注目映画紹介:「64-ロクヨン-前編」 佐藤浩市主演 昭和最後の誘拐事件を端緒に人のあるべき姿を問う

映画「64-ロクヨン-前編」のメインビジュアル (C)2016映画「64」製作委員会
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映画「64-ロクヨン-前編」のメインビジュアル (C)2016映画「64」製作委員会

 「半落ち」「クライマーズ・ハイ」などの著書で知られる横山秀夫さんの小説を、佐藤浩市さん主演で映画化した「64-ロクヨン-前編」(瀬々敬久監督)が7日から公開される。綾野剛さん、榮倉奈々さん、瑛太さん、永瀬正敏さん、三浦友和さんら豪華キャストが出演。2部作を連続上映する作品が多い中、今作は2作とも逃さず見たい力作となった。

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 昭和天皇の崩御により、わずか7日で終わった昭和64(1989)年。その間に起き、迷宮入りとなった少女誘拐殺人事件、通称「ロクヨン」が、時効を間近にした平成14(2002)年、再び浮かび上がる。「ロクヨン」を模倣した誘拐事件が起きたのだ。当時、事件に関わりながら真犯人を見つけられなかった刑事や被害者遺族らそれぞれの思いが交錯し、新たな誘拐事件の捜査が進む。警察とメディアのあつれき、刑事部と警務部の反目、さらに地方(県警)と中央(警察庁)の確執など、さまざまな障壁があらわになっていく……という展開。

 前編は、県警でかつて刑事部の刑事として「ロクヨン」の捜査にも関わり、現在は警務部広報官のポストにある、佐藤さん演じる三上義信が、ある事件の加害者を匿名発表したことで、県警記者クラブと衝突する出来事を中心に語られていく。記者クラブを幹事社として仕切る東洋新聞キャップの秋川を瑛太さんが演じている。

 映画が始まって早々、スクリーンにくぎづけになった。警察官、あるいはジャーナリストである前に、人としてどうあるべきか。人間関係を築くに当たり、どう考え、どう行動するべきか。そういったことを、14年前の誘拐事件を端緒に一つずつ積み上げていく。「ロクヨン」を模倣した事件の捜査は後編に委ねられ、また、後編につながる数々の伏線が仕掛けられている。その点で今作は、「周囲固めの章」といえる。

 キャストに目を転じれば、佐藤さんの演技はお見事の一言に尽き、瑛太さんも憎まれ役を好演。中でも印象に残ったのは、警務部長の赤間を演じた滝藤賢一さんだ。瑛太さんの憎たらしさがウルトラ級とするなら、滝藤さんのそれはメガ級。三上に向かって暴言を吐くときは、真剣に首を絞めてやりたくなったほどだ。そのほか、夏川結衣さん、緒形直人さん、窪田正孝さん、坂口健太郎さん、吉岡秀隆さんらが出演。こんなわずかなシーンにこの俳優が!?というぜいたくなキャスティングにも驚かされた。7日からTOHOシネマズ日劇(東京都千代田区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)

 <プロフィル>

 りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションを経てフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。

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