小新井涼のアニメ考:北の大地とルパン三世

浜中町で走っていたルパン三世のラッピングバス
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浜中町で走っていたルパン三世のラッピングバス

 週に約100本(再放送含む)のアニメを視聴し、アニメを使った町おこしのアドバイザーなども務める“オタレント”の小新井涼さんが、アニメにまつわるさまざまな事柄についてつづります。今回は、北海道浜中町で開かれた「ルパン三世フェスティバル」に参加した小新井さんがその意義について考察します。

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 みなさんは、「ルパン三世」ゆかりの地が日本にあるのをご存じでしょうか。

 世界を股にかけて活躍する大泥棒、ルパン三世。そんな彼と縁深い日本の町は、北の大地にありました。原作者モンキー・パンチ先生の出身地である北海道浜中町です。町には至る所にルパン一味のイラストが掲げられ、2007年に放送されたテレビスペシャル「ルパン三世 霧のエリューシヴ」の舞台でもあるため、作中に登場した景色も多数現存しています。

そんな浜中町が年に一度、最もルパン色に染まるのが、今年で開催5回目のイベント「ルパン三世フェスティバルin浜中町」、通称ルパンフェスです。

 今回私もイベントMCとして初参加したのですが、ルパン関連のトークショーや展示に加え、牛乳早飲み大会や地元グルメの販売など、浜中町の魅力まで存分に味わえてしまうというなんともぜいたくな内容でした。

 そんなルパンゆかりの町、浜中町ですが、今やすっかりおなじみとなった“アニメの聖地”かと言われると、それは少し違う気がします。そこには他の地域とは異なる、浜中町ならではの“アニメと地域の関わり方”があると思ったのです。

 「ルパン三世」といえば、長い歴史を持ち、アニメファンでなくても知っているほどの超有名タイトル。そんな作品のイベントだけあって、若い男性参加者が多い印象の「らき☆すた」の鷲宮(埼玉県)や「ガールズ&パンツァー」の大洗(茨城県)などと比べても、ルパンフェスの参加者層はファミリーからお年寄りまでとにかく幅広く、その割合もバラバラで、一見するとアニメイベントというよりは、地元の夏祭りのようなアットホームな雰囲気も会場全体に漂っていました。

 また、“観光資源が少ないので、アニメをひとつの名物にしよう”というタイプの町おこしとも違い、浜中町は海産物や畜産物などの観光資源も元々豊富なため、あくまでも町に足を運んでもらうきっかけのひとつとしても、イベントが機能していた印象です。

 しかし、だからといって、ルパンやイベントがただ町の引き立て役に徹しているというわけでは決してなく、そこは他の聖地などと同じく、参加者や地元の方々による作品愛がもちろんあります。そうでなければ、毎回豪華なゲストや企画と共にイベントを開催し続けるのは不可能でしょうし、道内からでさえ少々アクセスが難しい浜中町まで、遠くはイタリア、本州、四国、九州から、年によっては町民総人口を超えるほどの参加者が「ルパン三世フェスティバル」のために集まることの説明がつきません。

 そんな細かい特徴の他にも、ルパンフェス、そして浜中町には、そこ以外ではなかなか見ることのできない他の聖地やイベントとの違いがありました。

 それは集まったルパンファンの多くが“ルパン三世だけ”でなく、“浜中町での観光”も目的のひとつとし、同じくらいの比重を置いて楽しんでいることです。

 実際に宿で一緒になった、「ルパンフェスに参加するために来た」という2組のファミリーも、イベントを楽しんだ後、夜は浜中の魅力を伝えるスライド上映会に出席し、遅くまで談話室で語り合いながら宿の方々と交流を深めるなど、ルパン以外でも浜中を大いに満喫している様子でした。

 ルパン目当てで足を運んでくれた人々に、海産物や畜産物、そして豊かな自然で、ルパンだけじゃないおもてなしもできる。コンテンツが独り歩きしてしまうのではなく、元々豊富な観光資源がルパンというビッグタイトルと共存共栄している浜中だからこそ、見受けられる現象だと思いました。

 そんな浜中町への訪問は、作品に出てきた場所や縁のある土地を訪れる“聖地巡礼”というよりは、モンキー・パンチ先生が生まれ育った環境や見てきた景色を知ることのできる“ルパン三世誕生のルーツに触れる体験”に近いと思います。

 そしてそれらの追体験を通して愛着が深まり、訪れる人にとっても段々と、浜中がまるで自分の故郷のようにも思えてくるのでしょう。実際イベントに何回も参加されている栗田貫一さんをはじめ、毎年参加されている方々も、今やルパンフェスへの参加、浜中町への訪問は、「また来たよ」というよりは「帰ってきた」、「ただいま」という感覚になっているとのことでした。

 「ルパン三世」と豊富な観光資源を生かしたアプローチで、作品ファンにとって“聖地”ではなく故郷(ふるさと)になってゆく。それこそが、浜中町ならではの “アニメと地域の関わり方”なのだと思います。ひとくくりに「アニメゆかりの地」と言っても、コンテンツや土地柄によって、特徴や展開はこんなにも変わってくるのですね。

 ◇プロフィル

 こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。アニメ好きのオタクなタレント「オタレント」として活動し、ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」やユーストリーム「あにみー」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)のアニメを見て、全番組の感想をブログに掲載する活動を約2年前から継続。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、社会学の観点からアニメについて考察、研究している。

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