ハッピーエンドの選び方:マイモン監督&グラニット監督に聞く 最期の選択描く映画にコメディアンが出演した理由

映画「ハッピーエンドの選び方」について語ったシャロン・マイモン監督(左)とタル・グラニット監督
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映画「ハッピーエンドの選び方」について語ったシャロン・マイモン監督(左)とタル・グラニット監督

 自分の人生は自分らしく終えたい……そんな「人生の最期の選び方」をテーマにし、第71回ベネチア国際映画祭で観客賞を受賞したイスラエル映画「ハッピーエンドの選び方」が28日に公開された。イスラエルの老人ホームで暮らす人々の、涙あり、笑いありのヒューマン作だ。作品のPRのために来日したシャロン・マイモン監督とタル・グラニット監督に話を聞いた。

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 ◇親友のために発明したのは…

 マイモン監督は、自身の作品のリサーチのために6年前、東京と名古屋を訪れたことがあり、グラニット監督も25年前、観光で来日したことがあるという。黒澤明監督や北野武監督の作品を愛し、日本食も大好きという親日家の2人は、このインタビューの前日にも鎌倉を訪れ、「寺や神社巡りをし、大仏を見て、パレスチナ近隣諸国とイスラエルの平和を祈ってきた」(グラニット監督)と話す。

 そのマイモン監督とグラニット監督が共同で手掛けた映画「ハッピーエンドの選び方」は、イスラエルのエルサレムにある老人ホームが舞台。そこで、妻レバーナと暮らすヨヘスケルは、望まぬ延命治療に苦しむ親友マックスの頼みを聞き入れ、得意の発明の才能を駆使し、自らスイッチを押して苦しまずに最期を迎えられる装置を作る。イスラエルで安楽死は許されない。そのため、こっそり計画を実行したはずなのに、その装置が評判になってしまい、ヨヘスケルの元には次々と依頼が入るようになってしまう……というストーリー。

 ◇エルサレムを舞台にしたわけ

 エルサレムというと、紛争が絶えない危険な土地というイメージがあるが、今作に出てくる風景は、そのようなことを忘れさせるほど穏やかだ。エルサレムを舞台にしたのは、「もちろん、神様がいらっしゃる場所であり、昔のユダヤの寺院があった聖なる土地。巡礼でたくさんの方が訪れ、そこで祈りをささげる」(グラニット監督)からだ。しかしそれだけではない。グラニット監督は「私たちの映画では、神の役割をヨヘスケルが演じてしまいます。人間でありながら神の行為をするのですから当然罰されるわけで、彼には天罰が与えられるわけです」と説明する。映画ではその後、ヨヘスケルの愛する妻レバーナに、認知症の兆候が表れ始めるのだ。

 マイモン監督があとを引き取り、「この物語において、神や宗教は2次的なものとして描けばいいと考えていました。描きたかったのはモラルの問題なのです」と続ける。今作は尊厳死をテーマにし、マイモン監督が知人の終末医療を目の当たりにした体験から着想されている。ちなみに原題の「Mita Tova」は、英訳すると「good death」、つまり「よい死」という意味だ。

 ◇ラグジュアリーな老人ホームを舞台にしたワケ

 とはいえ物語は、世界中の映画祭の上映会場がたびたび笑いに包まれたというだけあり、ユーモアにあふれ、ジメジメしたところがない。ヨヘスケルとレバーナが入居している老人ホームも、清潔で明るく、住人みんなが楽しそうに暮らしている。ただ、そういった老人ホームはイスラエルでも特別で、「かなりの富裕層が利用するラグジュアリーなホーム」(マイモン監督)なのだそうだ。そうした設定にしたのは「安楽死を自ら選ぶという設定において、お金がないとか介護疲れとか、そういう苦労を動機にはしたくなかった。病状をかんがみて自ら死を選ぶということを、純粋に描きたかったからです」とマイモン監督は説明する。

 ユーモアをもたらすために、キャスティングにも配慮した。最初から想定して脚本を書く、いわゆる「当て書き」のヨヘスケル役のゼーブ・リバシュさんとレバーナ役のレバーナ・フィンケルシュタインさんをはじめ、彼らの友人役の俳優たちいずれもが「1970年代に大活躍したイスラエルの大スターで、全員がコメディアン出身」(マイモン監督)なのだという。彼らをキャスティングすることで、「演出も演技もシリアスそのものですが、彼らには独特の喜劇のタイミングが身にしみついている。そういうものが表れて、深刻になり過ぎないトーンになるのではないか」(マイモン監督)と考えた。

 ◇「あのマシン、貸してもらえますか?」

 マイモン監督とグラニット監督にとって印象に残るシーンは、認知症が進み失態を演じてしまったレバーナを仲間が励ます温室のシーンと、映画のオープニングとエンディングだという。その温室の場面はマイモン監督いわく、「ルネサンス時代の絵画をイメージ」して作り上げていったという。

 イスラエルのみならず、欧州、米国でも「みなさん気に入ってくれました」と手応えを感じている両監督。グラニット監督によると「上映会のあと、よく皆さんに、あのマシンはまだありますか、貸してもらえますか、と聞かれる(笑い)」という。両監督は「日本の皆さんにも笑っていただきたいし、涙もしていただきたいし、楽しんでいただきたいです」と期待している。映画は28日からシネスイッチ銀座(東京都中央区)ほか全国で公開中。

 <プロフィル>

 シャロン・マイモン監督は1973年、イスラエル・ラムル生まれ、カメラ・オブスキュラ映画学校卒業。タル・グラニット監督は1969年、テルアビブ生まれ。サム・スピーゲル大学卒業。今作「ハッピーエンドの選び方」が、2人による共同脚本・監督作の4作目。マイモン監督が手掛け、09年のイスラエルにおける興行収入1位を記録した長編映画「A MATTER OF SIZE」(日本未公開/エレツ・タドモー共同脚本・監督)は、現在、米パラマウントがリメークを進めている。

 (取材・文・撮影/りんたいこ)

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