イッセー尾形さんが演じる偏屈な元校長先生と、地域の人たちが可愛がっていた猫を通じての人と人の触れ合いを描いた「先生と迷い猫」(深川栄洋監督)が全国で公開中だ。猫のミイを演じたドロップは、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」にも出演していた俳優猫。イッセー尾形さんをはじめ、豪華俳優陣を相手に堂々と演じる姿が見ものだ。アニマルアドバイザーを務めた佐々木動物プロダクションの佐々木道弘さんに話を聞いた。
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――ドロップはとても落ち着いて撮影に臨んだようですね。
どこの現場に行ってもそうなんですが、緊張した様子はありませんでした。大勢の人に囲まれても平気。深川監督が見に来たときもそうです。この子ならどんなことができるのか、深川監督と話し合いながら、ドロップの適性を理解してもらって撮っていったので、撮影はとてもスムーズでした。
――1匹ですべてをこなせる自信はありましたか。ほとんどを本番一発で撮影したそうですね。
単発の仕事でもそうなのですが、一度「その猫で」となったら、最後まで1匹でやってもらっています。台本を読んで、何をするのかを理解した上で、この子ならできると思いました。ドロップは三毛猫といっても特殊な毛色なので、代役は無理だと思いました。猫は飽きっぽいので、同じことを何度も繰り返せないので、演技も1回目が一番いいんですよ。リハーサルではぬいぐるみを代役に立てて、動線を決めてもらい、本番が1度目の演技になるようにしてもらいました。
――じっとする、ドアから出入りする、散歩する、ゴロゴロする……さまざまなシーンがありましたが、一番苦労したシーンはどこですか。また、得意だったシーンは?
夜に居酒屋を眺めているところを、ドロップの後ろから撮るシーンが難しかった。目線をお店の方向へ釣るのが大変でした。後ろから撮っているので、人間が前に行って、ドロップを呼ぶわけにもいきません。ドロップはゴロゴロするのが大好きなので、イッセーさんが寝そべって写真を撮るシーンでは案外うまくいきました。ケージから出ると、解放感からずっとゴロゴロとします。ドロップよりも、イッセーさんのアドリブが多くて、みんなでゲラゲラ笑いました。
――イッセーさん演じる校長先生の家で、先生の妻の仏壇前で出くわす冒頭のシーンが印象的でした。
仏壇のシーンでは、遺影に視線をやる演技が難しく、ここは何度か撮りました。先生役のイッセーさんにどかされてもドロップは逃げないで、どっしりと落ち着いていましたね。
――地域の人々になついている役柄でしたが、共演者の方々とはどんなふうに過ごしたのでしょうか。
撮影の合間に一緒に過ごすことはありませんでした。疲れてしまいますので、リラックスさせました。撮影がないときは、ドロップは旅館でのんびりと休んでいました。体調管理が大事です。撮影も、ドロップの出番のときは、早め早めに切り上げてもらい、長時間やらないようにしました。
――体調管理で注意している点は?
普通の飼い猫と同じです。ご飯の食べ方や体型をよく観察して健康状態をよく見ることです。食事は1日1回。普通のキャットフードを食べています。ご飯を置きっぱなしにすることはありません。よく「どんなおやつが好きですか?」と聞かれますが、おやつは食べません。プロダクションには約100匹の猫が所属しているので、みんな同じように健康管理します。毎日、よく接しているから異常にもすぐ気づきます。
――同じプロダクションの犬も出演していましたね。猫は自由が好きなので、犬よりも演技をさせるのが難しいのではないでしょうか。
そんなことはありません。CMでもドラマでも、それぞれのコンテに従って演技をやるだけです。これまでは、猫はいるだけでいいというような時代でしたが、最近では演技が求められてきています。それぞれの動物の適性に従って、できないこともあるとお伝えして、進めていきます。
――「あまちゃん」で宮本信子さん演じるおばあさんの飼い猫役をやってみて、ドロップに変化はありましたか。
度胸がついたかもしれません。連続ドラマのバタバタした撮影現場の中でやりますから。おばあさんとおじいさんがケンカするシーンでも、どっしりと構えていました。そういえば、あのときも仏壇のそばが定位置でしたね。
――この映画の魅力はどんなところにあると思いますか。
のら猫へのえさやりについてさまざまな考え方があったり、動物虐待の話も出てきて、いろいろと考えるところも多いと思いますが、愛らしい動物の姿を見て、一人一人に何か受け止めてもらえればいいと思います。この映画をやりたいと思った理由は、猫が勝手に歩いているような自然な雰囲気が出せたらいいなと思ったからです。猫の動きを偶然カメラに収めているように見えれば、野良猫役として「しめた!」と思いますね。
*……30分間のインタビュー中、佐々木さんと同じテーブルにつき、前足を内側に折って座り、全く動かないどころか、途中で「スースー」と寝息を立てながら目を閉じていたドロップ。大物でした。
映画「先生と迷い猫」はイッセーさん、ドロップ、染谷将太さん、もたいまさこさん、北乃きいさん、ピエール瀧さん、岸本加世子さんらが出演。10日から新宿バルト9(東京都新宿区)ほかで公開。
<佐々木道弘さんのプロフィル>
山口県の秋吉台自然公園サファリランド、群馬サファリパークを経て、大井競馬場で馬の厩務員として勤務。湘南動物プロダクションでさまざまな動物の世話をする中、猫の指導に面白さを感じて、佐々木動物プロダクションを立ち上げて独立し、現在に至る。
<ドロップのプロフィル>
2010年生まれ。兄弟猫2匹とともに、佐々木動物プロダクションに所属。「ふれあい猫イベント」でお客さんと触れ合う仕事をし精神力を養う。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」でデビュー。大勢の猫とともに「陽だまりの彼女」(13年)に出演。今作が本格的映画デビュー作となる。
(インタビュー・文・撮影:キョーコ)
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