林遣都:廣木隆一監督とNetflixのドラマ「火花」語る 漫才シーンは「長回しで一発オーケー」

Netflixのドラマ「火花」について語った林遣都さん(左)と廣木隆一監督
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Netflixのドラマ「火花」について語った林遣都さん(左)と廣木隆一監督

 お笑い芸人の又吉直樹さん(ピース)が執筆し、第153回芥川賞(2015年)を受賞した小説「火花」が映像化され、動画配信サービス「Netflix(ネットフリックス)」で、3日より世界190カ国で配信されている。売れない芸人の徳永と、彼が営業先で知り合い、強く引かれ、師弟関係を結んだ先輩芸人、神谷が、それぞれの道を歩んでいく姿が10話(各話50~60分。一挙配信)にわたってつづられていく。

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 映画「ヴァイブレータ」(03年)などの作品で知られる廣木隆一監督を総監督に、白石和彌監督(「凶悪」/13年)、沖田修一監督(「横道世之介」/12年)、久万真路監督(「白鳥麗子でございます!THE MOVIE」/16年)、毛利安孝監督(「羊をかぞえる。」/15年)が、10話を分け合い演出した。主人公で、漫才コンビ「スパークス」の徳永に、俳優の林遣都さんが扮(ふん)し、神谷を波岡一喜さんが演じている。1話と9、10話を演出した廣木監督と林さんに、配信開始前日、東京都内で開かれた完成披露試写会の舞台あいさつ直前に話を聞いた。

 ◇長回しは「しんどくなかった」(林さん)

 ――映像化するために配慮したことを教えてください。

 廣木監督:又吉さんが書かれている小説の文体についた“間”を、いかにリアルに映像の中に置いていくかということと、漫才シーンと私生活とのギャップ……それは又吉さんの小説にも書かれていて、普段から漫才みたいなやりとりをしていて、舞台に上がっても、また漫才みたいなやりとりをしている。でも実は、(私生活では)大事な話をしている、そういうものを突き詰めたいという思いはすごくありました。あと、長回しと“引き”は、毎回のことなんで、すいません(笑い)。

 ――長回しは、演じる方としてはつらかったのではないですか。その間ずっと、徳永になり切っていなければならないわけですから。

 廣木監督:それが一番しんどいと思います。しんどそうだなと思いながら見ていました(笑い)。

 林さん:しんどいと思ったことはなかったです。それこそ、芸人さんってすごいなと思ったんですけど、好井さん(スパークスの相方、山下役の好井まさおさん)は、初めて映像をやられる方なのに、そこに存在する感じのお芝居をされていて、それを一緒にやりながら、自分たちの心の中に出てくる言葉のように会話している感覚があったし、出来上がった作品を見ても、自分自身が本当に日常を生きているように見えて、それが誇らしかったです。周りの人に、これ、ほとんど長回しだから、特に9、10話はすごいから、一つも見逃さないでと言っています(笑い)。そういう作品ができたことは自慢です。

 ――ラストライブの漫才シーンも長回しだったのですか。

 廣木監督:そうですね、1回きりの一発オーケーです。

 ――緊張しませんでしたか?

 林さん:原作同様、台本にも、スパークスのインコのネタは途切れ途切れに書かれているんですけど、1話でいきなり監督から、「頭から最後までやるから」と言われて……(笑い)。ですから、漫才のシーンは、リハーサルを最初に皆さんに見せただけで、あとは特に段取りもせず、お客さんを入れて、カメラが構えられて、準備ができた状態で僕たちが出ていくという、ほとんど生の状態でやっていました。1話からその流れができていたので、緊張はあまりせず、自分たちが何を理想とするか、それを全部出し切りたいという思いでやっていました。ラストライブに関しては、順撮りだったので最後の方で撮影したんですけど、それを失敗すると、今まで積みあげてきたものが全部なくなる、ぐらいの相当な気合と覚悟でやりました。

 ――スパークスの漫才が、1話目のものと、ラストライブのものとで明らかに違っていて、2人の成長の跡が見えました。順撮りしたことによる効果が出ていたわけですね。

 廣木監督:そうですね。僕は1話と9、10話をやらせてもらったんですけど、その間にほかの監督さんたちが撮ったものを見せてもらって、3、4カ月の間に、本当にどんどんうまくなっていった。9、10話になると、ステージでの立ち姿と表情も“間”も全然違うし。だから、僕の演出は関係ないですよ(笑い)。

 ◇台本を見ていなかった廣木監督

 ――神谷役の波岡さんとは、「ラブファイト」(08年)で共演して以来の仲だとか。

 林さん:10年近く前からつながりがあって、隠し事も、隠すことも何もない関係だったので、波岡さんが神谷役と聞いたときは、ひとつ楽になりました。現場に入ってからも本当に何でも話せましたし、お互い、最高の現場で喜びを分かち合っていました。

 ――波岡さんを交えた3人のやりとりで、印象に残っているエピソードはありますか。

 林さん:(台)本読みをやったときに、あるシーンを読み終えてもカットがかからず、監督が台本を一切見ていないどころか、台本、机の上にも出ていなかったんです。そんなこと初めてだったので、その瞬間、え?となって……(笑い)。

 ―― 廣木監督はそのとき、何を考えていたのですか?

 廣木監督:何かを考えていたんでしょうね(笑い)。

 林さん:そのとき、ト書きとかは関係なくて、本当に現場に立って、それぞれに向かいあって感じたこと、やりたいこと、思いついたこと、自分の役がやるだろうなということをやらなきゃなと思ったんです。

 ――ということは、アドリブもあったわけですね。

 廣木監督:結構あったな。

 林さん:ありましたね。全部アドリブみたいな気持ちだったので、漫才の中で、すごく取り入れました。作家さんがネタを書いてきてくださるんですけど、好井さんが現役の方なので、スパークスの漫才は、売れていない時期、コンテストに出始めた時期、ライブがやっとできるようになった時期と、段階で描かれていたので、本当にその時期にやるようなことを取り入れていけたらと思いながらやっていました。ラストライブの最初の振り、「それではみなさん、いつものいきますよ、セーノ!」というのも、ちょっと挑戦だったんですけど、好井さんと考えてやりました。

 ――それを見て廣木監督は?

 廣木監督:楽しみでしたよ。絶対、これ失敗しないで、はずすなよと思いながら、ドキドキしながら見ていました。(林さんと好井さんが)そこまで腹をくくってやっているから、こっちも腹をくくってやらなきゃなと思いました。

 ◇大事なシーンでいきなりのむちゃ振り

 ――10話を5人の監督が分担して演出しています。それぞれの監督独自のテイストが出ていました。

 廣木監督:それが、僕、いいと思っているんです。連ドラではなくて“映画を撮る”、短編でも長編でもない中編で、一年、一年を描いたそれぞれの映画が10本できましたということになればいいなと思っていました。(各監督が)自分たちが考えた「火花」というものに対してのアプローチだと思いますね。

 ――5人の中で、演出がいちばんしんどかった監督を教えてください。

 廣木監督:それ、言えないじゃん(笑い)。

 林さん:やっぱり、一番細かいところまで見られているなと思うのは廣木監督です。どう毎シーン、毎シーン存在しているかというのを、特に僕は主人公なので、すごい見られている感じはありました。だからこそ、余計なことはしたくないと思いました。

 廣木監督:今、思い出した。洗濯している途中に彼ら(相方の山下と彼の恋人)が家に来るシーン(第9話)。大事な話だと感じて、それをちょっと外すように洗濯物を干しに行くと(映像では)なっていたじゃないですか。あれは、ト書きには何も書いてなくて……。

 林さん:本当に大事なシーンで、現場に行ったらいきなり、「洗濯物乾かしてくれ」って(笑い)。

 廣木監督:その日に遣都に、こういうふうにしたいと言ったら、彼は勘がいいから、「あ、分かりました」ってやってくれて。それをやれちゃうというのは、それまでの流れがあってできたことなのかもしれないけど、すごく自然で、それにはすごく驚きました。

 林さん:いや純粋に、絶対にそっちの方がいいと思ったので。あと、あゆみ(徳永えりさん)と最後別れていくときに、叫びながら代官山の街を走っていくのも、本番前に監督が近づいてきて、「なんか、叫びたくなんない?」という言葉だけを残して去っていったんです(笑い)。そうしたら、やっぱりあのシーン、みんなにめちゃくちゃいいと言われました。

 ――完成した作品について、又吉さんは何かおっしゃっていましたか。

 廣木監督:沖縄映画祭でお会いしたときは、4話目まで見てくれていて、3話目を見たときに、その余韻で街を2時間くらい歩いた、気持ちよくて、ということを言ってくれて、すごくうれしかったですね。

 ――明日から世界190カ国で配信が開始されます。

 廣木監督:日本の漫才という文化、独特のエンターテインメントが世界で受け止められるのか、すごく興味があります。

 林さん:この間、米サンフランシスコとドイツに行って、リアルな反応を見てきました。最初は皆さん、漫才が分かるのかなと思っていたんですが、この原作の魅力があったら間違いないと思えたというか、外国の方がほとんど動かずにじっと見ていて、その姿勢を見ただけで感動して、言葉の壁なんか関係ないと思ったんです。ですからちょっと期待しています。

 <廣木隆一監督のプロフィル>

 1954年生まれ、福島県出身。82年、ピンク映画「性虐!女を暴く」でデビュー。2003年、「ヴァイブレータ」で数々の賞を受賞。近年の主な作品に、「余命1ケ月の花嫁」(09年)、「軽蔑」(11年)、「100回泣くこと」(13年)、「さよなら歌舞伎町」(14年)、「ストロボ・エッジ」(15年)、「オオカミ少女と黒王子」「夏美のホタル」(ともに16年)など。初めてはまったポップカルチャーは「まだ出始めた頃の『少年マガジン』。あとは、手塚治虫さんのマンガですね」とのこと。

 <林遣都さんのプロフィル>

 1990年生まれ、滋賀県出身。映画「バッテリー」(2007年)で俳優デビュー。主な出演作に「ダイブ!!」「ラブファイト」(ともに08年)、「風が強く吹いている」(09年)、「パレード」(10年)、「荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE」(12年)、「僕だけがいない街」(16年)など。公開待機作に「にがくてあまい」「花芯」(共に16年)、「しゃぼん玉」(17年)などがある。初めてはまったポップカルチャーは、マンガ「ONE PIECE」。

 (取材・文・撮影/りんたいこ)

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