ぶどうのなみだ:大泉洋さんと安藤裕子さんに聞く 共通点は「3歳の娘」

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 北海道の空知を舞台に、俳優の大泉洋さんとシンガー・ソングライターの安藤裕子さんが共演した映画「ぶどうのなみだ」(三島有紀子監督)が11日から全国で公開された。都会に出たものの夢破れて故郷に帰り、理想のワイン造りに励む大泉さん演じるアオと、彼の前に突然現れ、ぶどう畑の近くに穴を掘り始めた安藤さん演じるエリカ。それぞれに過去を抱えた2人が、北海道の風土とおいしい料理から生きる力を得ていくヒューマンスストーリーだ。大泉さんと安藤さんに映画について聞いた。

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 ◇前作に続き「また寡黙な役」

 三島監督の作品への出演は2度目となる大泉さん。前作「しあわせのパン」(2011年)では、原田知世さん扮(ふん)するヒロインの寡黙(かもく)な夫を演じた。今回演じるアオについて三島監督から、「とても寡黙でめちゃくちゃストイックな役」と書かれたメールが送られてきたとき、「また寡黙だなあと思った(笑い)」と打ち明ける。日頃から、演じるのは「ものすごく寡黙か、めちゃくちゃしゃべるかのどちらか」の役という大泉さんは、「しゃべる役はしゃべる役で大変なんです。せりふを覚えるだけでなく、それを流暢(りゅうちょう)にしゃべらなければなりませんから」と冗舌な役の苦労を語る。その点、「寡黙な役というのはせりふを覚えなくてもいいのである意味、楽ではありますけど、ストイックな人というのは演じていて疲れはします(笑い)。僕の場合、普段の生活で役を引っ張ることはないので、本番だけ集中するわけですけど、それでもやっぱり疲れてきますよね。ストレスを抱えている役なわけですから」と寡黙な役なりの大変さを口にする。

 ◇エリカを演じて「自分の持つ武器が増えた」

 一方、エリカを演じる安藤さんは、高校生の頃、映画監督を夢見たことがあったそうだ。それだけに、映画に対しては、音楽家として活動するようになってからも「尊いというか憧れが強く」、近寄りがたかったという。にもかかわらず出演を決めたのは、日本を襲った未曾有の大震災、自身の出産、祖母の死といった「生死について考える時間」があったことが大きいという。「生きる上で、自分は何がやりたいんだろうと考えるようになったんですね。自分が死ぬまでにやりたいと思うことをすべてやりたいというふうに考えるようになっていったし、映画の世界でもやりたいことがいくつかあって」、そんなときに舞い込んだのが今回のエリカ役だった。

 演じるエリカについて安藤さんは、「すごく感情の動きが大きいし、抱えている怒りも大きい」と分析する。若い頃は、人前で感情を出すことがなかったという安藤さんにとってエリカは、「役柄だけでいうなら少し(自分と)遠い」というイメージがあり、むしろ台本を読みながら、大泉さんが演じるアオに親近感を覚えたそうだ。しかし演じ終えた今は、「演技とはいえ、その人として生きたことによって、その人が持つ強みとか経験値みたいなものが自分にプラスされた感じ」があり、「例えば、エリカが持っていた女性性とか強さみたいなもの……たぶん自分の根っこにもあるんでしょうね、そういう見知らぬ自分を引き出してもらったことによって、自分の持つ武器が増えた感じがします」と満ち足りた表情を浮かべる。

 ◇ベーコンに舌鼓の安藤さん その時、大泉さんは…

 大泉さんは今回の作品で「三島ワールドがより確立されたような気がする」と話す。大泉さんによると、三島監督の作品には「撮るものが象徴的で、演じながら、これって現実世界でいうとどういうことなんだろうと思うことがある。でも出来上がったものを見たときに、なるほどなと思わせてくれる」という特徴があり、いわばそれは「ピカソの絵」のようなもので、「1枚の絵の中にいろんなものが表現されている」と表現する。完成した今作を見たときは「不思議な感覚を抱いた」そうだ。

 北海道の食材で作った料理を食べるというシーンもふんだんに盛り込まれた今作。大泉さんも安藤さんも、空知という土地で大自然の美しさや食べ物のおいしさを五感すべてで味わったようだ。大泉さんは今回の撮影で「北海道にもこんなにおいしいワインがあるんだということを改めて認識した」といい、安藤さんは食べ物から、演じる上での力を得たという。その安藤さんは「ベーコンの塊をザクザクと切ってそれを食べたとき、ウマッと思いました。そのとき飲んでいたのは(ワインに見立てた)ジュースだったんですけど、その時ばかりはお酒が飲みたい!と思いましたね(笑い)」と幸せそうに振り返った。そして、「あと、ラムチョップとか。柔らか、ウマッ!みたいな、ね」と隣に座る大泉さんに同意を求めると、ベーコンが登場するシーンに出番がなかった大泉さんは「あのベーコン、食ってねえんだよな……」とうらめしそうにつぶやいていた。

 ◇今だから分かる親の心

 今作では、親子の関係についても触れている。若い頃はいちいち反発していた親の言葉も、自分が親になってみるとその気持ちが分かるという。大泉さんと安藤さんには共に3歳の娘がいる。「今までは言っても分からない年齢だったけれど、今は常に教えないといけない年になってきた」と娘について話す大泉さんは、かつて自分が幼かった時のことを思い出しながら、「あれだけ面倒くさいと聞いていた、オヤジとおふくろが言ったことが、全部そうだよなと思うし、僕たちがしつけているときに娘が『うるさい』と言ったら、なんて腹が立つんだろうと思う」と笑う。そうした経験からアオには、「オヤジの言うことは聞きなさい、あんたのことを思って言っているんだから、と思いますよね。うるさく言うことの裏には愛情があるということを、分かった方がいいんじゃないかな」とアドバイスする。さらに、大杉漣さん演じる寡黙だったアオの父と、その血を受け継いだアオに対して、「僕は、語らないで伝わらないのが一番嫌な性分ですから、自分が思っていることは相手にきちんと伝えたほうがいいと思いますね」と言葉を重ねた。

 「親になったものの、今はまだその実感が薄い」と話す安藤さんも、安藤さんが何か言うたびに「ママ、しっ、大きい声出さないで」とか、一緒に歌おうとすると「歌っちゃダメ」と言い返す娘には手を焼いているようで、時には「小憎らしい(笑い)」と思うこともあるそうだ。それでも、「彼女が笑っていないとすごく不安になる」と母の顔を見せながら、ある事情から江波杏子さん演じる母親を愛せないエリカの心情に「エリカもおそらく咀嚼(そしゃく)できていない部分があって、実際、(母親がエリカにした行為に対して)許せないですよね」と理解を示す。その上で自身と自身の両親の関係に思いを巡らしながら、「でも、お互いに消せない絆みたいなものがあって、それは年を取ると徐々にいとおしさに変わる部分があるんですよ」と話し、「親子の絆というか、なんとなく存在するものって、なんとなくいとおしいものなんじゃないかな。だからエリカも、いずれ普通にそういうふうにいられればいいんじゃないかな」と笑顔を見せた。映画は11日から全国で公開。

 <大泉洋さんプロフィル>

 おおいずみ・よう 1973年生まれ、北海道出身。演劇ユニット「TEAM NACS」のメンバー。北海道発の深夜番組「水曜どうでしょう」でブレークした。主な出演作に、映画は、「探偵はBARにいる」(2011年)、「清須会議」(13年)、「青天の霹靂(へきれき)」(14年)など。ドラマは、NHK大河ドラマ「龍馬伝」(10年)がある。出演した映画「トワイライト ささらさや」の公開を11月に控える。

 <安藤裕子さんのプロフィル>

 あんどう・ゆうこ 1977年生まれ、神奈川県出身。2003年シンガー・ソングライターとしてメジャーデビュー。05年、月桂冠のテレビCMソングに「のうぜんかつら(リプライズ)」が採用され話題に。14年3月、初のアコースティック・ミニアルバム「Acoustic Tempo Magic」を発表。今作「ぶどうのなみだ」が、ミュージシャンデビュー後初の映画出演作となる。

 (インタビュー・文・撮影:りんたいこ)

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