黒川博行さん:デビュー30年で直木賞「自分は運が強い」 マージャン中に吉報

第151回直木賞を受賞し、会見で笑顔を見せる黒川博行さん
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第151回直木賞を受賞し、会見で笑顔を見せる黒川博行さん

 第151回直木三十五賞(以下、直木賞)に決まった黒川博行(くろかわ・ひろゆき)さんが17日、東京都内のホテルで行われた受賞会見に出席した。6度目の候補作となった「破門」(KADOKAWA)で受賞を決めた黒川さんは、「デビュー30年。よくここまで生き残れたなという感慨はある。賞の候補に何回もしていただいて、自分は運が強いなといつも思っています。今回その運がまた功を奏して、こういう大きい賞をいただきました。ありがたい」と喜びを語った。会見の主なやりとりは以下の通り。

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 −−受賞の感想は?

 まさか受賞できるとは思わなかった。今まで5回落ちてまして、また今回も……最後はカラオケでも行こうかと。で、マージャンをしてました。6000円勝ちました(笑い)。まあ、ここであまり勝つのはよくないと思っていたけれど。たぶん今日は午後10時からマージャンすると思います。

 −−なぜマージャンをしながら待とうと思った?

 2卓でKADOKAWAの編集者と待っていた。僕は携帯持っていないんですけど嫁のを借りてきた。(午後)7時半ごろに携帯が鳴って、ああ来たなと思った。「受賞しました」と聞いて、みんなが乾杯してくれました。ありがたいなと。

 −−なぜジャン荘で待とうと思った?

 待つのが嫌やから。(落ちるのが)トラウマになってたから。もう落ちて落ちて落ちて、“待ち会”っていうのは嫌なんです。編集者やみんなが待っていて、7時を過ぎるとみんなしんとしてきて、電話を受けた瞬間に落ちたら、どんな顔していいのかと、いつも感じてまして。でもマージャンしてたら、そんな暗い顔しなくて、普通に待てるかなと思った。

 −−選考委員の伊集院静さんが「きちんとした作家だ」と評していた。そう言われるのは?

 「きちんとした作家」というのは自分では分からない。書いてるときに読者のことはいつも意識しています。面白く読んでくれたらうれしいといつも意識している。そこは作家らしいといえばらしいかもしれません。

 −−デビュー30年。候補6回目にしての受賞だが、感慨は?

 ありがたいです。デビュー30年で32、33冊しか書いてないのに、よくここまで生き残れたなという感慨はある。賞の候補に何回もしていただいて、自分は運が強いなといつも思ってます。今回、その運がまた功を奏して、こういう大きい賞をいただきました。ありがたいと思ってます。

 −−かつて直木賞を取ったらギャラ、原稿料が上がるからうれしいと言っていたが?

 たぶん原稿料はそんなに上がらないと思いますけど、本が売れます。売れるのはありがたいんですが、やっぱり物書きとしては、たくさんの人に読んでもらえるのが一番うれしいこと。これで増刷して、10万部単位でもし売れるとすれば、すごくありがたい。今まで単行本の段階で5万部以上売れたことがない。今回もし10万部くらい売れれば、非常にありがたい。税金(印税)で車でも買おうかなと思ってます。

 −−生まれ故郷の愛媛・今治を書いているが、取材して作品の中でふくらんだ部分はあるか?

 僕はあまり外を出歩くのが好きじゃなくて、取材はあんまり好きじゃない。今治は自分の生まれ故郷だし、土地勘もあるし、あちこち動かなくていいから楽だなあと。いつもそんな感じでやってます。今回、マカオに行ったのも自分がバクチしたいから。いつもそんな感じ、ええかげんな理由で、(受賞作を含む『疫病神』シリーズが)もし続くようであれば次はどこに行こうかなと考えている。

 −−作家活動に幼少期を過ごした今治が影響しているか。また、今治に戻る予定は?

 両親が伊予弁をしゃべってましたんで、何をしゃべっているのか、よう分かるんですけど、自分はしゃべれないし、本家もないし、今からもう帰れないです。大阪来たのも幼稚園の時ですから、今治人ではなく、もう大阪人になってますから。今治に対して何かできることがあれば、したいと思いますけど……たぶんないと思います(笑い)。

 −−黒川さんの作品には大阪弁の語りの面白さがあるが、こだわりは?

 よくせりふ回しが漫才のようだといわれるが、割と不本意。上方落語は大好きでよく聞く。大阪人というのはことさら面白い会話をしようと考えているわけではなくて、日ごろ話してるのがあんな感じで、作品の中でここで笑わそうとか、しゃれたことを言わそうとか意識したことはない。大阪人の特性としてあんなせりふが出てくるんです。

 ただし、せりふを考えるのは時間はかかる。僕の場合は地の文よりもせりふの方に時間をかける。パソコンの前で悩みながら。ブラインドタッチはもちろんできません。(両手の人さし指を掲げて)ティラノサウルス状態です(笑い)。ミスタッチも多いし、書くのも遅いし、1時間で(原稿用紙)1枚くらいしか書けない。せりふは軽やかにリズミカルに書けてると思われるのはいいが、ものすごく時間かけて、ああでもないこうでもないと考えています。

 −−黒川さんと一緒に3回、直木賞の候補になった二宮、桑原という2人の主人公に対してメッセージは?

 特にないです。名前のこだわりもないし、知り合いの名前を使うとかえってキャラクター作るのに邪魔。難読での苗字でもない中間くらいの名字をたまたま使っただけで。

 −−今日のマージャンで上がった一番高い役は?

今日ですか? 今日はね、リーヅモ、イーペーコー。タテホン、ドラ2、ぐらいですね。

 −−芥川賞の柴崎友香さんとの写真撮影で唇をひきしめているのが印象的だったが、あえて笑わなかった?

 そんなことは考えてない。やっぱり我々2人は受賞しましたけど、その陰に受賞されてない方もいるので、悪いなと思いまして。

 −−賞金は何に使う?

 とりあえずマカオに行こうと思う(笑い)。ビジネス(クラス)で。たぶん20~30万円くらいは負けてもいいと、いろいろ考えていくと思います。

 −−エッセーで作家生活を支えられた奥様に感謝がつづられているのと、作中のオカメインコのマキちゃんが好評価を得たようだが、受賞の一報を家族とどう分かち合ったか、また反応は?

 受賞の第一声をもらってすぐに嫁はんに電話しました。喜んでました。それだけです。

 −−どんな反応でしたか?

 ええっとですね……(笑い)。オカメインコは家で待っています。

 −−今日もマージャンしていた。競馬も好き。黒川さんにとってギャンブルとは何か?

 もうね、ほかに楽しみがないです。まあ僕の場合は“打つ”に特化してますから。昔、若いころのようにカジノに行った時も高揚感というのはないですね。高揚感ないですけどほかにすることないですから。男同士ってあんまりしゃべりません。何かを介在させて一緒にいる、あるいは会話することが多くて、だからマージャンしてるのもいいんです。カジノにいてもいいんです。ただ、道具なしに話すのがものすごく苦手。人見知りもするし。自分が逃げているという感じも多少はあるかなと。男ばかりが集まって話すのちょっと気詰まりでね。とりあえずは何かをしたい。

 −−黒川さんを見ていると無頼であると感じます。小説自体もやくざの話だが、ある種の優しさや弱い者への思いやりもある。黒川さんの考える無頼とは?

 無頼っていったいなんですかと。自分でも分からないですね。若いころは阿佐田哲也さん、色川武大さんにお世話になりまして。なんか無頼の極致みたいな人で本当に人に優しかったです。自分も年をとったらこんなふうに人に優しくなりたいと思って、憧れがありました。何をするにしたって遊んでもらってありがとう。大阪の子ってそうなんですけどね。遊んでもらって、おおきにありがとうという考えが、骨がらみであるような気がします。

 −−それがカッコよさにつながっている?

 特に作品の中で出そうと意識したことはない。でも自分の性格が作品の中に出ているなら、それはそれでよかったなと思います。

−−最後に一言。

 こんなにたくさん集まっていただいて、ありがとうございました。またお会いしましょう。(笑い)

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