海堂尊:新作小説「アクアマリンの神殿」 「バチスタ」の10年後描く 翔子とアツシ編4

「そろそろアツシは引きこもりの貝殻から顔を出さないと」と、いつもアツシを心配してくれるショコちゃん (c)海堂尊・深海魚/角川書店
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「そろそろアツシは引きこもりの貝殻から顔を出さないと」と、いつもアツシを心配してくれるショコちゃん (c)海堂尊・深海魚/角川書店

 ドラマ化もされた「チーム・バチスタ」シリーズの10年後を描いた海堂尊さんの新作「アクアマリンの神殿」(角川書店、7月2日発売)は、「ナイチンゲールの沈黙」や「モルフェウスの領域」などに登場する少年・佐々木アツシが主人公となる先端医療エンターテインメント小説だ。世界初の「コールドスリープ<凍眠>」から目覚め、未来医学探究センターで暮らす少年・佐々木アツシは、深夜にある美しい女性を見守っていたが、彼女の目覚めが近づくにつれて重大な決断を迫られ、苦悩することになる……というストーリー。マンガ家の深海魚(ふかみ・さかな)さんのカラーイラスト付きで、全24回連載する。

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◇翔子とアツシ編 4  衝撃の一言

「あ、アツシは今、それなら大丈夫って思ったでしょ? 甘い、おおアマの甘夏蜜柑よ。授業中に寝っこけることだって立派な素行不良なのよ。特に桜宮学園みたいな進学校では、ね」

「でもぼくは病気だし、診断書もあるし」

「学園の先生はダマされても、このあたしには通用しないわ。どうせ診断書は田口先生に書いてもらったんでしょ? いい加減で適当だもんね、あの先生」

「そんなことないよ、いい先生だよ、田口先生は」

「いい先生だと思うのであります、だったわよね?」

 子どもの頃の口癖を引っぱり出してくるなんて反則だ。

 でもショコちゃんはフットワーク軽く、ころころと話題を変える。

「ねえ、今度ここで合宿するんですって?」

 なぜそんな情報を知ってるんだ? そのことをぼくが告げられたのはついさっき、学園の中庭でだから、まだ他には誰も知らないはずなのに。そう尋ねるとショコちゃんはあっさり言った。

「真ッ黒クロスケもたまにはいいことを考えるわね。実はあたしも思ってたの、そろそろアツシは引きこもりの貝殻から顔を出さないといけないわよねってね」

 衝撃のひと言。まさかショコちゃんが、西野さんとツルんでいたなんて。

 西野さんはいつもたいてい、黒ずくめの服を着ている。だからショコちゃんが真ッ黒クロスケとかクロスケと言えば、それは西野さんのことを指している。

 それにしても……。

 西野さんとショコちゃんの関係は食い合わせの悪い梅干しとウナギ、西瓜と天ぷらみたいなものだから、ふたりがひとつのコトにあたるなどありえないと勝手に思い込んでいた。

<翔子とアツシ編完・毎日正午掲載・明日へ続く>

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