ダンダダン
第12話「呪いの家へレッツゴー」
12月19日(木)放送分
話題の書籍の魅力を担当編集者が語る「ブック質問状」。今回は、福井晴敏さんの「人類資金」です。講談社の森山悦子さんに作品の魅力を聞きました。
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−−この書籍の魅力は?
「人類資金」は、出版界の掟(おきて)破りとも言える異例づくしのスタイルで刊行されます。まず、第1巻の定価は半額の263円(期間限定特価)。そして、書き下ろしの新作小説は、通常ならハードカバーで刊行されるにもかかわらず、いきなり文庫での刊行です。その上、毎月1冊ずつ刊行という、いわば“文庫連載”、“月刊・人類資金”。さらに、1巻の約半分を電子版で先行無料配信しました。
「亡国のイージス」「終戦のローレライ」など、福井さんの小説は大長編が多いですが、世界4カ国を舞台にした本作も長尺です。しかし、いったん読み始めれば、まさに巻をおくあたわずの面白さ。大長編というとひるんでしまう読者も多いですが、とにかく読み始めてもらえたらこっちのものと考え、これらの施策を打ち出しました。
−−作品が生まれたきっかけは?
きっかけは7年前、映画「亡国のイージス」で福井さんとタッグを組んだ阪本順治監督が打ち上げで飲んでいた席で、監督から「かねてからM資金(戦時中に日本軍がアジア全域から集めて秘匿した資金)を題材に映画を撮りたいと思っている」と切り出されたことでした。福井さんは、デビュー前に書いた習作でM資金に材を取ったことがあり、そのことを監督に話すと、「原作をお願いできないか」とその場で言われたのです。
そこから福井さんは、独自のアプローチでM資金について徹底的に調べていき、戦後日本の闇とも言えるM資金と、現代を席巻するマネー資本主義とを結びつけて、豊かなようで豊かでない資本主義社会そのものに対する問題提起と、画期的な解決への提言を中心に据えた、途方もないスケールの一大エンターテインメントになりました。
映画の方は10月19日から全国松竹系で公開されます。福井さんは原作執筆だけでなく脚本にも携わり、監督と二人三脚で映画「人類資金」を実現させました。
−−作者の福井さんはどんな方でしょうか?
やりたいことのためには自らの利益も効率も度外視し、ただもうがむしゃらに実現に向けて突き進む人。結果、小説家にとどまらずプロデュース、脚本、演出とあらゆることを手がけ、もはや何屋さんだかわからない状態です。損な仕事の仕方だなあと思いますが、その比類なき熱量が読者、観客の胸に強く深く届くのだと思います。
−−編集者として、作品にかかわって興奮すること、逆に大変なことについてそれぞれ教えてください。
“月刊・人類資金”ですので、まるで連載のように「続きが待ちきれない」「この先はどうなるのか」という声が届くのが、通常の書き下ろしでは得られない担当編集者の醍醐味(だいごみ)です。
現在も絶賛執筆中で、原作の刊行は映画公開後もまだまだ続くので、通常の書き下ろしとは締め切りのプレッシャーもまた段違いというのが、大変なところです。
−−今後の展開は?
映画公開までに刊行される原作第4巻で、全体の約半分になります。ここから計画の真の目的、謎の人物の正体、M資金の知られざる由来などが明らかになっていきます。映画では尺の問題もあって詳細に描くことはなかったこれらのドラマを、小説ではじっくりと語っていきます。“福井節”が堪能できるのは、実は5巻以降なのです。映画を見た方には、ある意味“裏設定集”としてもお楽しみいただける内容です。5巻は12月刊行、以下来年にかけて続刊です。
−−最後に読者へ一言お願いします。
全国の福井晴敏ファンの皆様、お待たせしました! 著者7年ぶりの本格エンターテインメント、しかもテーマは今もっともホットな“経済”。アベノミクスってどこの話だと嘆くお給料据え置きのサラリーマンの皆様、自分は悪い時代に生まれたからと世間に背を向けるフリーターの皆様、このままで老後はどうなるのかとご心配な主婦の皆様、すべての答えはこの小説に書かれています。いまを生きるすべての人にとって必読の小説です!
講談社 文芸文庫出版部 森山悦子
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