藤原竜也さん扮(ふん)する“探検隊”の隊長が、番組クルーを引き連れ、未確認生物(UMA)を追って大奮闘する“骨太”コメディー映画「探検隊の栄光」が全国で公開中だ。「とにかく楽しい映画だから見に来てほしい」とアピールする山本透監督に、「過酷な」撮影の裏話や、藤原さんの捨て身の演技など、映画にまつわる話を聞いた。
◇「とにかく明るい映画」を目指す
映画は、落ち目の俳優、杉崎(藤原さん)が、探検隊の隊長役でテレビ番組に出演することになり、番組クルーを引き連れ、伝説の怪獣“三首の巨獣ヤーガ”を探し秘境の地を探検する……というストーリー。番組クルーは、面白ければなんでもありのプロデューサー・井坂を筆頭に、大ざっぱなディレクター・瀬川、職人気質の無口なカメラマン・橋本、UMAオタクの音声・照明の小宮山、バラエティー番組をバカにする不愛想なAD・赤田、そして、テキトーな現地通訳・マゼランと、恐ろしく“雑多”な顔ぶれ。彼らを束ねようと奮闘する杉崎と、そんな彼の思惑を全く無視し、好き勝手を繰り広げるクルーたちの姿が描かれていく。
荒木源さんの小説が原作。小説は結構シリアスな内容で、後半にはハードな展開も待ち受けている。“そちら寄り”に映画を作ることもできたはずだが、もともと「お客さんを楽しませる」ことを自らに課し、「基本的にハッピーエンドの映画しか撮りたくない」という山本監督は、「そんなことありえないだろうといわれようと、とにかく明るい」映画にすることを心掛けた。
◇藤原竜也、トカゲを食べる
キャストの面々を見ると、山本監督いわく「いい意味で役者バカ(笑い)」の藤原さんをはじめ、共演者と和気あいあいとしていても、ひとたびカメラが回り始めると「ストイックになる」ユースケ・サンタマリアさん(井坂役)、「とにかく淡々と熱い芝居をする職人肌」の小澤征悦さん(瀬川役)、照明助手やエキストラの経験があり、「裏方の仕事の隅から隅までをわかっている」田中要次さん(橋本役)、さらに、小宮山役の川村陽介さん、赤田役の佐野ひなこさん、マゼラン役の「ななめ45°」の岡安章介さんといった個性豊かな面々がそろった。
役になり切った彼らの姿は今作の見どころの一つだが、とりわけ注目したいのが、藤原さんの“役者バカ”っぷりが見られるトカゲの丸焼きを食べるシーンだ。用意していたのは食用トカゲだったとはいえ、藤原さんは現場で実物を見た瞬間、「本当に食べるんですか、監督」と“引いた”という。そんな藤原さんのおびえなど山本監督はお構いなしに、「本当に食べて」と要請。藤原さんは口に入れたものの「わあー、きっつい」と吐き出してしまった。さすがにそれではまずいと思ったのか、藤原さんは2テイク目から、「むしゃむしゃ食べ始めた」。しかし、「やっぱり1本目のリアクションがリアルだったので」、結局、使われたのは1テイク目だったと山本監督は打ち明ける。
◇過酷だった撮影
茨城や千葉、栃木、静岡などさまざまなところで行われた撮影は「過酷だった」という。崖のシーンでは崖を上り、川のシーンでは川辺まで下る。なるべく近くに車を止めたとはいえ、荷物を持って毎回移動し、俳優たちも「大変だったと思う」と山本監督はねぎらう。中でも過酷だったのは「撮影の半分以上を占めた」という洞窟の場面。富士山のふもとの洞窟で撮影したそうだが、時期は4月。「毎日のように、ものすごい雪解け水が洞窟を水没させていく」という中、スタッフが泥を外にかき出したとはいえ、「足元はぐちゃぐちゃだし、上から雫(しずく)がぼったぼった落ちてくるし。(藤原さんらが)雫を拭って芝居している映像をそのまま使った」と明かす。
映画にはまた、しばしば俳優たちの素の表情が垣間見られる“即興”と思われる場面も登場する。そういった姿は山本監督も積極的に取り入れたという。ただ、「本当に素になっていると、(藤原さんが)『ユースケさん』と言っちゃっているからそれはなかなか使えない(笑い)」。それでも、撮った映像をすべて見て、音声も聞き、「自分が演出している以外に彼らが素になって大変さを表現しているところは、ほぼ全部取り入れた」という。
◇シンクロした感情
印象に残っているシーンとして挙げたのは、藤原さんが上半身裸になり、“ワニ”と格闘する、“捨て身”の演技を披露する場面。「がむしゃらに脱ぐ役者バカがいて、それを一生懸命撮るスタッフがいて。みんなの熱意を一番表現しやすいシーンだった」と山本監督は振り返る。とはいえ、山本監督もスタッフも、そのシーンは「楽しくて笑いながら」撮影していたそうだ。
好きなシーンは、やる気を出した杉崎とクルーたちが円陣を組んで掛け声をかける場面。「現場でいいシーンが撮れているなと思っていたし、『撮り切りましょうよ!』と藤原さんがうるうるしているときに、俺も『撮り切りてえよ!』という気持ちだった(笑い)。とにかくびちゃびちゃの過酷な環境の中で、毎日毎日、スタッフも疲弊していく。あのシーンは、自分もそうですが、現場で撮っているみんなの気持ちがシンクロしました」としみじみ語った。
◇笑いの合間に裏方の情熱も
山本監督自身、今回一番やりたかった「大きな軸」は、「みんなで同じものに向かっていくことの美しさみたいなもの」だと話す。その背景には、自身の20年以上に及ぶ助監督経験がある。「気楽に見てほしいから、あまり小難しいことはフィーチャーしたくない」と言いつつ、「裏方の、とにかくいい年をしたおっちゃんたちが(笑い)、はたから見たら遊んでいるようにしか見えないことを、そのシーンのそのせりふのその芝居を、どうやったらお客さんに届けられるのかということを模索しながら、情熱だけでやっている。そうやって実際撮ったものは、迫力があったり、カッコよかったり、泣けたりするわけです。そうしたところは、きちんと丁寧に描きたいと思っていました」と熱く語る。
そして、「この映画がどんな映画なのかは、なかなか口で説明しづらいところもある」といいつつ、「難しい話なんじゃないかとか、怖い話なんじゃないかとか、探検ということで、とても不気味な映画なんじゃないかとかと思う人がいるかもしれません。でも、そうではなく気楽に見てほしいし、“しゃべっていい”ルールを作りたいぐらいで、とにかく映画を見ながら、バカじゃねえのとか、そんなわけねえだろうとか、ニヤニヤしながらどんどん突っ込んでほしいです」とアピールした。映画は16日から全国で公開中。
<プロフィル>
1969年生まれ、東京都出身。大学時代は学生バンドに熱中。卒業後、テレビの制作会社に入社しドラマの助監督を務める。その後フリーになり、数々の作品で助監督を経験。2012年「グッモーエビアン!」で長編監督デビュー。待機作として16年1月公開の「猫なんかよんでもこない。」がある。初めてはまったポップカルチャーは、思案した末に「音楽かな」。学生時代はギターを弾いていたという。「どちらかというとザ・ローリング・ストーンズとかデビッド・ボウイといったUKロック」が好みとのこと。
(インタビュー・文・撮影/りんたいこ)
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