三浦春馬:行定勲監督と「真夜中の五分前」語る 日中合作「自分が何者であるか考えさせられる」

映画「真夜中の五分前」について語った主演の三浦春馬さん(左)と行定勲監督
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映画「真夜中の五分前」について語った主演の三浦春馬さん(左)と行定勲監督

 俳優の三浦春馬さんが中国語での演技に挑戦した「真夜中の五分前」(行定勲監督)が27日に公開された。今作は、本多孝好さんの小説「真夜中の五分前 five minutes to tomorrow side−A/side−B」を基に日中合作で映画化。上海を舞台に、孤独な日本人の青年と美しい双子の姉妹がサスペンスタッチの恋愛物語が繰り広げられる。メガホンをとった行定監督と、上海で時計修理工として働く日本人の青年・リョウを演じた主演の三浦さんに、お互いの印象や撮影に対するこだわりなどを聞いた。

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 ◇主流のスピーディーな作品とは一線を画す

 今作は日中共同で製作されているが、行定監督は「映画を見てもらうと分かると思うけれど、今の日本映画のラブストーリーとは少し違う」と切り出し、「スピードがまず違う」と語る。そして「世界中が展開が速くて明快な映画が多く、たとえば犯人捜しをするようなものであれば、多分日本(映画)でも大丈夫だったと思うけれど、そういう選択を僕がしなかった」と明かす。さらに、「80~90年代に映画を志している頃に影響を受けたのが“台湾ニューウエーブ”と呼ばれるアジア映画や中国圏の方たちの活躍だった」と前置きし、「当時の映画は決して明快なものばかりではなく、空気や雰囲気、人の魅力などを掘り下げたものも多く、そういった片隅にでも今作を置ければいいなという気持ちがあった」と日中合作に至った経緯を説明した。

 映画は全編にわたって上海で撮影が行われ、中国語のせりふでの演技が要求された。今作への出演について、三浦さんは「常に自分が踏み入れていないフィールド、ステージを目指したいというのがある」とその理由を語り、「それに加えて行定勲監督と仕事ができるという喜びと、台本を読んで、明快なものではないストーリーの中で繊細に描けることや表現できることがあるのではと考えた時に、すごくワクワクした」と当時の心境を語った。「中国語を勉強することが必要で、会得まではいきませんでしたが、(出演を決めた理由の)一番はワクワク感でした」と振り返る。

 ◇ぶれない三浦春馬が心強かった

 行定監督と三浦さんは今作が初顔合わせだが、撮影を通して三浦さんのことを「よく知ることができた」と行定監督。「俳優というのは(一緒に仕事をしても)意外と知ることができない人もいて、春馬のことをすごく知ることができたのは結構過酷な現場だったこともある」と説明する。さらに「製作側の僕らは(現場で)起きていることが分かっているけれど、役者は最終的に知らされるから」と続け、「待たなければいけなかったり、変更したりということが、理由が明確じゃない中で、春馬の腹が据わっていたんだと思う」と分析。そして、「そういう意味では心強かった。俳優がナーバスになり過ぎちゃうと、(製作の)僕らは空回りするけれど、そういうことがなかった」と感謝の言葉を送る。

 行定監督の発言を聞いていた三浦さんは「(同じ現場を経験したことで)より監督のこの作品に懸ける思いなどを深く知ることができたし、監督がおっしゃってくれたことを含めて、すごくうれしく思う」と感激していた。すると行定監督が「今思えばこの人の人間性や役者としての心構えとして『この映画に関わっているんだから』と、これも(映画製作の)一つだという見方にしている」と切り出し、「僕はこの映画は静謐(せいひつ)で静けさのある、ある種、ぶれない映画になっているとイベントなどで冗談交じりに言っていますが、あれは褒め言葉」と説明。そして「がちゃがちゃした(イメージの)中国で、この静謐さと静寂が作れたというのは、三浦春馬という俳優がそこにぶれないでいるということだったのではと思う」と評し、「すごく助かったし、この人のことをよく知ることができた」と絶賛した。三浦さんは「監督がおっしゃった『関わっていた』という意味合いを間違えずに、これからも精進できればいいなと思っています」と力を込める。

 2人のタッグは初めてということで、2人に初めてはまったポップカルチャーを聞くと、「映画かアニメーションで、特にアニメーションかな」と行定監督は言い、特に好きだった作品として「機動戦士ガンダム」を挙げる。一方、三浦さんは「アニメだったら『ドラゴンボール』を再放送だけど見ていた」と話すも、「映画で最初にはまったのは『フリー・ウィリー』というシャチと小さい男の子の物語で、大好きで何回も見た」と打ち明け、「小さい頃に好きだったものってなんで好きになったんだろうって改めて思うから、久びさに見て見ようかな」と言って笑う。

 ◇香川照之の著書が中国ロケで役立った

 今作はラストシーン後の余韻も含め、さまざまなことを考えさせられる内容になっているが、行定監督は「アイデンティティーについて、自我というものについての映画でもある」と言い、「合作ですからこの映画自体の国籍もなく、日本映画でもあるし中国映画でもある」と表現。続けて「自我というものは他者が作るもの。他者の自我が崩壊、混乱している状態を見て、自分というものがその前に立った時に、どう愛というものを持って受け止められるのかというのが最大のこだわりだった」と明かす。「お前ってこういうやつだな』と言われた時に、(自分では)そう思っていなかったことが、他者から見るとそう見えていることを自分はどう受け止めるのか、そういうことはなかなか映画にしにくい」と説明するも、「人と出会うというのはそういうことでしょう」と言い切る。

 そして、「国境を越えた関係で向き合うから、余計に自我や愛みたいなものが、非常に不確かなものに見えてくる」と今作の空気感を説明し、「春馬が演じるリョウは、(人物像などの)説明がないから完全に浮遊している。それが映画の製作のスタイルも含めて影響をし合い、他者がちゃんといて自分が何者であるかを知るということが重要なテーマだった気がする」と力説する。「バックグラウンドである僕らの感情も含めてかな」と行定監督は最後に付け加えた。

 三浦さんは今作を見て、「双子の幼少期が映される冒頭から上海の街が映るシーンを見て、本当にすてきで鳥肌が立った」と感想を述べ、「どのシーンを切り取っても上海の光も含めて、すごくきれいでいい場所だったから、きっとこの映画を見たらみんな上海に行きたくなるんだろうなという自信が持てたし、しっかり考えられるような機会をくれる作品にもなったと思う」と笑顔で語る。

 三浦さんは上海ロケに出発する前、人から勧められた俳優の香川照之さんの著書「中国魅録」を読んだという。その上で、今作撮影の臨む上で「辛抱強くあれ」と考えていたという。「本には中国ロケの過酷さがこれでもかというぐらいに書いてありました」と笑い、「まだ経験も浅いし、人としても未熟だから、もしかしたら自分の情緒が危なくなるかもしれないから、なにかこう“服”を着ていかないと……と思って読んだ」と理由を明かす。そして、「ある程度心づもりができていたのだけど、日本のスタッフだけでなく中国スタッフの方々にとてもよくしていただいて、本当にいい環境でできたと思う」と感謝し、「言葉が違うから意思疎通がスムーズにいかなくて問題が出てきてしまうこともあったが、自分が思い描いていた中国での撮影について、『中国魅録』に“免疫”を付けてもらいました」と振り返る。

 ◇語り合いたくなる映画

 今作を見るかどうか悩んでいる人をどう誘うかと聞くと、三浦さんは「直接会えるなら、『見てください! お願いします!』と言いたい」と即答。行定監督は「映画は映画館でみんなで見るというのもいいけど、この映画は多分、みんながいるけど、一人一人がこの映画と1対1で向き合う映画になっている気がする」としみじみ語る。そして「向き合った結果、周りにいる一緒に見に行った人と絶対にしゃべりたくなる映画だと思う」と自信をのぞかせ、「一つになる映画ではなく、それぞれが自分に投げかけられたものを受け止める映画」とアピールする。監督の言葉を聞いた三浦さんは「見ていただいたあと、一人一人が感じることは違うし、それを共有して話していただけたら」と共感し、「あと、映画は人と人とをつなげるためのツールでもあったりする」と持論を展開。「この映画でいろんな思考やつながりが生まれればいいなと思います」と力を込めた。映画は全国で公開中。

 <行定勲監督のプロフィル>

 ゆきさだ・いさお 1968年8月3日生まれ、熊本県出身。映画「OPEN HOUSE」(97年)で初監督を務め、次作「ひまわり」(2000年)では第5回釜山国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞。第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞・最優秀主演男優賞・最優秀助演男優賞・最優秀助演女優賞などを受賞した「GO」(01年)で脚光を浴び、「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)、「北の零年」(04年)、「春の雪」(05年)、「今度は愛妻家」(09年)など数々の作品を監督し、ヒットを記録している。

 <三浦春馬プロフィル>

 みうら・はるま 1990年4月5日生まれ、茨城県出身。97年にNHK連続テレビ小説「あぐり」で子役としてデビュー。2008年放送の「ブラッディ・マンデイ」でドラマ初主演を飾り、翌年には2クール連続で主演を果たす。その後も「大切なことはすべて君が教えてくれた」「ラスト・シンデレラ」などの話題作をはじめ、俳優として数多くのドラマ・映画に出演。主な出演映画に「クローズZERO 2」(09年)、「ごくせん THE MOVIE」(09年)、「東京公園」(11年)などがある。

(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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