名探偵コナン
#1146「汽笛の聞こえる古書店4」
12月21日(土)放送分
1943年に出版され、以来、世界中の多くの人々に愛読されてきたアントワーヌ・ド・サン・テグジュペリによる名作「星の王子さま」をモチーフに描いた劇場版アニメーション「リトルプリンス 星の王子さまと私」。11月の日本公開を前に、4月下旬、マーク・オズボーン監督とCGキャラクター監修の四角英孝さんが、約17分間の特別映像を引っさげ来日した。東京都内で開かれたプレゼンテーションの翌日、お二人に話を聞いた。
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映画化のオファーを受けたとき、オズボーン監督は「原作を傷つける当事者になりたくない」と乗り気ではなかったという。しかし、「映画化権をプロデューサーが持っている以上、映画が作られるのは避けられない。他の人が作って、それが散々な作品になったら、それはそれで頭にくる(笑い)。ならば、原作をそのまま忠実に映像化するのではなく、本を読むことでいかに人々に大きな影響を与え、またこの本が世界を変えるほどの“パワー”があることを表現することなら自分にもできるのではないか」と当初の考えを翻し、オファーを受けることにしたという。
サン・テグジュペリの小説では、サハラ砂漠に不時着した飛行士と、小惑星からやってきた王子さまの、出会いと別れを描いている。一方、今作は、母親(声:レイチェル・マクアダムスさん)の言いつけを守り、一生懸命勉強し、いい学校に入ろうとしている9歳の少女(声:マッケンジー・フォイさん)が主人公だ。その少女が、引っ越した家の隣に住む一人の老人(声:ジェフ・ブリッジスさん)と仲良くなる。その老人は、昼間は裏庭の壊れた飛行機を修理し、夜になれば屋根の上の望遠鏡で空を眺めているという、一見変わった人物だったが、その老人こそが、「星の王子さま」で王子と出会ったあの飛行士だったという設定だ。
原作の世界観を損なわずに映画化する……そのためにオズボーン監督がとった方法は、「星の王子さま」の世界を人形を一コマ一コマ動かすストップモーションアニメで、それ以外の、少女が生活する現実の世界はコンピューターグラフィックス(CG)によるアニメーションで表現するという、二つの技術の融合だった。
そのアイデアを最初に聞いたとき、四角さんは「危険だと思った」と打ち明ける。四角さんはこれまで、ディズニーの劇場版アニメーションの「ボルト」(2008年)や、「塔の上のラプンツェル」(10年)、「シュガー・ラッシュ」(12年)に携わってきた。あの「ラプンツェル」のヒロインの髪の毛を監修したのも、何を隠そう四角さんだ。四角さんは、「観客にとって、(ストップモーションアニメとCGアニメの)二つは違うメディア。ストップモーションからコンピューターのクリアなイメージに変わるときに、お客さんの没入感が失われることがあると映画として成り立たなくなる」ことを懸念したのだ。
また、四角さんによると、「人間の目というのはすごく敏感で、ちょっとでも違和感があると没入感が薄れてしまう」のだという。特に今回の作品は「アクション映画ではないし、原作のように淡々と進めていくストーリー」だ。困難な仕事になることは明白だったが、だからこそ「CGで、日常の世界や、微妙な表情で感情移入できるようなキャラクターを作ることはチャレンジだと思い、すごくやりがいを感じた」と当時の覚悟を振り返った。
「大の宮崎アニメのファン」を公言するオズボーン監督と四角さんだが、今作を作るにあたっては、「となりのトトロ」(1988年)から多分にインスピレーションを受けているという。ほかにも、影響を受けた作品に「カールじいさんの空飛ぶ家」(2009年)や、オズボーン監督はジャック・タチ監督の「ぼくの伯父さん」(1958年)や「プレイタイム」(67年)を、四角さんはテレビアニメ「未来少年コナン」(78年)を挙げる。また少女の造形についてオズボーン監督は、「宮崎アニメを見過ぎたから、日本の皆さんには宮崎作品に登場する日本の女の子に見えるかもしれない」と笑顔で話す。
一方、飛行士の外見は、オズボーン監督によると「温かい老人」をイメージし、俳優としても活躍したジョン・ヒューストン監督や俳優のアレック・ギネスさんをモデルにし、また内面的には、映画「ハロルドとモード 少年は虹を渡る」(71年)に登場する「変わったおばあちゃんの影響を受けている」と話す。その「ハロルドとモード」でハロルドを演じたバッド・コートさんが、今回「王様」の声を担当していることも教えてくれた。ちなみに、王子さまの声を担当するのは、オズボーン監督の息子さんだ。
ところで、主人公の少女には名前がない。少女だけではない。少女の母親にも、当然ながら老飛行士にも名前がない。その理由をオズボーン監督は「原作には名前がある人がいない。フォックス(狐)はフォックス、スネーク(蛇)はスネークと抽象的なものとして描かれている。もし映画で少女に名前をつけたら、その瞬間、原作とは離れてしまう。だから名前をつけなかった。少女はあらゆる子供のアイコン(象徴)なんだ」と説明する。
少女の母親もまた物語のカギを握る存在のようだが、オズボーン監督は「そこはちょっと話せない(笑い)」と明言を避けつつ、「お母さんは悪者じゃない。もちろんこれは、(キャラクター)全部のエモーションを描いた映画だが、娘とお母さんの絆も非常に重要なポイントだ」と補足する。そして「母親は、自分が子供だった頃のことを忘れてしまっている。この原作を読んだ方は、私を含め皆さんそうだと思うが、この本には、大人になって忘れてしまったことがたくさん描かれている」と、改めて原作が持つパワーについて言及する。
そして、自身が8、9歳だった頃、自宅の小さな白黒テレビで、母が「ひとりぼっちの青春」(69年)を見ながらボロボロ泣く姿に「映画が持つパワー」を思い知らされた体験を明かしながら、「映画を見て涙するとき、いい泣き方と悪い泣き方がある」と指摘。その上で、「この映画では、悲しいとか、そういうネガティブな理由からではなく、皆さんにいい泣き方をしてほしい」とメッセージを送った。映画は11月に全国公開。日本語吹き替え版では、少女の声を子役の鈴木梨央さんが、母親の声を女優の瀬戸朝香さんが、飛行士の声を俳優の津川雅彦さんが担当する。
<マーク・オズボーン監督プロフィル>
1970年、米ニュージャージー州生まれ。劇場版アニメーション「カンフー・パンダ」(2008年)を監督。この作品は、米アカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされた。そのほか携わった作品に、テレビシリーズ「スポンジ・ボブ」(02~09年)や劇場版「スポンジ・ボブ/スクエアパンツ」などがある。
<四角英孝さんプロフィル>
1972年、大阪府出身。劇場版アニメーション「Valiant」(2005年)でソフトウエアエンジニアを務め、映画界でのキャリアをスタート。その後、移籍したディズニーで「ボルト」(08年)のキャラタクー・テクニカル監督を担当。「塔の上のラプンツェル」(10年)では、主人公の髪の毛を監修。ほかに手掛けた作品に「シュガー・ラッシュ」(12年)がある。現在スペインに在住。
(取材・文・撮影/りんたいこ)
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