火星に取り残された宇宙飛行士にマット・デイモンさんが扮(ふん)したサバイバル映画「オデッセイ」(リドリー・スコット監督)が全国で公開されヒットしている。アンディ・ウィアーさんの小説デビュー作「火星の人」(早川書房)を、「エイリアン」(1979年)や「エクソダス:神と王」(2014年)などの作品で知られるスコット監督が映画化した。近く発表される米国の第88回アカデミー賞で、作品賞やデイモンさんの主演男優賞など7部門でノミネートされている。原作者のウィアーさんに話を聞いた。
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――映画を見たときの印象は?
素晴らしかったし、すごく幸せでした。自分の望んだものがすべて実現されていました。
――お気に入りのシーンを理由を含めて教えてください。
本の中では4号機がローンチ(着陸)するところのカウントダウンの場面。実際には失敗するわけですが、非常に臨場感があふれて、よく書き込めたと思うのでとても好きです。映画の中ではどこか一つというわけではなく、リドリー・スコット監督が描いた火星の景色がとても気に入っています。
――ウィアーさんはコンピュータープログラマーから転身されたそうですが、そのきっかけと映画化の話を聞いた時の心境は?
たまたまこの本が売れたのでプログラマーをやめて本格的に書き始めたんです。自分にとっては本当に大きな転身だったので、今の状況になれるまではずいぶん苦労しました。
私はノーザン(北)カリフォルニアに住んでいて、ロサンゼルスにいる映画のプロデューサーや(製作スタジオの)フォックスの重役に会ったこともなかったから、ニューヨークのエージェントからリドリー・スコットが監督することになったといわれて、詐欺ではないかと本当に心配しました。いきなり私のすべての夢と長年の野心をかなえて、大金を払うといわれたんだから。話がうますぎるように思えました。でも、その後、小切手が届き始めたから「もしこれが詐欺だとしたら、彼らはそんなに上手じゃないってことだ」と思いました(笑い)。
――“宇宙オタク”を自称していらっしゃいますが、舞台を火星に選んだのは?
おそらく月の次に人間が行くとすれば火星しかないと思いました。金星だと温度が高く、人間が住めないし、到着できるような場所ではないと思ったので。
――宇宙に魅了されたきっかけは?
物心ついた時から、ずっと宇宙が好きで、宇宙が好きじゃなかった時期を思い出せなんです。もともと物理学者だった父親が、宇宙好きで、自分のパーソナリティーが父親の関心ともつながっていったのではないかと思います。
――宇宙船の軌道を計算するプログラムまで書いたそうですね。
初めから真実と整合性を持って書きました。そうしないとあとからへ理屈をこねて口裏合わせをしないといけなくなることが出てくるからです。
そのようにあとから説明するような書き方はしたくなかったし、もともと科学的なことを計算したりするのが大好きだったんです。
――NASA(米航空宇宙局)でのイベントに参加されておりましたが、惑星科学部長のジム・グリーンさんをはじめ宇宙飛行士のドリュー・フォイステルさんらとはどのような話をされましたか。
ドリューさんをはじめ、いろんな時代の宇宙飛行士や、NASAの方と食事をしました。最初に月面着陸した方もいらっしゃって話しました。宇宙にいる間、目が見えなくなってしまったカナダ人のクリス(・ハドフィールド)さんをはじめ、“死ぬほどの経験をたくさんした”と皆が話をしてくれました。
――スーパーポジティブなワトニーのキャラクターは、どのような経緯で生まれたのですか?
ワトニーの性格は僕自身の性格に基づいています。しかしワトニーの方が頭は切れるし勇敢で、僕が持っているような欠点はない。僕がこうだったらいいなと思うような人物。いいとこどりのキャラクターとして出来上がりました。そして、それはつまりマット・デイモンなんです。
――作品内でワトニーを救いたいという輪が広がっているように、読んでみると周りの方に薦めたいという気持ちが広がっているようですが、書くときに意識したことは?
読者にはワトニーを好きになってもらいたいと思いました。そして心配してもらいたいと思った。だからこそ彼を救いたいと思い、救われたときに感動が生まれるように作り上げました。
――日本製のエンターテインメントのファンだとうかがいました。
子供の頃は「ロボテック」が好きでした。3本を1本にしたもの(「超時空要塞マクロス」「超時空騎団サザンクロス」「機甲創世記モスピーダ」)のようですが、当時よく見ていました。これほど関心を引かれたアニメはほかにはなかったし、たちまちどっぷりハマってしまいました。「マッハGoGoGo」も好きでしたよ。そして、子供の頃だけでなく、今でも見ているよ! 「ONE PIECE(ワンピース)」のアニメもすべて見ました(笑い)。
特にどの作品を参考にしたとか具体的な文化ではなく、日本の映画に携わる人々の動きであったり、対応の仕方、しゃべり方、すべてにおいて深く影響されました。
<プロフィル>
1972年6月16日生まれ。米カリフォルニア州出身。幼い頃からSFに親しみ、15歳の時に国の研究所に雇われ、プログラマーとして働き始めた。科学、とりわけ宇宙開発に強い関心を抱きながら、作家を志す。2009年に初めての連載小説「The Martian」を、自身のウェブサイトで公開。読者からの要望を受けてキンドル版を発売し、わずか3カ月で3万5000ダウンロードを記録するという反響を呼んだ。その後、ハードカバーの書籍版がリリースされ、日本では「火星の人」(早川書房)の題名で文庫化されている。「オデッセイ」はオスカー俳優のトム・ハンクスさんが「アンディ・ウィアーの大傑作! マット・デイモンに嫉妬(しっと)する!」と原作の画像と合わせてツイートし、世界から注目を集める作品となった。
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