ウォールフラワー:スティーブン・チョボスキー監督に聞く 活字と映像の差を埋めることに腐心

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 「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」シリーズ主演のローガン・ラーマンさんと、「ハリー・ポッター」シリーズで知られるエマ・ワトソンさんが出演している映画「ウォールフラワー」が全国で公開中だ。映画は、16歳の青年の悩める青春時代を描いた感動作で、1999年に米国で出版され、批評家たちからJ・D・サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」の再来と絶賛された小説が原作。今回の映画化は原作者であるスティーブン・チョボスキーさん本人によるもので、チョボスキーさんは「小説発表からある程度の心理的な距離を置かなければ映画化は無理だった」と語る。脚本も自身で手がけたチョボスキー監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 「つらい時期を経験し、自分自身のために答えが必要だった」という動機で書かれた小説は、99年、チョボスキー監督が29歳のときに出版された。それから約13年。「こういうふうにいうと不思議に思うかもしれないけれど、若いキャラクターの物語をつづるのには大人の視点が必要だった。言い換えれば、自分自身がハッピーエンドを見つけることができなければ、この映画をいい形で作ることができないと感じていた。僕は、妻と出会ったことでハッピーエンディングを迎えることができた。それに映画監督には、スタッフやキャストを引っ張っていくリーダーシップが求められる。だから、もう少し人として経験を積みたかった」と映画化が今になった理由を明かす。

 小説は、ラーマンさん演じる16歳の青年チャーリーが主人公。彼は、友だちもおらず学校生活になじめない“壁の花(ウォールフラワー)”だった。そこに現れたのが、ワトソンさん演じる快活な上級生サムと、その義兄でちょっと変わっているが気のいいパトリックだった。パトリックを演じているのは、映画「少年は残酷な弓を射る」(11年)で注目されたエズラ・ミラーさんだ。学校でははみだし者のサムとパトリックだが、だからこそ学校にはびこる“階級”を気にせずにいられ、チャーリーの生活は、彼ら2人とその仲間との友情によって変化していく。孤独と苦悩の日々から、友情の楽しさと初恋の喜びを感じる日々へ……。小説は、そんなチャーリーの変化を、彼の一人称で描いている。「原作では、ある意味チャーリーはものすごく頼りになるナレーターなんだ。例えば彼が『サムがすてきだ』とか『パトリックが笑える』といえば、読者はそれを信じることができる。ところが映画ではそうはいかない。チャーリーが見て、感じていることを観客にも感じてもらわなければならない」と話し、その点の難しさを意識しながら脚本を書き進めていったという。

 映像化に当たっては、活字と映像の“差”を埋めることに腐心した。「今回の物語はとてもエモーショナルな内容だ。実は、映画というのは本に比べて感情の限界が狭いんだ。つまり、観客は映像をダイレクトに感じることができてしまう。だから映画化には、小説に比べて抑えて表現していく必要があった」と苦労を口にする。

 好きなシーンに、チャーリーの成長の具合が推しはかれるトンネルの中でのシーンと、サムとのファーストキスのシーンを挙げる。キスシーンについて「あの場面は、小説を書いたときも今までで最高の文章だったと思っているし、(映画での)2人の演技も最高にしっくりきた素晴らしいシーンだ」と自負している。そのサム役のワトソンさんについては「彼女はものすごい才能の持ち主。自分にプレッシャーをかけるタイプなんだ。多分、誰よりも強く、自分の力を自分自身に証明したいと思っているからなんだろうね。これからやれないことはないんじゃないかと思うぐらいの素晴らしい女優だよ」とたたえる。

 映画には、CDもiPodも出てこない。音楽を持ち歩く手段が、まだカセットテープだったころの話だ。当時を舞台にしたのは「コミュニケーションが、インターネットによって変えられてしまう最後の瞬間をとらえたかった。あの瞬間にはノスタルジーがあふれている。この映画を見る人たちにも、ノスタルジーを感じてほしかった」という思いからだった。

 作品の内容から、深刻そうな顔つきの、おとなしい人物を想像していた。ところが実際のチョボスキー監督は、インタビューの最初から最後まで笑顔の絶えない、話をすることが楽しくてたまらないという感じのノリノリの人物だった。しかもホラー映画が大好きで、「ゾンビ」などで知られるジョージ・A・ロメロ監督の大ファンだという。また、日本映画は学生時代に見て、小津安二郎監督の「東京物語」や黒澤明監督の「羅生門」「七人の侍」が好きだという。今回の来日時には飛行機の中で「体脂肪計タニタの社員食堂」(李闘士男監督)を見たそうで、「可愛くて笑えたし、食べ物もおいしそうだったよ(笑い)」と気に入った様子だった。

 そんな感情の触れ幅が広い監督だからこそ、人間の、とりわけ思春期の若者の心の機微を、小説なり映画なりで豊かに表現できたのだろう。「映画には映画の強みがある。それは音楽であったり、ダンスシーンであったり、美しい映像であったり……そういうものが組み合わさったときには、本では得られない効果を上げられる。今回は、それらを大いに活用させてもらったよ」と力を込めた。映画「ウォールフラワー」は11月22日から全国で公開中。

 <プロフィル>

 1970年生まれ、米ペンシルベニア州出身。南カリフォルニア大学映画・テレビ学部脚本科卒業。99年、小説「ウォールフラワー」を出版。2005年、ブロードウェーミュージカルの映画化「RENT/レント」の脚本を執筆。ほかに、脚本と製作総指揮を務めたテレビシリーズ「ジェリコ~閉ざされた街」(06~08年)がある。「ウォールフラワー」は、監督デビュー作「The Four Corners of Nowhere」(95年)に続く2作目の監督作。今年9月の来日時には「エクソシスト」「シックス・センス」「シャイニング」さらに「ザ・リング」的なホラー小説を執筆中で、映画化も考えていると明かした。

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