ヘラクレス:ラトナー監督に聞く 主演のドウェインは「弱さ、人間味を表現できる才能の持ち主」

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 ギリシャ神話に登場する“最強のヒーロー”に、プロレスラーとしても活躍する俳優ドウェイン・ジョンソンさんが扮(ふん)したアクション娯楽作「ヘラクレス」が24日から全国で公開された。英国のグラフィックノベルを原案に、「ラッシュアワー」シリーズ(1998年、2001年、07年)や「X-MEN:ファイナル ディシジョン」(06年)などの作品で知られるブレット・ラトナー監督がメガホンをとった。アクション映画を得意とするラトナー監督だけに、今作もジョンソンさんらの血沸き肉躍るアクションシーンが随所に盛り込まれているが、監督本人は「戦闘シーンは背景に過ぎない。前面に出てくるべきはキャラクターだ」と話した。来日したラトナー監督に聞いた。

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 ヘラクレスといえば、これまで多くの作品で、神ゼウスと人間の間に生まれ、超人的な力を持つ地上最強の男として描かれてきた。ラトナー監督が子供の頃から慣れ親しんできたストーリーも、同様のものだった。ところが今作のヘラクレスは、恐るべき怪物を倒した“12の難業”を“伝説”として利用し、5人の仲間と金を得るために戦う、苦悩を抱えた兵士として描かれている。ラトナー監督は、スティーブ・ムーアさんのグラフィックノベルを読んだ時、「脱神話化を図り、ヘラクレスを人間的に描いている。また、黒澤明監督の『七人の侍』(54年)のような兵士たちが出てくる。これまで見てきたヘラクレスとは全く違う」と驚き、「もしかしたらヘラクレスはこういう人だったのかもしれない」と興味を持ったという。

 その“新たなヘラクレス像”をラトナー監督は、「彼(ヘラクレス)は、自分がゼウスの子であることも、大いなる力を持つことも信じていない。家族の死を自分の責任と考え、苦悩している。しかし、自分の中に眠る力を見いだすことで、周りが期待するヒーローになっていく」と説明し、その上でヘラクレスが、イアン・マクシェーンさんが演じる兵士仲間のアムピアラオスが放った言葉に反応し鎖を断ち切る場面を、「ヘラクレスが悩みから解放され、自分が伝説の男であると確信する象徴的なシーン」と位置付ける。

 俳優には「タイプキャスト(典型的なキャスティング)とは逆をやらせるのが好き」というラトナー監督。「今回、私は俳優の皆さんには随分挑戦状を突き付けて、いつもとは違うことをやらせたつもりだ」と語るが、その挑戦状を突き付けられた一人が主演のジョンソンさんだった。ジョンソンさんについて、監督は「ドウェインはこれまで、典型的なタフガイの役が多かった。でも実際のところは自分の弱さ、あやうさをスクリーンで見せることができる類いまれな才能の持ち主。弱さを見せることは人間味を見せることになり、それが結果的に観客の共感を呼ぶことになる。彼は、共演者を輝かせることをいとわない。ほかの俳優に輝いてもらうことで、自分もそこからインスピレーションを受けることができる稀有(けう)な人」とたたえる。また、ジョンソンさんは、撮影期間中、「まだ夜が明ける前の午前2時や4時に撮影現場にやって来ては肉体鍛錬に励んでいた」といい、お陰で周囲の人たちもその姿に触発され、「非常に一生懸命働き、職業倫理の高い現場だった」と振り返った。

 撮影は、ハンガリーのブダペストにある映画スタジオにセットを作って行った。製作会社からは、コンピューター・グラフィックス(CG)の使用を勧められたそうだが、「リアルで地に足が付いた、生々しいものにした方がいい」と断った。結果、CGを使った場合の半分のコストで出来上がったそうだが、「出来はこっちの方がよかった」とリアルなセットの出来映えに満足していた。

 日本のファンにメッセージを求めると「私は小さい時から黒澤明監督の映画、日本の映画が大好きで、日本の文化や映画に尊敬と称賛の心を持って育ってきました。その影響から、戦闘シーンを撮る時はいつも黒澤映画や日本の映画を念頭に、謙虚な気持ちで取り組んでいます」と話した上で、「日本の監督たちのような素晴らしい“マスター”にはなりえないことは分かっていますが、私は私なりに違うタイプの映画、娯楽性のある映画を作り、皆さんに楽しんでいただきたいと思っています。今回は、その中でもヒーローもの。皆さんが、ギリシャの文化やギリシャ神話を知らなくても十分楽しめる、共感できるヒーローものを作ったので、ぜひ楽しんでもらいたいです」とアピールした。映画は24日から全国で公開。3D、IMAX3Dも同時公開。

 <プロフィル>

 1969年生まれ、米フロリダ州出身。97年「ランナウェイ」で長編映画監督デビュー。2作目の「ラッシュアワー」(98年)が大ヒットし、その後、2001年と07年に続編が作られた。そのほかの主な作品に「天使のくれた時間」(00年)、「レッド・ドラゴン」(02年)、「X-MEN:ファイナル ディシジョン」(06年)、「ペントハウス」(11年)などがある。人気テレビシリーズ「プリズン・ブレイク」(05~09年)では、パイロット版の監督と製作総指揮を務めた。プロデューサーとして関わった作品に「白雪姫と鏡の女王」(12年)、「ジャージー・ボーイズ」(14年)などがある。写真家としても高く評価されている。

(インタビュー・文・撮影/りんたいこ)

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