名探偵コナン
#1142「乱歩邸殺人事件(前編)」
11月16日(土)放送分
話題の書籍の魅力を担当編集者が語る「ブック質問状」。今回は、映画監督などとして活動する樫原辰郎さんがフィギュアメーカー「海洋堂」の草創期を描いた「海洋堂創世記」(白水社)です。同社編集部の和久田頼男さんに作品の魅力を聞きました。
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−−この書籍の魅力は?
「1Q84」とも「あまちゃん」とも違う、知られざる1980年代グラフィティーになっているところでしょうか。いまや“オタク”という言葉もすっかり市民権を得ましたし、アニメやフィギュアは日本の国策ビジネスとしても大きく成長しました。その歴史をさかのぼってみると、大阪の路地裏の模型店からスタートした海洋堂が、日本のみならず、“世界のオタク文化”に果たした影響はとてつもなく大きいということはなんとなく知ってる方も、いまや大勢いらっしゃると思います。
この本は、食玩やカプセルフィギュアなどを通じて海洋堂というブランドに触れた多くの方に、海洋堂の魅力をもっとディープに知ってもらえれば!という思いを込めて刊行させていただきました。海洋堂の草創期を伝えるノンフィクションな“社史”であるのと同時に、その書きぶりが“青春小説”さながらであるのも素晴らしいですね。登場人物のキャラの立ち方は絶妙ですし、「海洋堂の“青春時代”はこんなにもものすごかったのか!」と驚かされるエピソードが満載ですし。
舞台となるのはパナソニックの“企業城下町”と知られる大阪の門真市。せまい路地の奥に足を踏み入れた<僕>は、館長や専務、ボーメさんら原型師たちとともに、めくるめく日々を過ごしてゆきます。日本のSFが“ニュータイプ”に突入した時代を背景に、特撮やアニメへの情熱はもちろん、オタキングこと岡田斗司夫氏との対決や、美少女フィギュアづくりの裏事情まで、現場にいた当事者の目から、いきいきと物語られています。前代未聞の、ユニークで痛快な“企業小説”としても楽しめるはずです。
−−書籍が生まれたきっかけは?
最近になって新しい怪獣小説(「赫獣」)を誕生させた作家の岸川真さんが、4年ほど前、著者の樫原辰郎さんを紹介してくださいました。たしかに、特撮やアニメやフィギュアなどに代表される“オタク”な本は、これまで白水社からは刊行していませんでした。
しかし、私がかつて編集を手がけた作品に、宮田珠己さんの「晴れた日は巨大仏を見に」という本があります。これは、日本各地に存在している“ウルトラマンより大きな仏像(身長40メートル以上)”を見てまわる紀行エッセー&日本風景論でした。その本では、同行取材者が「マジンガーZ」や「ガンダム」などにちなんだ“オタク”な比喩を駆使しながらもっともらしいことを恥ずかしげもなく語るのですが……それが私です。同書の中では、“原型師の趣味”ゆえにアニメ顔の大観音が生まれたのではないか、という仮説も述べていました。
−−著者はどんな方でしょうか?
大阪芸術大学出身の脚本家、映画監督です。大学では庵野秀明さんや島本和彦さんの次の世代で、在学中の1984~87年ごろにかけて、門真市の海洋堂ホビー館で、組み立て、宣伝などに携わっていました(それゆえ本書は、海洋堂公認のインサイド・リポートとして、まさしく一級資料たりえることもできるわけです)。
最初は、山川賢一さんの「Mの迷宮 『輪るピングドラム』論」という本への懇切丁寧な注釈者として、樫原さんの博識ぶりにふれました。最近ではタモリさんについてのコラムを数多く寄稿なさってます。しかも、“オタク”な趣味にとどまらず、海外文学にも造詣が深く、クロード・シモン、アラン・ロブグリエ、フラン・オブライエン……といった通好みの作家を愛読していらっしゃいます(白水社にとって理想の読者です)。
−−編集者として、この作品にかかわって興奮すること、逆に大変なことについてそれぞれ教えてください。
帯にも引用しましたが、“世界に1カ所しかないガレージキットの聖地で、原型師ではないけれど、自分にしかできない作業を任されているという気持ちは、一種の宗教体験みたいなものだったと思う。……ただ、僕らには神も仏もなくて、模型だけがあった。”という樫原さんの文章には、しびれましたね。
装画の保光敏将さんによるイラスト版画はノスタルジーを喚起させつつも今風ですし、装丁の矢野のり子さんには書名まわりのデザインにわがままを聞いてもらいました(KAIYODO genesisという欧文書名をプラモデルの組み立てキットのようなロゴにしていただき、書名に“貫通”してるように配置してもらいました)。
各章のタイトル(ガレージキットの誕生、造形狂の会、ナウシカ騒動、ホーリーネーム、原型師たち、僕らの1Q84年、ライフサイズ、魔神と神泉、エイリアン襲来、ソフビゴジラ、夢工場’87、さようなら海洋堂)は私が決めたのですが、なるべくシンプルに、キャッチーで、象徴的な感じにまとめるのに苦心しました。なかでも、「魔神と神泉」は最後の最後にようやく思いついたのですが、そのときは快哉(かいさい)を叫びました。
本書を刊行するにあたって、海洋堂が主催する「ワンダーフェスティバル2014冬」で先行発売しました。それはちょうど記録的な大雪に見舞われた日で、会場だった千葉県の幕張メッセにたどり着くまでが大変だったのは確かですが、今ではいい思い出です。悪天候にもかかわらず集結した4万人以上の来場者の方々からは、フィギュアやコスプレを愛好する人々の情熱というかパワーをいただいた次第です。
−−最後に読者へ一言お願いします。
読んでくださった方からは、テレビドラマ化や映画化を希望する声が多く寄せられます。あなたなら、どのようなキャスティング(配役)をするでしょうか? 家族や友人とも、そんな話題でも盛り上がれる作品です。
白水社 編集部 和久田頼男
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