ソフィア・コッポラ監督:「ブリングリング」 セレブ宅窃盗事件を題材に警鐘「子供たちが心配」

「ブリングリング」について語ったソフィア・コッポラ監督 photo:YUSUKE HASHIMOTO メーク: YOSHIYUKI WADA ヘア:TAKESHI
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「ブリングリング」について語ったソフィア・コッポラ監督 photo:YUSUKE HASHIMOTO メーク: YOSHIYUKI WADA ヘア:TAKESHI

 実際にあった若者による窃盗事件を題材にした映画「ブリングリング」が14日から全国で順次公開されている。メガホンをとったのは、1999年の監督デビュー作「バージン・スーサイズ」以降、「ロスト・イン・トランスレーション」「SOMEWHERE」といった話題作を世に送り出しているソフィア・コッポラ監督。今作の製作の背景には、現在、米国で流行しているリアリティー番組やゴシップ雑誌への批判が込められている。コッポラ監督に、偉大な父とともにと東京国際映画祭に出席するため来日した際、話を聞いた。(りんたいこ/フリーライター)

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 「米国ではリアリティー番組が氾濫し、それを駆り立てるような雑誌もあり、それらを若者が群がるようにして見たり、読んだりしています。その実情を淡々と描きたいと思ったのが、今作を作る一つのきっかけでした」とコッポラ監督が苦言を呈するリアリティー番組とは、出演者の体験を物語のように楽しめることで人気を集めている視聴者参加型のテレビ番組だ。実際、そういった「低俗な」番組や雑誌に出ることでスターになっている人がいる。今作のモデルとなった若者たちも、“事件”後、テレビなどのメディアで度々取り上げられ有名人扱いされた。

 映画の基になっているのは、2008年から09年にかけて実際に起きた若者による窃盗事件「ブリンブ・リング事件」だ。セレブリティーに憧れる、当時、上は27歳から下は18歳の若者6人が、米ロサンゼルスのハリウッドに住むパリス・ヒルトンさんやオーランド・ブルームさんらセレブたちの家に侵入、ブランド品の洋服や装飾品、現金など総額300万ドル(約3億円)の金品を盗み出した。当時、事件のことは知っていたがそれほど注意を払わなかったというコッポラ監督は、その後、「バニティ・フェア」誌の記事を読んで興味を持ち、執筆者から話を聞くなどして今作の映画化を決めたという。この事件で一躍有名になり“セレブ”入りした6人は、映画では5人に絞られ、そのうちの一人を、「ハリー・ポッター」シリーズで知られるエマ・ワトソンさんが演じている。

 今作の製作の背景にはまた、コッポラ監督が7歳と3歳の2人の娘を持つ母親であることも多分に影響している。「今のような状態がこのままエスカレートし、娘たちが物心ついたときもっとひどい状態になっていたらと心配になったこともあります。それに、最近の子供たちは、服装を見てもセクシーになり過ぎている。私は自分の娘たちにはイノセントでいてほしいから、なるべく丈の長い洋服を着るよう、しつけていますが、そういうことも含めて今の子供たちは、早く成長し過ぎている気がします」と母親の顔をのぞかせる。

 映画に登場する5人は、セレブ宅に侵入しては、クリスチャン・ルブタンやグッチといった高級ブランド品を盗む。その一方で自分たちが着る洋服は、カジュアルな洋服が手ごろな価格で手に入る「kitson」(ロサンゼルスに本店を持つ衣類や小物雑貨を扱うセレクトショップ。多くのセレブも愛用している)といった店で購入する。コッポラ監督はそんな彼らの心理を、「私が思うに、“これはパリスが持っていたバッグだから”と、そこに初めて盗む意味合いが出てくるのだと思います。それだけセレブに憧れているということ。盗めるから盗むだけ。善悪の判断はしていない。(犯人の1人の)男の子が、しいていえば躊躇(ちゅうちょ)していたかもしれないけれど、やってもいい、やる権利があるとさえ思っていたのかもしれません」と分析する。

 ちなみに、映画に出てくるヒルトンさん宅での窃盗シーンは、実際のヒルトンさんの家で撮影した。被害者でもあったヒルトンさんだが今回の映画を見て、「とても正確な描写だったと言ってくれた」そうだ。

 28歳のときに「バージン・スーサイズ」で長編映画監督デビューを果たして以来、今作を含め5本の作品を撮ってきた。クールなたたずまいのせいか、それらは難なく生み出されたような印象を受けるが、コッポラ監督もやはり人の子。困難にぶつかることはたびたびあったようだ。今作でも、友人でもあった撮影監督のハリス・サビデスさんの体調が思わしくなく、「どんどん弱っていっている彼を見るのはつらかった」と寂しげな表情を浮かべる。1957年生まれのサヴィデスさんは今作の主なシーンを撮り終えた2012年10月に亡くなった。それでも、いやだからこそ、作品は完成させなければならない。「やっぱり、どんなものにもチャレンジはあると思うし、この作品もそうでした。私自身、誰かにノーと言われても、それを絶対受け入れられない性分。いったんこれをやると決めたら、たとえそれが回り道でも絶対にやり遂げるという精神の持ち主なんです」と力を込める。

 しかし、若い女性がみな、コッポラ監督のような強い精神力を持ち合わせているとは限らない。それについて、「若いころは本能的にこれはやりたい、これは好きと思ったことでも、自信がなくてやっぱりダメだと折れそうになることはあると思います」と理解を示す。でもだからこそ「何かを好きと思うことはそこに理由があるわけで、それはもしかしたら自分自身が気づかない才能で、それを突きつめていけば大成できるかもしれない。だからとにかく何か思い浮かんだのならそれを信じて突き進んでほしい」と自分の“後輩”となる20代、30代の女性たちにエールを贈る。

 父は偉大なフランシス・フォード・コッポラ監督。今作に限らず、これまでの娘の監督作すべてにおいて製作総指揮を務めてきた。「父のアドバイスで変えるところがあればと思うから」、作品の完成前には必ず見せてきたというコッポラ監督。若いころは、父親からのアドバイスに神経質になったそうだが、「今はある程度、自分の作りたいものは自分で勝手に作るわという気持ちが持てるようになった」と明かす。「それに親というのは、往々にして自分の子供が作ったものはなんでも褒めてくれるものよ」と笑う。自分の才能を棚上げし、そう笑顔を見せたコッポラ監督の言葉からは、父親に対する尊敬の念がうかがえた。映画は14日から全国で順次公開中。

 <プロフィル>

 1971年、米ニューヨーク州生まれ。10~20代には父フランシス・フォード・コッポラ監督の作品に女優として出演していたが、短編「Lick the Star」(98年)を監督後、99年に「バージ・スーサイズ」で長編監督デビュー。2003年の「ロスト・イン・トランスレーション」は米アカデミー賞脚本賞を受賞した。06年には「マリー・アントワネット」を発表。10年の「SOMEWHERE」はべネチア国際映画祭で最高賞である金獅子賞に輝いた。

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