ダンダダン
第8話「なんかモヤモヤするじゃんよ」
11月21日(木)放送分
劇場版アニメ「それいけ!アンパンマン りんごぼうやとみんなの願い」(川越淳監督)が公開中だ。今作は、2013年に亡くなった原作者のやなせたかしさん最後の絵本「アンパンマンとリンゴぼうや」が原案で、やなせさんが12年から取り組んできた東日本大震災の復興3部作のラストを飾る作品。「ふるさと」をテーマに、毒りんごに冒された「アップルランド」を元の姿に戻すため、アニメ声優初挑戦の井上真央さん演じる「りんごぼうや」がアンパンマンたちの助けを借りて立ち向かう姿を描いている。長年アンパンマン役を務めてきた戸田恵子さんに、アンパンマンのヒーローとしての魅力や今作に込めた思いについて話を聞いた。
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テレビアニメに劇場版と戸田さんは長年、アンパンマンの声を演じ続けている。「ずっとやってきているので特に何かいつも思い描いて演じているわけではない」と話す戸田さんだが、「(やなせ)先生はじめスタッフの皆さんが作られた台本やせりふの一字一句を大切に私たちがその通りにやっていれば、この世界観は伝わるんじゃないかなというふうに思っています」と作品への真摯(しんし)な思いを明かす。「強いだけがヒーローじゃない」というやなせさんが「アンパンマン」に込めた思いを胸に「特に今回の映画にあるように“強くて優しい”というところが大きな課題で、いつも優しさを持って(役に)接しています」と収録の様子を語る。
やなせさんが亡くなった時には「先生を失ったことは想像を絶する喪失感でした。本当にどうしていいか分からなかった」という。「あまりにふさぎ込んでしまい、正直(アンパンマンを)やれないというかやりたくない」とまで思い詰めたそうだが、昨年に続きボランティアで仙台アンパンマンこどもミュージアム(仙台市宮城野区)を今年の正月に訪れた際、「そこに“答え”があった」と戸田さん。「元気な子供たちを見ていたらふさいでなんかいられないと気を取り直しました」と救われた気持ちになったという。「やっていくんだという気持ちはもちろんありましたが、昨年は何かどこかで苦しかった。年が明けて気持ちも新たに心強く、やっていかなくちゃいけないなという思いになりました」と打ち明ける。今作についてやなせさんに「元気でやっていますと伝えたい」と笑顔を見せる。
今作は東日本大震災の復興3部作の3作目にしてやなせさん最後の絵本が原案だが、「いつにも増して原点回帰」と台本を読んだ時の印象を語る。「テレビアニメの第1回にアンパンマンが誰かのために何かを成し遂げた時、あるいは結果が出なくてもその行為をした時に『すごく胸がホカホカする』というせりふあって、すごくいいなと思った」と振り返り、「それが今作には色濃く出ているような台本になっていた」と実感したという。「復興3部作の3作目ということもあり、先生が最初にアンパンマンを作られた時の思いがすごく詰まっているなと思いました」と感慨深げな表情を浮かべる。
さらに「なんのために顔をちぎってみんなにあげたり、人のために何かお手伝いすることの何を喜びとしてアンパンマンはやっているのかということを、りんごぼうやに教えてあげるシーンがあって、そこに強く(アンパンマンに込めた思いが)出ているなと思いました。すごくいいシーンだと思いますし、一番好きなシーンですね」とお気に入りのシーンを明かす。そして、「やっている時もちょっとジーンとしながらでしたが、出来上がったものを見ると、やっぱりすごくキュンとするシーンだなと思いました」とほほ笑む。
戸田さんが演じているアンパンマン以外に可愛いとかカッコいいと思うキャラクターはいるのだろうか? 「もちろん一番カッコいいのはアンパンマン」と断言するが、「いつもうらやましいなと思っているのはドキンちゃんとかコキンちゃん」だという。「(現場にいる)女子は『なんでも口にしてやっていけるのはいいよね』ということをいつもいっていて、『あれを取ってきて』とか『おなかがすいたから何かを食べたい』とか奔放さがノンストレスでいいですね」とチャーミングに笑う。ちなみに、アンパンマンの永遠のライバルである「ばいきんまん」については、「やなせ先生は(アンパンマンが)アニメーションになる時に一番気にしていたのがばいきんまんの声」と切り出し、「うまくいかなければ僕がやると言っていたぐらい(笑い)」と明かし、「中尾(隆聖)さんという素晴らしい声優さんが担当することになり、先生も安心されたと思います」と代弁する。
アンパンマンを演じる戸田さんに「ヒーローとは?」と質問すると、「今はアンパンマン以外に考えられない」と答えるも、「やっぱり強いのも魅力的ですが、最終的には優しいということの方が勝ります。どっちを取るかといわれたらすごく難しいところだけど、両方備えているのが一番よくて、ダメになるヒーローが人間味があるというか(笑い)、カッコいいばかりじゃね……というふうに思います」と持論を展開。そして、「実際に人のために何かをするというのは大変なことで、例えば誰かの話を真剣に聞いてあげるだけでも結構疲れるもの」といい、「誰かのためとか真剣に気持ちを寄せるって大変なことだから、ヒーローは大変。だからカッコ悪い時もある(人間味あふれる)ヒーローが一番いいかなと思います」とヒーローの大変さに共感を示す。
戸田さんにとっての“相棒”でありヒーローのアンパンマンについては、「誰かを助けてあげて自分の体が“ダメ”になるところ」が魅力的と話し、「顔をちぎっておなかを空かせた子に食べさせてあげるという、他のキャラクターにはない行為がとても面白い」と感じているという。「先生はひもじい人を助けることが一番のヒーローというふうに考えていらっしゃったと思う。それは気持ちを病んでいたり、しょげていたり、元気のない人たちを助けるということと同じことだと思います」と理由を説明し、さらに「自分が何かマイナスの要素を背負うと分かっていて、誰かのために何かできるかということ。そこがアンパンマンのすごいところでもあり、好きなところでもあります」と力を込めた。映画は全国で公開中。
<プロフィル>
1957年9月12日生まれ、愛知県出身。NHK名古屋放送局児童劇団に小学5年生から在籍し、「中学生日記」の前身「中学生群像」で女優デビュー。その後、声優として活躍し、歌手として数枚のアルバムを発表する。女優としてもドラマや映画に数多く出演し、映画「ラヂオの時間」では日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞するなど三谷幸喜作品には欠かせない存在となり、女優、声優として幅広い層に支持されている。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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