サンドラ・ブロック:「ゼロ・グラビティ」語る 「これは人間ドラマ。たまたま舞台が宇宙だった」

「ゼロ・グラビティ」に出演したサンドラ・ブロックさん (C)Armando Gallo/Retna Ltd./amanaimages
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「ゼロ・グラビティ」に出演したサンドラ・ブロックさん (C)Armando Gallo/Retna Ltd./amanaimages

 地上60万メートルの宇宙空間に放り出された宇宙飛行士の運命を、最新のVFXと3D映像で描いた映画「ゼロ・グラビティ」が13日から全国で公開された。出演者はサンドラ・ブロックさん、ジョージ・クルーニーさんのたった2人だけという異色の作品だ。映画のPRのため、このほど「イルマーレ」から7年ぶりの来日を果したブロックさんに話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 「ジョージっていう人はまったくイラつくやつなのよ! 彼は、注目を集めたいがために(撮影中)いろんなことをやるものだから無視するのが大変で。彼を見ないようにしていたわ。だって、笑っちゃうんだもの」と共演したジョージ・クルーニーさんについてこぼすブロックさん。今作でクルーニーさんが演じているのは、マット・コワルスキーというベテラン宇宙飛行士だ。

 ブロックさんは、ひと言でいうなら姉御肌。コメントも痛快だ。インタビュー中、くしゃみをした付き人に向かって、「シーーーーーッ!」と眉間(みけん)にしわを寄せ、静かにするよううながす。だがそんな仕草もまったく嫌味を感じさせない。むしろそうすることで、インタビュー中の周囲の緊張を解きほぐし、場を和ませようとするサービス精神がうかがえる。

 ブロックさんが今作「ゼロ・グラビティ」で演じているのは、メディカルエンジニアのライアン・ストーン博士だ。彼女は無重力(ゼロ・グラビティ)の宇宙空間で、データ通信システムの故障の原因を探っている。宇宙に来るのは初めてで、その上、動きづらい宇宙服を着て、ヘルメットのせいで視界も不良。そんな慣れない状況で細かい作業を続ける中、周囲をコワルスキーは悠然と泳ぎ回っているのだから、ぐちが出るのもうなずける。

 映画では、そんなライアンとコワルスキーを突然の事故が襲う。破壊された人工衛星の破片(スペース・デブリ)が、2人がいる方向に猛烈な勢いで迫ってきたのだ。それらは衛星を次々と破壊し、システムは壊滅。ヒューストンとの通信は途切れ、さらにデブリは2人に襲いかかり、彼らは宇宙空間に放り出されてしまうのだ。

 演技には苦労を強いられた。撮影は、無重力を表現するために開発に4年半もかかったという最新テクノロジーの助けを借りてなされた。12本のワイヤで熟練人形師に操られたり、ぐるぐる回転する特殊な装置の中にぶら下げられたり。しかしそうした装置を使っても、無重力空間におけるゆっくりとした動きは、演じる俳優の演技に頼るしかない。

 「ものすごく大変だった。だって、(地上の)30%のスピードで体が動いているのに、話し方は普通。ここからここまでを6.5秒で移動しろとかいわれる中で、せりふは普通にしゃべるのよ。ただ、それをこなすためのリハーサル時間はたっぷりあったから、リズムをとりながら感覚で覚えていったわ。とにかく何度も何度もリハーサルした。撮影までにはなんとか間に合わせて感情を伴うよう意識しながら演じたけれど、撮影は撮影でぶら下げられ、ひねられ、しかも何度もカメラを回すから大変なのなんのって。だけど最終的にはそのチャレンジが好きになった」と艱難(かんなん)辛苦の中にもやりがいを感じた撮影を振り返った。

 これまで多くの作品に出演し、さまざまな役柄を演じてきた。「人生経験を積めば積むほど、それを仕事に取り込め、より仕事が豊かになると思っている」と話す。ただ、芸能界というところは、年齢を重ね、ピークを迎えた俳優はその後、徐々に出演作が減り……といった残酷な世界でもある。とりわけ女優にとっては。

 「私が幸運なのは、私を(現場に)呼び戻してくれる人がいるということ。私は、いい経験ができたと思ったら休暇はたっぷり取るようにしているの。この業界を生きてきて学んだのは、ノーといえること。断ることも大事。いい仕事がしたいからと、来る仕事、来る仕事を次々とやってしまいがちだけど、それをやってしまうと完璧なものはできないと思う。もちろん、私も若いころはいろんな仕事をやってみようと思ったけれど、今になって人生経験はものすごく大事だと思うようになったわ」と語る。これがデビューから約25年、現在もまだ第一線で輝き続けているブロックさんの今の心境だ。

 「年齢を重ねるごとに仕事に行くのが楽しくなり、選択肢も変わってきた」とも話す。ただ、「私には今、3歳半の息子がいるから、彼との時間を大切にしたい。だからといって、私が仕事をしたいと思っても、そのときいい仕事があるかどうかは分からない」とタイミングの大切さも痛感している。だからこそ「いいタイミングで、いい脚本といい監督がいてくれることのチャンスに感謝するようになった」という。

 そんなブロックさんが「人生の大切さや、自分が愛する人に愛していると伝えるべきとか、毎日をムダにしてはいけないと気づかせてくれた作品」という今作は、人間ドラマの要素がストーリーに組み込まれているが、大きくジャンル分けするとSF作品に入る。SFとなると女性には足が向きにくいが、ブロックさんいわく、「この作品は普通のSFじゃない」という。そして「実は私も最初はSF?と思ったのよ」と正直に打ち明けつつ、「だけど、見れば自分の人生について考えさせられ、もっと人生を味わいたいと思うはずだし、見ながら危機感だったり、恐怖だったり、愛情を強く感じるようにできている。だからこれは人間ドラマであり、愛情のドラマでもある。たまたま場所が宇宙だっただけ。男性もこれを見て泣いたという話を聞くし、女性だってきっと見ればハマるはずよ」と背筋をピンと伸ばし誇らしげに語った。映画は13日から全国で公開中。

 <プロフィル>

 1964年生まれ、米バージニア州出身。1987年にデビュー。94年、「スピード」で一躍人気女優に。以降、「あなたが寝てる間に…」「ザ・インターネット」(95年)、「プラクティカル・マジック」(98年)などに出演。98年の「微笑みをもう一度」では主演のほかプロデューサーもこなした。2009年に主演した「しあわせの隠れ場所」では米アカデミー賞主演女優賞を獲得。ほかの作品に「デンジャラス・ビューティー1」(00年)、「同2」(05年)、米アカデミー賞作品賞受賞作「クラッシュ」(04年)、「イルマーレ」(06年)、「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」(11年)などがある。

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