平田広明:ジョニデ最新作吹き替え担当 「誇張したらだいぶうさんくさくなった」 

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 米俳優のジョニー・デップさんの主演映画「チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密」(デビッド・コープ監督)が全国で公開中だ。デップさん演じる美術商のチャーリー・モルデカイが、盗まれた名画の捜索をきっかけに、富豪、マフィア、国際テロリストを巻き込みながら世界中を駆けめぐるアドベンチャー作品。デップさんの日本語吹き替えを20年にわたって担当している平田広明さんに、アフレコ現場のエピソードやデップさんの魅力について聞いた。

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 ◇せりふ量の多さに驚く

 デップさんの日本語吹き替えを何度も担当してきている平田さんだが、「正直なことをいうと今回は燃え尽きたという印象。これほどしゃべる(役を演じる)ジョニー・デップには会ったことがない」と今作のアフレコを振り返る。「お調子者でチャラチャラしているというキャラをこれまでも何度かやらせていただいたのですが、これだけしゃべるのはなかったのでは。よくしゃべっている」と実感がこもる。どれぐらいしゃべっているのかというと、「ジョニー・デップで今まで一番しゃべった『ラスベガスをやっつけろ』(1998年)よりもこっちのほうがしゃべっているかな」という。

 俳優としてのデップさんの魅力は、「彼は徹底的に(役を)作り込み、結果、コミカルなことをやってしまっている人(の役)でも、キャラクターに芯がある」と評する。続けて、「実在の人物じゃない場合が多くて、創作をしなくてはいけない。あたかもその人が実際にいて、それに似せるかのごとくリサーチをする。(『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの)ジャック・スパロウの時もそうだったと思うけど、具体的に“妄想”し、何もないところから作る」とデップさんの役作りを分析する。そして、「こういうコミカルなお芝居の時にこそ、それが一番発揮されるのでしょうが、実在しない人物、海賊であれ吸血鬼であれ『いるかもしれない』と思わせるような、いたんだとしたらこういうような人という作り上げ方がすごい」と絶賛した。

 ◇声でうさんくささを出すのに奮闘

 デップさんが今回演じるのは、いかにもインチキくさいセレブ美術商。ちょびヒゲがトレードマークだが、見た目はいたってシンプルだ。「白いメークをしていないので安心していたら『しまった!』という感じ」と笑う平田さんは、「原音で聞いた彼の芝居をベースに、いわゆるテンションを合わせてこういう感じと自分の中でイメージ」して役作りをしたと語る。しかし、「収録現場で最初のリハーサルをした時、うさんくささが全然足りなかったようで、第一声で『もっとやって!』と言われました」と明かす。

 その時の様子を、「気を抜くと二枚目に聞こえてしまう時があって、二枚目だからいいのではと思うけど、徹底的に二枚目の要素をつぶされました」と話し、「カッコよくやるつもりはなかったけれど、ずっと姿勢がいいのをキープしていないとうさんさくささがキープできない」という状況だったという。「とにかくうさんくさくということを言われました」と振り返る。うさんくささを声だけで表現することは、平田さん自身も「難しかった」と感じ、ディレクターから指示が出た時には思わず「はい?」と思ってしまったという。

 うさんくささを出すために「抑揚をもっと派手に使う」ことを意識したといい、「原音でしゃべっている抑揚は表情なども含めて成立するもので、もちろん僕も表情は彼のような表情を作るけれど、日本語で同じようなニュアンスに乗せると、やっぱり言葉の違いで、ほかのお芝居よりもうさんくさい部分は少しトーンダウンしてしまう」と説明。トーンダウンを防ぐのに、「ナチュラルにリアルに演じるよりも少し誇張して『なんだよ』を『なんだよ!』ぐらいにして、それを怖がらずにやってみようと思った」とアフレコに臨んだ。

 創意工夫を重ねた結果、「抑揚の幅もいつもより多い」という声に仕上がったのだが、いろいろ話し合ったディレクターからは「『だいぶうさんくさくなりました』と言われ、褒められてるのか、けなされているのか分からなかった」と笑う。

 ◇俳優と同じ目線で演じることを意識

 声を作ったり役作りをする上で大切にしていることは、「俳優として、その人はどこを見て何をしたいんだというのは常に見ようとしていて、同じ目線でいたいというのはいつも考えている」と平田さん。「どうしても出来上がったものを模倣しようとすると、小さくなってしまうこともある。でも(俳優が)見ている先を見ていれば、小さくなる感じは最小限に抑えられるかなと」と持論を展開。今作では、「ジョニー・デップがこの映画で何をしたいか、モルデカイという役で何をしたいかというのを見つけたかった」と力を込める。

 俳優と同じ方向を見ながらアフレコに臨んだ平田さんだが、「めったにないことだけど、何度リハーサルしても笑っちゃってできないという部分があった」と告白する。その場面は、グウィネス・パルトローさんが演じるジョアンナとのキスシーンで、「『おえっ』というところは、『これ大丈夫かな?』と思っていたら本番でやっぱり吹いてしまった」といい、「『ごめんなさい』と言って笑いながらやっていました(笑い)」という。ちなみにそのシーンは気に入っている場面の一つでもあり、「仕事する上では笑ってしまうけれど、見る上では面白い」と語った。

 今作について、「膨大なせりふと特異なキャラをやらなくてはいけないというところで、多分、皆さんと同じようには楽しめていない」といいつつも、「テンポ感はさすがで、役者が演じている以外のところでも、『こういうことするのか』というような、みんながこういうテンポで作っているというのを作品全体から感じた」と見どころを語る。吹き替え版のよさを「映像に集中できるということ」といい、「せりふ量が多いので字幕に目を取られる部分も多くなるのでは。(字幕版は)原音でやりとりが聞けるからテンポ感は伝わってくるだろうけど、情報量の多い作品は字幕はもちろん、吹き替えも押さえておいた方がいいのでは」と持論を展開する。「吹き替えが気にならない人はもちろん楽しんでいただけたらいいですし、字幕がいいという方も見比べてみてほしい。結構、字幕以外のことも言ってるという部分があると思います」をアピールした。映画は全国で公開中。

 <プロフィル>

 1963年8月7日生まれ、東京都出身。高校卒業後、昴演劇学校を経て劇団昴に所属。1986年「夏の夜の夢」で初めて舞台に立つ。その後、芝居のほか洋画の吹き替えやアニメ、ナレーションなど幅広く活動している。テレビアニメ「ONE PIECE」サンジ役でもおなじみ。アニメ「TIGER & BUNNY」で主人公を演じ、第11回東京アニメアワード個人部門声優賞、第6回声優アワード主演男優賞を受賞。「エド・ウッド」(94年)以降、ジョニー・デップさんの日本語吹き替えを数多く担当している。1月から放送されているテレビアニメ「夜ノヤッターマン」(TOKYO MXほか)にボヤッキー役で出演中。

 (インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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