アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅:ボビン監督に聞く タイムが暮らす永遠の城は「日本のゲームから影響を受けた」

「アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅」に登場するチェシャ猫のぬいぐるみと一緒に写真に収まるジェームズ・ボビン監督
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「アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅」に登場するチェシャ猫のぬいぐるみと一緒に写真に収まるジェームズ・ボビン監督

 英国の作家ルイス・キャロルによる不朽の名作「不思議の国のアリス」の“その後”を描いた映画「アリス・イン・ワンダーランド」(2010年)から6年。その続編「アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅」が全国で公開中だ。前作のティム・バートン監督からメガホンを託されたのは、人気マペットキャラクターが総出演するミュージカルコメディー映画「ザ・マペッツ」(11年)で、人間と人形の“共演”を成功させた英国人のジェームズ・ボビン監督。「『不思議の国アリス』は、英国人にとってDNAの一部のようなもの」であり、「アリスの世界が大好き」というボビン監督は、実は日本のテレビゲーム好きでもあるという。来日したボビン監督が、今作に込めた思いや、今作と日本のゲームとのつながりについて語った。

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 ◇「アリスはモダンで賢明で熱意ある女性」

 「今回、女性を主人公にした作品を作ることができてすごくうれしい」と喜ぶボビン監督。「これだけの規模の作品で、女性が主人公というのはなかなか稀(まれ)です。その意味では、まだまだ男女平等というまでには至っていません。だからこそ、そういった残念な現状を、少しでもよりよい方向に持っていけるように、僕達も最善を尽くしたつもりです」とボビン監督は今作に注いだ意気込みを語る。

 今回、アリスが体験するのは“時間の旅”だ。前作から3年後を舞台に、アリスが、ワンダーランドの愛すべき友人、マッドハッターの悲しい過去を取り除くために、時間をさかのぼる大冒険を繰り広げる。アリス役のミア・ワシコウスカさんはじめ、マッドハッター役のジョニー・デップさん、赤の女王役のヘレナ・ボナム・カーターさん、白の女王役のアン・ハサウェイさんら、前作のキャストが再集結している。

 前作にも増して、強く、たくましくなったアリス。ボビン監督はそのキャラクター像を、「彼女が生きた19世紀のビクトリア朝時代は、女性が自分のやりたいことを口にして、それを実行に移すなんて、受け入れられないことでした。そもそも、やりたいことを口にするだけで、この人、頭がおかしいんじゃないかと思われていたような時代です。そんな中でアリスは、ひときわモダンで賢明で熱意がある女性なのです」と説明。その上で、「彼女からインスピレーションを受け、また、彼女の生き方を模範として見ていただけたら」と今作を世の女性たちにアピールする。

 さらに、「私には9歳の娘がいますが」と言葉を継ぎ、「アリスという人物は、自分の志したことを実現させるためなら人目を気にしない。今の世の中、周囲から理想像のようなものを押し付けられたり、人目を気にしたりすることがとても多い。娘のことを考えても、人目を気にせず自分のやりたいことをやることが大切だということを伝えたいのです」と力を込める。

 ◇日本のゲームとのつながり

 悲しい過去に心を奪われ、瀕死の体にあるマッドハッターを救おうと奮闘するアリス。そんな彼女の前に立ちはだかるのは、今回初登場のキャラクター、“タイム”だ。演じるのは、「ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」(06年)の主人公役で、その存在を強烈に印象付けたサシャ・バロン・コーエンさんだ。

 ただタイムは、ルイスの「不思議の国のアリス」で、すでにその存在がほのめかされている。ボビン監督は「『不思議の国のアリス』で、アリスが初めてマッドハッターと出会った時、マッドハッターは、『永久にティータイムから動くことができない。なぜならタイムとけんかしたから』と話しています。そこでインスピレーションが湧きました」と、タイム“誕生”の経緯を語る。そして、そのキャラクター像を「彼は時間をコントロールできるというパワ―を持っています。それと同時に、彼は孤独な暴君で、傷つきやすい面も持っているのです」と解説する。

 そのタイムが暮らすのが、無限の空間にそびえる永遠の城。それこそが、ボビン監督が少なからず日本のゲームから影響を受けたと指摘する場所だ。

 実はボビン監督は、1990年代に来日している。英国のテレビ局の、ビデオゲームの歴史についてのドキュメンタリーを作るためだった。その際、「パックマン」の生みの親の岩谷徹さんら複数の日本のゲームデザイナーにインタビューしたという。

 そういった経験を含め、「具体的に“これ”とは言えないまでも、日本のビデオゲームが大好きだったから、自分が目にしてきたものが、ビジュアルを設計するとき、潜在的に、なんらかの形で影響されていることはあるかもしれません」と打ち明ける。

 その上で、「例えば、上田文人さんが手掛けた『ICO(イコ)』や『ワンダと巨像』というゲームは、ゲームでありながら、もの悲しさや寂しさ、孤独感を抱かせる。そうしたところに、今回のタイムのお城……彼が、巨大な空間に一人で暮らしているところが、なんとなく影響されているのかなと思います」と話した。映画は全国で公開中。

 <プロフィル>

 1972年生まれ、英国出身。オックスフォード大学を卒業後、BBCやチャンネル4のシリーズで監督を務める。チャンネル4の「The 11 O’Clock Show」(98年)は、英国アカデミー賞テレビ部門ベストコメディー賞候補になった。ほかに、HBOのヒットシリーズ「Flight of the Conchords」(2007~09年)などを手掛ける。映画監督デビュー作は「ザ・マペッツ」(11年)。続編「ザ・マペッツ2 ワールド・ツアー」(14年)の監督、脚本も担当した。

 (取材・文・撮影/りんたいこ)

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