あの頃エッフェル塔の下で:アルノー・デプレシャン監督に聞く 80年代の若かりし頃を追憶する

最新作「あの頃エッフェル塔の下で」について語ったアルノー・デプレシャン監督
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最新作「あの頃エッフェル塔の下で」について語ったアルノー・デプレシャン監督

 日本でもヒットした「そして僕は恋をする」(1996年)や、「クリスマス・ストーリー」(2008年)などで知られるフランスの名匠アルノー・デプレシャン監督の最新作「あの頃エッフェル塔の下で」が19日に公開された。「そして僕は恋をする」で主演した名優マチュー・アマルリックさんを再起用し、「そして僕は~」で演じたポールの中年になった姿を演じた。中年男の追憶の中に、恋人たちの出会いと別れをみずみずしく描き出し、第68回カンヌ国際映画祭の監督週間でSACD賞を受賞。このほど来日したデプレシャン監督は「正反対の性格の恋人同士が強烈に引かれ合ったのはなぜなのかを描きたかった」と語った。

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 ◇正反対なのに引かれあう…過去作の恋人の出会いを描く

 外交官で人類学者のポール・デダリュス(アマルリックさん)は、長かった外国暮らしを終えて、故郷のフランスへ帰国することになった。空港で足止めをくらい、ふと過ぎ去った若かりし日々を思い出す。追憶の中に描かれるのは苦境にいた子供時代のこと、高校時代のソビエト(現ロシア)への危険な旅路、大学時代の遠距離恋愛の三つのエピソードだ。

 デプレシャン監督「そして僕は恋をする」と同じ役名で同じ俳優を使ったのには理由があった。「あの作品のポールとエステルが、正反対の性格なのになぜあんなに引かれ合ったのか。自分が十分に成熟した今だからこそ、若い俳優を演出し、その出会いを描けると思いました。あのときマチュー(アマルリックさん)と僕は、ポールというヒーローを作り出したのですが、今作はその前日譚(たん)といっていいでしょう」と表現する。

 ポールは学園の女王だったエステルに恋をして、パリの大学に通いながら、故郷に残ったエステルと愛を育んでいく。手紙や固定電話でしか通信手段がない1980年代の恋愛模様は、中年以上の観客には懐かしい。と同時に、仲間に囲まれた姿を通して、青春時代の喧騒(けんそう)や行く先の見えない不安を表現し、普遍的な若者の痛みを浮かび上がらせる。

 デプレシャン監督は「恋愛感情に時代は関係ない」といい、エステルを演じたルー・ロワ・ルコリネさんのエピソードを明かす。「ある記者に『あなたはネット世代だから、昔の恋愛は理解できないのでは?』と聞かれた彼女は、『 恋愛感情は私たちの世代も昔と同じよ。この映画には私の感情が描かれているのよ!』と怒りながら答えていました(笑い)」と笑顔で語る。

 そんなロワ・ルコリネさんの第一印象について、「撮影当時は女子高生だったので、その世代に特徴的な高慢さもあって、エステルそのものだった」と表現する。スクリーンから自由奔放な魅力を放っているロワ・ルコリネさん。その存在感の大きさに、「エマニュエル(「そして僕は恋をする」でエステル役だったエマニュエル・ドボスさん)もそうですけど、過剰なまでの顔が気に入ってキャスティングしました。目も鼻も口も“あり過ぎ”なのに、カメラでとらえるとちょうどいいのです」と撮影しながら驚いたという。

 ◇母親を愛さない罪を犯したポールの恋愛は…

 若きポールを演じたカンタン・ドルメールさんとともに、2人の新人俳優に多くのシーンを託した。「カンタン(ドルメールさん)は体つきが少年なのに声が大人っぽいところが気に入りました。とても真面目なのに、チャーミングなところもあって僕が思い描くポールそのもの。演技は超絶技巧でした。出会いのシーンはせりふが長くて難しかったのですが、私はチャーミングなシーンにしようと気を配りました。新人の起用に最初は不安もありましたが、だんだん登場人物になりきっていく2人を見て、とてもよかったと思いました」と喜ぶ。

 デプレシャン監督の“分身”ともいわれるアマルリックさんについても大絶賛する。「本当に優れた俳優です。彼が出ている『毛皮のヴィーナス』(13年)は、めまいがするほどです。今回、演じるのは不可能かと思われるような3~4ページもあるモノローグ(独白)では、彼がポールの孤独、絶望、怒りを出してくれ、感謝で身を震わせる気持ちになったほどです」を賛辞を贈る。

 映画は3分の2以上を2人の恋愛に割いているが、ポールに子ども時代から回想させた。「子供時代はポールの恋愛に影を落とす重要な要素だ」とデプレシャン監督はいう。心を病んだ母親を受け入れられず、父親にも反抗したポールは、弟と妹を置いて家を飛び出し、大おばさんのところに身を寄せる。このエピソードがあるお陰で、最後までポールに母性本能をくすぐられる女性も多いのではないだろうか?

 「ポールは母親を愛さない罪を犯してしまった。大おばさんのところに“亡命”したのも、寂しかったからです。母親との関係がよくなかったため、女性とのつきあいもなかなかうまくいきません。男である僕でさえも、ポールに母性のようなものをくすぐられます。そこも観客に共感してもらえたらうれしいです」とデプレシャン監督はメッセージを送った。

 出演は、アマルリックさん、ドルメールさん、ロワ・ルコリネさん、アンドレ・デュソリエさん、オリビエ・ラブルダンさん、エリック・リュフさんら。19日からBunkamuraル・シネマ(東京都渋谷区)ほかで公開。

 <プロフィル>

 1960年生まれ。フランス北部ルーベ出身。「二十歳の死」(91年)でジャン・ビゴ賞を受賞し、注目される。「魂を救え!」(92年)でセザール賞の第1回監督賞と最優秀脚本賞にノミネートされる。「そして僕は恋をする」(96年)で、マチュー・アマルリックさんがセザール賞有望若手男優賞を受賞。「キングス&クイーン」(2004年)で、主演のアマルリックさんがセザール賞最優秀男優賞を受賞。「クリスマス・ストーリー」(08年)でカンヌ国際映画祭正式招待。アメリカを舞台にした作品「ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して」(13年)などがある。

 (インタビュー・文・撮影:キョーコ)

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