GoogleのCMやアーティストのミュージックビデオなどで活躍中のクリエーター、柳沢翔さんが初監督した「星ガ丘ワンダーランド」が5日から公開される。幼い頃、母親と離別した青年が、もう一つの姉弟との出会いを通して、自分と向き合う姿を描いたオリジナル脚本を映画化。中村倫也さんが主演している。
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温人(中村さん)は星ガ丘駅で駅員として働いている。落とし物預かり所で預かった物には、温人が落とし主を想像して描いた似顔絵が付けられている。20年前の雪の日、父(松重豊さん)との口論の末に車から降りた母(木村佳乃さん)は、赤い手袋の片方を残して去っていった。ある日、家族の思い出の場所である遊園地ワンダーランドで、母が自殺したという知らせが入る。それをきっかけに、母の再婚先の子どもと出会うことになった温人。次第に、過去のとある出来事が明らかになっていく……という展開。
駅員の温人は、他人の落とし物を大事にしている。幼い頃、去っていった母が、いつかきっと落とした手袋を取りに来てくれる、そう信じて待ち続けた温人には、落とし物に宿る心が見えているかのようだ。ある日、母の訃報が届き、静かな生活にさざなみが立ち、温人は幼い頃の記憶と自分の人生に向き合っていくことになる。母を待ち続ける思慕の中にも、捨てられた子であるという複雑な思いをにじませながら、温人の心の変化に沿って物語は進んでいく。過去の遊園地のにぎわいは色とりどりに、雪原はどこまでも寂しく、閉園した遊園地の古い観覧車は朽ちて見え、心象風景となって胸に迫ってくる。
ファンタジックな映像の中に、人の「思い」が丁寧に描き込まれている。温人とゴミ集積所の青年との場面は、温人の心の内がよく伝わってきて特に見事だ。母を巡って、子どもたちそれぞれの異なる思い出が繊細に表現され、さほど登場しない母の人物像が、色濃く印象を残す。なるほど、記憶とは、その人の主観だからだ。なぜ人は、過去のつらい出来事や、物や人への執着心が捨てられないのか。しかし、そんな思いもいつか形を変えていき、苦しさから解き放たれるときがくる。最後は静かな希望が胸に余韻となって残る。中村さん、松重さん、木村さんのほか、新井浩文さん、佐々木希さん、菅田将暉さん、杏さん、市原隼人さんら出演陣が豪華だ。新宿バルト9(東京都新宿区)ほかで5日から公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。BSで放送中の昭和のドラマ「ありがとう」を楽しんでいる。
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