HMV:ネット時代にレコードに活路 渋谷出店の狙いとは

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 かつて「世界一レコード店の多い街」といわれた東京・渋谷の宇田川町にレコード&中古専門店「HMV record shop 渋谷」が誕生してから約4カ月が経過した。これまでCD販売を中心にチェーン展開してきたHMVにとって初形態となる同店舗。1990年代末をピークに年々CDの売り上げが減少し、音楽の楽しみ方の主流がダウンロードやストリーミング、「YouTube」に「ニコニコ動画」(ニコ動)とインターネット中心へと移行する中、HMVは「レコード」に活路を見いだそうとしている。その理由を追った。

ウナギノボリ

 ◇海外で見直されるレコード

 「HMV record shop 渋谷」は、90年に1号店が渋谷に登場して以来、約25年にわたってCDチェーンを展開してきたHMVジャパン(現ローソンHMVエンタテイメント、以下HMV)初のレコード&中古専門店として今年8月にオープンした。90年代から各店舗でレコードの取り扱いはあったものの、中古商材を含めた「専門店」は今回が初。在庫数は約8万点で、バイヤーが自ら海外で買い付けてきた洋楽の中古レコードが中心。変わったところでは中古のカセットテープも置き、プレーヤーや針、カートリッジなどレコード関連商品も並ぶ。

 そもそもなぜレコード&中古専門店だったのか。CDは、ピーク時の98年に約5879億円あった年間生産額が昨年約1962億円(日本レコード協会統計)まで減少し、「CD不況」という言葉が当たり前のように使われるようになった。それに伴い2008年には全国で67店あったHMV店舗も現在は52店(HMV record shop 渋谷を含む)まで規模を縮小しており、10年8月には旗艦店のHMV渋谷も閉店を余儀なくされた。一方、レコードは海外で見直されてきている。米国では、先日、全米レコード協会(RIAA)が発表した14年度1~6月期の音楽売り上げによると、前年同期比でレコードの売り上げが約40%、出荷枚数が約41%増加し、高音質の「ハイレゾ音源」を含む音楽データかレコードかの二極化傾向が鮮明になってきており、日本でも、熱心な音楽ファンの間では「レコードのリバイバルブームが来ている」とささやかれている。

 HMVエンタメコンテンツグループ新業態・開発本部長で「HMV record shop」責任者の小松正人さんは「ブームはあると思うが、世間でいわれているほど現場の僕らは感じてはいないんです」とリバイバルブームは日本ではまだ本格化していないという。だがその上で「HMVの新たな事業として、中古商材を今後どう扱っていくかという大きなテーマがまずあって、そこで“フック”を一つ作る必要があった。そのためのリアル店舗であり、盤質やジャケット状態など、手に取ってみないと分からない、伝わらない価値という部分で(中古)レコードは店舗形態に合っていた」と店舗誕生の理由を明かす。

 ◇本格参入へ

 小松さんは「ただ単に店舗を作って、レコードを売っていくだけが目的ではない」とも話す。HMVとしては今後、ECサイト(HMV ONLINE)を通じて中古レコード・CDの販売をスタートさせる予定(時期は未定)があるといい、その前にユーザーへの認知度と信頼度を高めることは不可欠。「HMV record shop 渋谷」は、より本格的な中古市場参入への「広告塔」としての役割も担っているのだ。

 ECサイトを含めた今後の事業拡大を考えると、避けて通れないのが、同形態の店舗を東京都内に数多く展開する「ディスクユニオン」、または「amazon」や「ヤフオク!」との競合だ。特に「amazon」に脅威を感じる部分は大きいといい、単純な価格競争ではある意味「白旗状態」だという。小松さんも「リアル店舗とレコードの良さを生かして、どれだけ発信力を高められるか、今の僕らの一番の課題です」とも語っている。

 そこで重要になってくるのが、リアル店舗の特性を生かした商品展開と独自の流通網による在庫の確保。ハード面では、ネット環境にも対応したUSBメモリー付きのスピーカー一体型ポータブルプレーヤーの販売やパイオニアの最新ターンテーブル「PLX‐1000」によるレコードの試聴、ソフト面では、同店舗でしか手に入れることのできない「HMV record shop限定盤」の販売、よりターゲットを絞ったセール。欧米のレコードフェアに実際に足を運んでの“買い付け”もこの中に含まれるだろう。そのほかゲストを招いたイベントの開催などレコードを手に取って聴く楽しみを提供するための施策には余念がない。

 ◇オリジナル限定盤で若者取り込み

 同店ではまた名盤・人気盤の再発や若手アーティストの新作などを「HMV record shop限定盤」レコードとして限定発売している。新世代ポップユニット「Sugar’s Campaign」の「ネトカノ」7インチレコード盤は限定500枚が即日完売するなど、「HMV record shop限定盤」は早くも一定の成果をあげ、20代前後の若いユーザーの足を店舗に向けさせる大きな呼び水にもなっている。

 小松さんは「実は若いアーティストの方から、うちからレコードを出したいっていう声も多くて。ユーザーにとってそういった同世代アーティストの影響は大きいのではないか」と分析。今後も「HMV record shop限定盤」にハイレゾ音源のダウンロードコードを付けるなど、ネット時代に即した対策を随時とっていく予定で、12月からは店のホームページで一部商品のネット通販をスタートさせている。

 ここまで「試行錯誤の連続」といいながらも、売り上げ自体は想定の範囲内で推移しているという「HMV record shop 渋谷」。ネット時代のリアル店舗のあり方、レコードと中古商材の可能性をどういった形でこの先見せていってくれるのか注目だ。

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