謎解きはディナーのあとで:土方政人監督に聞く「映画ならではのアクティブな影山を見て」

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 東川篤哉さんのヒット小説が原作のドラマを映画化し、昨年8月に公開された「映画 謎解きはディナーのあとで」。人気グループ「嵐」の櫻井翔さん、北川景子さん、椎名桔平さんがドラマから引き続き登場するほか、中村雅俊さん、鹿賀丈史さん、宮沢りえさん、生瀬勝久さん、竹中直人さんら映画ならではの豪華なキャストが顔をそろえた。今作のブルーレイディスク(BD)とDVDがリリースされたのを機に、改めて土方政人監督に作品や出演者について聞いた。

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 映画監督として初の作品になったことについて、土方監督は「テレビドラマの映画化なので、そこは意識していなかった。世界観を変えて違和感を感じられると嫌だなと思ったので、それほど意識的に映画だからというのは考えなかったんです」と話す。続けて「テレビドラマを撮っている感覚で(映画を)撮っていましたが、スケール感は映画としては必要だと思っていましたし、そこはテレビドラマと違うところなので、どうスケールを表現するのかに腐心しました」と撮影の際の心境を振り返る。

 スケール感を出すため、フジテレビから「豪華客船を使いたい」という要望があったという。要望を受けて土方監督は「(豪華客船で)どういう話が作れるかというところから台本作りに入りました。船ならではの謎解き、船の中でしかあり得ない謎の解き方というのをどう作っていくんだという話になった」と明かす。船内ならではの謎の解き方を生み出すため、さまざまなリサーチが行われた。「最初はプールが海水だったというようなアイデアも出て、実際にロケハンに行ったらプールは真水ですといわれた」と土方監督は笑う。リサーチを重ねた結果、船に関する国際的な決まりを生かす方向になった。土方監督は「走っている船なのだから船を止めるというのが犯人の目的で、どういう謎が出ていくのかを考えた。最初に結論があって、結論の前をどうしていくのかという話から(決定稿を作る)打ち合わせが始まったと記憶しています」という。

 撮影に使われた船内は、邦画で初というアジア最大級の客船「Superstar Virgo」だ。船内という限られた空間のため、「工夫よりも苦労のほうが多い」と話す土方監督。「エキストラは豪華客船だと3000人ぐらいが必要なんですけど、(船は)貸し切りではない。一般のお客さんもいるので、例えば500人のエキストラを連れていくのも部屋が空いていなくて無理で、エキストラは50人ぐらいしか連れて行けなかった」という。そして、「(エキストラの人数が)足りないので、乗組員の休みの日、外国人たちに頼んで出てもらうという形にしましたが、時間の都合で人がいなくて撮れないシーンも出てきた。成立しないのでシーンごと全部カットするとか、そういった苦労はありました」と明かす。

 ドラマとの一番の違いは櫻井さん演じる執事の影山が事件現場にいること。土方監督は「(影山が動くのは)映画化に対してやらなければならないことの一つだということは、みんなのコンセプトの中にありました。船に乗っていること自体も動かなきゃいけないわけですから、連ドラでは動けなかった影山をどう動かしていくか。影山がどう動いてどう謎を解いていくのかということを、どう台本に反映させられるのかを考えつつ、作っていきました。動いたことによって面白くなりましたし、アクティブな影山が見られたことが映画ならではないですかね」と自己分析する。

 映画化にあたっては多彩な出演陣によるゴージャスな作りにも注目が集まった。例えば中村さん。「雅俊さんは今作のような役は意外にもあまりやってない。そういう雅俊さんも見てみたいと思いました。犯人側にも理由があるので、やってくれたら面白いなと思ったし、ただの悪いやつではないのでやってくれるだろうとは思っていました。実際に出演していただいたのですごくありがたかったです」と振り返る。そして重要な役どころを演じた宮沢さんについても「宮沢さんはすごく存在感がある女優さんですが、一つ残念なのは、この映画でもう少し描きたかった。“おばちゃん”というか“下世話な”りえさんをもうちょっと見たかった。あまり出してしまうとばれちゃうかなというところもありましたけど」と明かす。

 土方監督は、映画の中では生瀬さん演じるギャンブル好きの若社長がお気に入りだといい、「生瀬さんと志賀(廣太郎)さんのペアは、映画を作っているころに話題になったとあることがモデルで、ばくちで大金をすってしまったために会社のお金を使ってしまっているというのは生瀬さんじゃなきゃできないと思ってお願いしました。志賀さんは『はい』しか言わないのが僕からのリクエスト(笑い)。志賀さんも快く了承してくれました」と笑顔を見せる。さらに「竹中さんはアドリブを入れてくる方なので当然入れてくるだろうと思っていましたが、真ん中に入れてくる。うしろにアドリブを入れると(編集で)切られちゃうこともあるから(笑い)。映画の『おまえと父ちゃんと母ちゃんが~』というのは(竹中さんの)アドリブで、現場で大笑いしました。それと髪形がアフロなのも竹中さんのアイデアでした」とエピソードを明かした。

 特に思い入れのあるシーンについては、自らリクエストを出したという毒舌の執事・影山(櫻井さん)と、影山が仕える大富豪の令嬢で新米刑事の宝生麗子(北川さん)の2人が島に漂着する場面を挙げ、「一回救助艇に2人を閉じ込めて漂流させてしまおうというアイデアがあって、自分から言い出したのもあるので、あの場面のお嬢様を守るという連ドラでは見ない影山のシーン」と説明し、「連ドラでは絶対にありえなかったことで、麗子の方もちょっとラブを感じちゃってホロッときたのに、無人島に漂着して影山は相変わらず毒舌をはくという(笑い)。あの流れはすごく印象に残っています」と今作らしい場面に仕上がったという。

 連続ドラマ、スペシャルドラマ、映画とステージを移して発表してきた今作だが、気になる今後について、「台本次第ですね。どれだけ面白い本ができるかが一番大きいと思います。キャラクターはもう出来上がっているので全然心配ないんですが、どう生かして面白い本が作れるかというところですね。それがあるなら(続編を)撮る気持ちはあります」と力強く語る。撮るならば次は海外ロケ?と聞くと「台本さえ面白ければ東京でもいいと思っている」といい、「まずスーパースター(櫻井さん)のスケジュールが大変なので、海外に行っちゃうとどうなのというのはある。映画にするにはロケーションのすごさがないとだめなんだろうなとは思いますが……」とちゃめっ気たっぷりに語る。土方監督は今作を「テレビドラマとしてエンターテインメントに富んだ作品だったと思う。謎を解く過程が今までのドラマではなかったような、見せ方もそうですけど、今までにはなかったテレビドラマかなとは思います」と評し、「キャスティングも櫻井、北川、椎名とすごいじゃないですか。パート2を本当にやるのなら、連ドラの方こそやりたいと思います。肩の力を抜いて撮っていけるので、連ドラのパート2は面白いかなと思います」と前向きに語った。

 *……ブルーレイディスク(BD&DVD2枚組み)7600円(税抜き)▽DVD(2枚組み)5700円(税抜き)、発売:フジテレビジョン/販売:ポニーキャニオン

<プロフィル>

 1957年生まれ。フジテレビのドラマ「世にも奇妙な物語」シリーズで演出を務め、ほかにも「ショムニ」「半落ち」「絶対彼氏~完全無欠の恋人ロボット~」「ジョーカー 許されざる捜査官」など数多くのドラマで演出を手掛ける。スタイリッシュな演出に定評があり、「映画 謎解きはディナーのあとで」が映画監督デビュー作となった。

(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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