登場人物を絞りました。夏休みという話なので、授業風景よりは補習という形。少ない人数でどんな話が作れるかというところでやってみました」と製作当初の気持ちを振り返る。また、ギャグとシリアスのバランスは「これが難しい(笑い)。尼子先生も脚本の池田(政之)さんも、ほとんどのスタッフも関西勢で、関東は僕と数人のスタッフしかいない。やっぱり笑いのセンスは関西の人たちにはかなわない。そこを『おもろないな』と言われないように頑張りました(笑い)」とジョークを交えながらも苦労を語る。
映画では登場人物が他の登場人物を説明するなど独特な演出が多く見受けられるが、「(キャラがキャラ説明をするのは)脚本の池田さんが、そもそも書かれていました。原作を読んでいても、コマの後ろがめくれて違う人かがいたりという場面が結構ある。そもそも原作に織り込まれているので、そこはうまく利用しました。子どもたちが忍者というものを堅苦しく考えず入ってきて、結果としてリアルな忍者はこんなことをやっていたというのを説明する、そこは尼子先生の原作のすごいところ。忍術が多く出てきますが、そこは尼子先生が日本の歴史に造詣が深くて、うそをつかないということ。だから、『忍たま』はフィクションとリアルの分岐が、非常に複雑なんです。第1作でも時代を超えてしまう部分もあるけど、ある部分は絶対にうそをつかない。フィクションとリアルの線引きをうまくやっていかないと、『忍たま』の世界にはなりません」と熱く語る。
さらに原作の尼子さんが出現した経緯を聞くと、「マンガには尼子先生が出てくるので、僕らのほうで尼子先生にお願いしようと(いう話が出た)。マンガと同じような雰囲気で出てきたらどうなんだろうというのをやりました。あそこはわりと物語の序盤なので、そういうようなことをやって『忍たま』世界に入ってきてもらいたいなと思っていました」と尼子さんの出演の経緯や意図を説明した。
「忍たま乱太郎」といえば、主人公の乱太郎をはじめ個性的なキャラクターが数多く登場し、ビジュアル的にもユニークな登場人物が多い。キャスティングについては、「やっぱり校長先生。校長先生は京都のスタッフが(芦屋)小雁さんにとこだわりました。あとは螢(雪次朗)さんとはぜひお仕事をしたかった。また一緒にお仕事をして楽しかったのは、内(博貴)君の土井先生で、すごいカッコよかったし、ハマリ役だなと思いました。ちょっとボケもあるけど決めるところはビシッと決めるカッコよさがあって、原作ファン、アニメファンの人にも納得してもらえると思います」とこだわりの一端を明かす。
続けて「今回は京都のスタッフによるキャスティングが多かった。永澤(俊矢)さんの切羽拓郎のメークは原作に忠実にできていて面白かった。怖そうな顔をしていらっしゃるのにボケたりするのが、非常にチャーミング」とキャラクターの見た目を再現する努力を惜しまない。また、主演の清史郎君は、「やっぱり驚きました、すごくプロです。芝居ができる子たちの不思議なところは、役に入り込むのがとても早い。こちらがセッティングなどをして待っている間は芝居とは関係ないことで騒いでいたりしますが、『やるよ』と集めると清史郎君は即、役に入っていく。林遼威君もプロですね。遼威君のきり丸は本当にハマリ役だと思う。お金がホントに好きなんだなって(笑い)。ほぼ初めてみたいな状況で参加した神月朱理君は、2人が面倒をよく見てくれました。和音なのか不協和音なのか分からないですけど(笑い)、ズレた感じが非常にいいなと思いました」とメインどころ3人の印象を語る。
迫力のアクションなど、見応えのあるシーンが数多くあるが、演出面については、「上級生グループや大人は吹き替えようと思えば吹き替えられますが、子どもたちは吹き替えがいない。彼らが本当に体を張ってやってくれました。彼らにとっては、撮影であっても“夏休みの一日”という。撮り終わってみてなるほどと思うのは、子どもの成長という意味ではドキュメンタリーな部分もある。彼らが本当に泣いて石垣を登るシーンができたかできないかとか、そういったところは、実は、夏休み中に例えば5メートルしか泳げなかった子が10メートル泳げるようになったというのと同じような部分が毎日の撮影の中にあり、本当にスクスクと音がするぐらい、日々顔立ちも変わってきたりとか、いろいろ変わりました」と、子どもたちの成長に目を細める。
さらに石垣を登るシーンを詳しく聞くと、「ワイヤの補助はありますが、スタントなしで、みんな自分で登っています。あのシーンは2人(清史郎君と遼威君)は登っていることは割愛されて、いつの間にか登り切っている。延々登っているところを撮っているのは、この子(朱理君)。最初、(現場で)3人でふざけていて雰囲気が甘ったるい感じだったので、危ないなと思い、緊張感を持たせようと、僕が彼に『ちゃんとやらないと落っこちて大変なことになるよ』という話をしました。そうしたら本当に緊張し始めてしまって、途中で泣き始めて大変でした。でも、(その様子を見て)メーキング班が喜んでいました(笑い)」と、笑いを交えながら当時を振り返った。
ロケ地の印象は「時代劇は、京都の盆地の中にある撮影所から出て30分かけて山に上がって撮っている。そういう伝統あるロケ地で、いろいろなものが撮れたのがうれしかった」と話し、「寺田(農)さんや赤塚(真人)さんのような方、いわゆる名優といわれるような重厚な芝居ができる方々に非常にバカなことをお願いして、それぞれがすごく楽しそうにやってくださりました」と喜ぶ。また、「音楽の佐橋俊彦さんは僕がお願いしましたが、作ってくださった曲の数々が本当に『忍たま』世界にぴったりあって、それを最初に映像に当てたときは『来た!』という身震いがしました。佐橋さんの音楽世界はとにかく明るくおおらか。それが『忍たま』世界をさらに広げてくださったのも、うれしかったです」と感謝の言葉を述べる。
特に印象に残ったシーンは「最後の戦い。“日本のマチュピチュ”という竹田城でロケをしました。山の上に城の土台だけ残る不思議な場所。京都からは結構離れているので、朝5時出発のロケーションをしました。車が行けるところからロケ現場まで急な山道を上がっていかなければならない。みんなでとても大変な思いをして上がり、1日かけてロケをし、真っ暗な中、帰ってきたという感じなのですが、そこは非常に勝負のしどころだったし、大変だったけれどいい画が撮れたし、印象的なロケでした」と振り返る。
映画のタイトルにかけて「宿題」についての思い出を聞くと、「小学2年生の時の先生が夏休みの宿題の1個目は思いっきり遊ぶことというようなことを言ってくれる人でした。夏休みのドリル的なものは当然あって、子供だから宿題のことなんて、これっぽっちも覚えてないので8月下旬になって青くなる。みなさん経験あると思いますが、やっぱり宿題を忘れちゃうほど楽しいことがあるということと、宿題を忘れてた、どうしようと青くなるという、この二つは子どもの夏にとってすごい大事だと思いました」と語る。さらに「そこには責任感や時間的な制限があり、その中でどうすればいいのかということを考えなければならない。それが大人から見れば他愛もないことかもしれないけど、青くなるということが、一番大事なのかなという気がします」と持論を展開した。
そして、「台本が印刷されて真っ白な台本が手に渡ったときは、それがもう僕らの“宿題”。それが僕らにとって設計図で、真っ黒になるまでいろいろなことを書き込んで1本の映画になる。真っ白な台本を受け取ると、ああ宿題かなって(感じます)」と語る。そして映画の見どころを「子供は子供の楽しみ方ができると思いますし、大人の方も子供に返って楽しむことができる。夏休みに宿題を忘れて青くなった日を思い出しながら、見てほしいなと思います」と笑顔を見せた。映画は、新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開中。
<プロフィル>
1964年4月19日、東京都生まれ。1993年からスーパー戦隊シリーズに参加し、95年に「超力戦隊オーレンジャー」第39話で監督デビュー。「星獣戦隊ギンガマン」で初のメイン監督となり、その後、同シリーズの海外制作版「パワーレンジャー」を手がけるため渡米。帰国後、2001年の「仮面ライダーアギト」から仮面ライダーシリーズに監督として参加し、「仮面ライダー555」までメイン監督として関わり、劇場版の演出も手掛けた。06年には監督作品「小さき勇者たち~ガメラ~」が公開。その後「仮面ライダーカブト」でシリーズに復帰、「仮面ライダー電王」から「仮面ライダーオーズ/OOO」までパイロット演出を担当する。12年には「非公認戦隊アキバレンジャー」のメイン監督を務め、今年4月放送開始の「アキバレンジャー」続編のパイロット演出を手がけた。
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