武士の献立:上戸彩と高良健吾に聞く「出るところ出て引くところ引くバランスは女性として憧れる」

「武士の献立」で共演した上戸彩さん(左)と高良健吾さん
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「武士の献立」で共演した上戸彩さん(左)と高良健吾さん

 2010年に公開されヒットした映画「武士の家計簿」に続く加賀藩の武士を描くシリーズ第2弾「武士の献立」が14日に公開された。映画は江戸時代を舞台に、加賀藩に料理人として仕える舟木家に嫁いだ、抜群の味覚と料理の腕を持つ明るく元気な年上女房の春と不器用な夫・安信の夫婦愛を描く。春と安信をそれぞれ演じた上戸彩さんと高良健吾さんに話を聞いた。(遠藤政樹/フリーライター)

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 「安信と(春)の関係は映画のエンディング後だと思うので、これからですね」と上戸さんは、気丈に夫を引っ張る年上女房の春と不器用だけど優しさのある夫・安信の関係性について、そう語る。続けて「恋愛結婚ではないので、今自分がここにいる意味というものを、お父さん(西田敏行さん演じる舟木伝内)に呼ばれたことと、お貞の方(夏川結衣さん)に『行きなさい』といわれた一言だけで、春は存在できるというか、頑張れちゃう女性だと思う」と春の印象を話す。そして「早い時点で安信が自分のことを必要としてくれていたり、お互いに感謝し合うことができたり、2人は早く気づけたほうだと思うから、本当に幸せだと思います」と関係性を説明した。

 一方、高良さんは春と安信について「普段から思っていますが、楽しい感覚が似ている人もすごく大切ですが、寂しい感覚が似ている人は、環境が違っても自分の中で大切。安信と春はきっと、環境ではなくて、人に対しての思う心というか、寂しい部分が似ているのだと思う。そういう部分で埋め合っているというか、(相性は)合っている感じはします。だからお互い成長し合えるし、(人生を)築ける。相手の人のために行動できるというのはあります」と持論を展開した。

 今作には料理をはじめ、江戸時代に生きた人たちの知恵や考えた方などがちりばめられている。演じてみて当時の人たちから学ぶことはあったかと聞くと、上戸さんは「食事や料理に関してはこの時代の人たちがいろいろな食材を調べに行ったり、この料理にはこのダシが合うなど、たくさん資料に残してくれているから、今でも受け継がれるものがある」と料理文献への感謝を表す。そして「春的にいうと、出るところは出て、引くところは引くというバランスは、女性として憧れます。もちろん安信との相性もありますけど、相手に合わせてちゃんと引くということが、現代の女性には難しいじゃないですか。今を生きている中でも昔の女性のそういうところは大事にしていたと思いますし、女性に生まれたからには女性のそういうところは大事にしたい。私は春みたいな女性は好きですね」と笑顔を見せる。

 高良さんも「自分たちから食材に出合いに行かなきゃいけなかったりという苦労はある。(当時の話ではないが)僕はエビとかタコとか最初に食べた人はすごいと思う。(食べられると知らなかったらグロテスクで)パクッとは食べられない」と昔の人の食への探求心に驚く。続けて「そういう土台があって僕たちは今、生きていて、この時代はまだ(食材を探すというのは)残っていたと思うし、そういう部分では食に対する、またそれを使って人をおもてなしする心は学ぶべきことだと思う」と感じたことを語った。そして安信という人物像を「自分の望んだ道ではなかったかもしれないし、春という妻に出会えたことさえも望んだものではなかっただろうけど、そこで自分の居場所を見つけようとして向き合ったという姿勢には学ばせられます。全部自分がしたいことができるからって、いいってわけじゃない。安信は自分が今いる場所で何をすべきかを感じて動ける人だと思う」と生きていく姿勢に共感を覚えたという。

 映画では安信が次第に仕事へ目覚めていく姿が描かれる。最初は嫌々ながらも徐々に仕事の楽しさや責任を認めていくことは、現代で働く人に思い当たることも多い。2人にこれまでに仕事への向き合い方が変わった経験を聞いてみると、「変わったきっかけは、きっと『軽蔑』という映画と朝ドラ(『おひさま』)」と高良さん。その理由を「僕は多分投げやりだったと思います。人前で何かをするのが怖かったし、怖いというより向いていないと。朝ドラのインの日が(2011年)3月11日で、ワンカット撮ったら地震がきて、その後、再開すると手紙がたくさん来たり、ドラマの中で結婚式を挙げたら電報も届きました。自分がやっていることで、勇気づけられたり幸せになったりしているのがなにかすごくうれしくて。自分がそういう気持ちではなくても幸せになってくれたりする人がいると思ったら、もっと自分がやらなければいけないのは、芝居ではカメラの前で終わればいいけど、何か伝えることは止めちゃだめなんだなと思ってから、この仕事が面白いと思えるようになりました」と振り返る。

 同じ質問に対し上戸さんは「最初は肩書で“女優”と書かれるのが嫌で、役を演じていたり、テレビに出ている上戸彩を好きと言われても、全然うれしくなかった」と当時の心境を打ち明ける。その気持ちに変化が表れたのが、連続ドラマ「金八先生」に出演したことだったという。「『金八先生』をやった時とき性同一性障害の方から、『命を救ってくださってありがとうございました』や『これで僕も堂々と生きていけます』など、(誰かの)人生を変えるまでの役に出合えたときに女優という仕事も悪くないなと思いました。(その後は)人の人生を動かすぐらいの作品に出合いたいと思うようになりました」と上戸さんは女優への向き合い方が変化した転換点を明かした。

 今作が時代劇初挑戦となる高良さんに和装やちょんまげ姿の自身の感想を聞くと「いけるなと思いました!」と笑い、続けて「(今後も時代劇を)めっちゃしたいです。日本人だから合うと思いますし、日本人じゃないと武士は似合わないと思う」と時代劇の魅力にはまった様子。時代劇に出演する醍醐味(だいごみ)を高良さんは「今にない心や動きだったり、そういうのが全部楽しかったです。不自由さを感じるかもしれないですけど、今だから感じるだけで、その中で芝居するのは楽しかったし、次やったらもっとよくなると思います」と自己分析。一方の上戸さんは「着物が好きというか、着物を着ているときは日本人でよかったなと思える瞬間です。今回は男性を引っ張るというちょっと強い女性でしたけど、お仕事を通してたくさんの所作でマナーを知ることができたり、今までの日本のことを知れたりするのも、うれしい」と話した。

 料理が題材の映画は、俳優の演技と同じぐらい料理の見え方も重要だ。今作は包丁侍の話ということで料理シーンも多い。上戸さんは「湯気とかコンピューターグラフィックス(CG)で足したほうがおいしく見えたりしますが、撮影班の技術だけでやったというのはすごいなと思います。あとは本当においしかったから、素直にもっと笑いたかったですね。(思いっきり)おいしいって、やりたかった」と笑う。高良さんが「出来上がったものがポンと出ただけではだめで、作る過程もある。それは映画の中にあるし、作る人の気持ちもある意味映る。春が朝早く起きてかぼちゃを切って煮物を作り、それを食べて『うまい』という。それは早く起きて春が(かぼちゃを)切るという過程がちゃんとあるからじゃないですか」と熱弁した。

 高良さんが話す“作る人の気持ち”ということについて、指摘したシーンの直前に実は安信には佐代(成海璃子さん)という恋仲がいたことを、春が安信の母・満(余貴美子さん)から聞かされる。夫の過去を知った状況の中で料理を作る、春の無力感とやるせなさが込められたシーンがある。そういった春の心情を踏まえた上で、高良さんの発言を受け、上戸さんはそのシーンについて「普通のドラマだと味が濃かったり、今日の煮物はあまりおいしくないとなりそうな流れですが、あえておいしい料理を作るところが春の“おしゃれ”なところ。この映画の“おしゃれ”なところかなと思います」と今作の出来に自信をのぞかせた。映画は14日から丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほか全国で公開中。

 <上戸彩さんのプロフィル>

 1985年9月14日生まれ、東京都出身。97年に「第7回全日本国民的美少女コンテスト」で審査員特別賞を受賞。99年から芸能活動を開始し、2000年にフジテレビ系ドラマ「涙をふいて」で女優活動を開始、以降数々のドラマや映画などで活躍し、02年にはシングル「Pureness」で歌手デビューする。13年はNHK総合ドラマ「いつか陽のあたる場所で」で主演を務めたほか、TBS系ドラマ「半沢直樹」や映画「おしん」などに出演。次作に来年4月26日公開の「テルマエ・ロマエ2」が控える。

 <高良健吾さんのプロフィル>

 1987年11月12日生まれ、熊本県出身。05年に日本テレビ系ドラマ「ごくせん」で俳優デビューし、「ハリヨの夏」(06年)で映画初出演を果たす。東京国際映画祭「日本映画・ある視点」特別賞を獲得した「M」や、芥川賞受賞作の映画化で演出家・蜷川幸雄さんがメガホンをとった「蛇にピアス」で注目を集める。以降、「フィッシュストーリー」(09年)、「ノルウェイの森」(10年)など、多数の映画やドラマで活躍している。

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