ギタリストの高中正義さんが、1979年に井上陽水さんと日本武道館(東京都千代田区)で開催したジョイントコンサートでの演奏曲を、新たにライブ形式で録音したアルバム「SUPER STUDIO LIVE!」を3日にリリースした。今作は、「BLUE LAGOON」やサディスティック・ミカ・バンド時代の「黒船」などを当時のセットリストのまま再現した作品で、さらに、スペシャルトラックとして新曲2曲も収録されている。35年前の日本武道館公演のスタジオライブ盤ともいえる新アルバムの話や当時のエピソードについて、高中さんに聞いた。
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−−当時は2部構成ライブで井上陽水さんとの直接の共演はなかったそうですが、陽水さんとの親交自体はあったんですか?
(井上さんのアルバム)「氷の世界」のレコーディングにベースとギターで参加したり、「夢の中へ」も確かベースとギターの両方を弾いていて、その後、アレンジを何曲かしたこともあるんです。彼の家に遊びに行って、プールに入ったこともあって。その後に「メシ食ってけ」って言われて、大嫌いなカキが出て……。その日からカキが食べられるようになったんですよね(笑い)。
−−今回のレコーディングは一発録(ど)りで行われたそうですが、演奏してみていかがでしたか?
僕はインディーズでやり始めてもう14年になるんです。軽井沢(長野県)に引っ越してからも14年で、自分の部屋でコツコツとコンピュータを使って1人でCDを作り続けて……。15年くらいスタジオで演奏してなかったので、「人がいる、懐かしいな」って。スタジオで出前をとってみんなで食べたり、誰かが遅刻してきたり、そういう中でやってたんだなって。
−−35年前に間違えたところもそのまま再現したそうですね。
「BLUE LAGOON」のイントロの部分なんですけど、4回同じフレーズが出てくるところを、2回目に違っちゃってるのは僕は間違いだと思っていて、同じことをやるつもりだったのがちょっと指がコケちゃったんです。それはコード的には間違ってないんですけど、コアなファンには当時の間違えたままのほうが納得してもらえるんじゃないかと。
−−8曲目「黒船」は、加藤和彦さん率いるサディスティック・ミカ・バンド時代の曲ですが、当時の思い出はありますか?
一時、僕はバンドをクビになったことがあるんですね。ちょっとのんべえだったということで(笑い)、素行が悪かったというか。でもそれから1年も経たないうちにクリス・トーマスという英国のプロデューサーが英国で売り出したいっていうので来て、1枚目のアルバム(「サディスティック・ミカ・バンド」)は僕も参加したんですけど、「このギターはもういないの? いないとダメだ」って言ってくれて。だから僕は復帰できたんです。それで「黒船」という曲は、アルバム(2枚目の「黒船」)を作るとき、最初、僕が歌ってたのを作って持って行ったらいまいちウケがよくなくて「これはボツだな」って思ってたんですけど、最後のほうでインストでやったらいい感じだなってことになって、アルバムに入ったんです。それを今もコンサートでやっていて、ボツどころか一番いい曲かなって自分では思ってるんですけどね。
−−サディスティック・ミカ・バンドの名はボーカルのミカさんのサディスティックな包丁使いに由来しているというのは本当なんでしょうか?
ジョン・レノンのプラスティック・オノ・バンドというのがあって、それをもじったとは思ってたんだけど。加藤さんは料理がうまかったですね。「今日、カレー作るから来ない?」っていわれて加藤さんが住んでる白金(東京都港区)のマンションに行ったことがあるんだけど、作ってたのは加藤さんで、ミカさんはしゃべってた(笑い)。料理をしない女の人だったと思うから、たぶんそれ(包丁使い)は怖いかもしれないですね。でも真相は分からないですよ。だって名前を付けるとき、僕に相談なかったから(笑い)。
−−ところで、高中さんの曲には「BLUE」や海にまつわるワードが入ったタイトルのものが多いですね。その理由は?
ラテンの音楽に憧れていて、最初のソロアルバム(「SEYCHELLES」)を出すとき、ラテンといえば南国の雰囲気もあるし、どういうのがいいかなっていろいろ考えて。そんなとき、グラフ誌か何かで“インド洋の最後の楽園セイシェル諸島”って書いてあるのを見て、ラテン音楽も好きだし、南国っていいなって。実は「BLUE LAGOON」の名付け親は写真家の浅井慎平さんなんです。
−−90年から03年までバハマに別荘をお持ちだったそうですが、今は山合いの軽井沢にお住まいというのは意外ですね。
僕、高校1年のときワンダーフォーゲル部だったんです。丹沢(神奈川県)とか奥多摩(東京都)に行ったり、夏の合宿は尾瀬(群馬県ほか)で、軽井沢にもちょこちょこ行ってたんです。軽井沢は冬はすごく寒いけど、気持ちいいですよ。
−−そして、今作に収録されている新曲「三元閣」は高中さんの実家が営んでいた雀荘の名前だそうで、麻雀発祥の地である中国らしい音階というか、オリエンタルな雰囲気もありますね。
昔は自分の家の職業が恥ずかしくて嫌いだったんです。友達を連れてきても、お客さんがいっぱいいて話もできないし。でもこの年になってくると、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」を見てホロッと泣いちゃったりして、昭和が懐かしいというか。一生のうちに実家の曲が1曲くらいあってもいいのかなって。それに麻雀用語が飛び出す曲なんてあんまりないと思うし。僕は麻雀自体はよく分からないので、最後の方で(用語を)連呼してるところは、一番勝ちそうな手をネットで調べて……。今はもうその三元閣はないわけだけど、自分なりの“昭和レトロ”ですね。
<プロフィル>
1953年3月27日生まれ、東京都出身。71年、つのだ☆ひろさんが在籍していたバンド、フライド・エッグにベーシストとして参加し、プロミュージシャンの活動を開始。72年に加藤和彦さんが結成したサディスティック・ミカ・バンドにギタリストとして加入。バンド解散後、76年に1枚目のソロアルバム「SEYCHELLES」をリリース。高中さんが初めてハマッたポップカルチャーは、小学生のころに読んでいたマンガ。「『少年』(光文社)っていう雑誌に載っていた『鉄人28号』や『鉄腕アトム』の絵をマネして描いたり、たぶんマンガ家になりたいって思ってたんだろうなと。その雑誌に付録が入っていて、戦車とか飛行機を紙で作ったりもしてました」と話した。
(インタビュー・文・撮影:水白京)
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