注目映画紹介:「ドライブイン蒲生」 75歳の初監督作 ドライブインが舞台の家族物語

(C)2014 伊藤たかみ/河出書房新社
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(C)2014 伊藤たかみ/河出書房新社

 芥川賞作家の伊藤たかみさんの同名小説を原作に映画化した「ドライブイン蒲生」が8月2日に公開される。映画は、ドライブインという最近ではなくなりつつある場所を舞台に、時代の境目で不器用にあがく父親の元で育った姉弟の葛藤を描いている。たむらまさき監督は、カメラマンとして故・相米慎二監督、石井聰亙(岳龍)監督、青山真治監督らの数多くの作品に参加し、今作で75歳にして初の監督作品となった。姉と父の間で苦悩する弟・蒲生俊也役に染谷将太さん、元ヤンキーで出戻りの姉・蒲生沙紀役に黒川芽以さん、2人の父親役を永瀬正敏さんが演じている。

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 街道沿いの寂れたドライブインに生まれ育った姉の沙紀(黒川さん)と弟の俊也(染谷さん)は、ろくでなしの父・三郎(永瀬さん)のせいで、幼い頃から“バカの家の子ども”とさげすまされてきた。ろくなことがない境遇に失望しヤンキーになった沙紀は、妊娠して家を飛び出すが、数年後、夫のDVが原因で出戻ってくる。夫とヨリを戻すのか別れるのかを決断すべく、沙紀は俊也と幼い娘の亜希子(平澤宏々路ちゃん)を引き連れ夫の元へと向かう……というストーリー。

 これまで一貫して日本のインディペンデント映画の屋台骨を支えてきた撮影監督であるたむら監督が、75歳にして新人監督となった今作は、全編を通して“映画のにおい”をそこかしこに感じることができる。キャリアを積んできたからこそだろうが、デビュー作とは思えぬ風格と、ベテランらしからぬみずみずしさがマッチし物語に彩りを与えている。ドライブインという時代遅れな場所を舞台に展開する家族の物語は、その意外性とともに、じわじわとしみ入る日本映画の演出のよさが詰め込まれている。姉弟を演じる染谷さんと黒川さんが好演で、特に回想シーンでの高校時代と小さな娘を持つ母親という役どころを見事にこなした黒川さんの演技は必見だ。遠近感ある場面を中心に、長回しで撮影されたシーンは臨場感抜群で、「dip」のヤマジカズヒデさんが手がけたサイケディリックなギターサウンドが観客の心情をざわざわとかき立て、通常とは少し異なる家族ドラマが楽しめる。一瞬誰だか分からないような永瀬さんのぐうたらぶりも見逃せない。シアターイメージフォーラム(東京都渋谷区)ほか全国で順次公開。(遠藤政樹/フリーライター)

 <プロフィル>

 えんどう・まさき=アニメやマンガ、音楽にゲームなど、ジャンルを問わず活動するフリーの編集者・ライター。イラストレーターやフォトショップはもちろん、インタビュー、撮影もOKと、どこへでも行き、なんでもこなす、吉川晃司さんをこよなく愛する自称“業界の便利屋”。

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