小新井涼のアニメ考:コンテンツツーリズムの可能性と課題

(左から)PARUS代表理事の菊池宣広さん、小新井涼さん、山村高淑北海道大教授
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(左から)PARUS代表理事の菊池宣広さん、小新井涼さん、山村高淑北海道大教授

 週に約100本(再放送含む)のアニメを視聴し、アニメを使った町おこしのアドバイザーなども務める“オタレント”の小新井涼さんが、アニメにまつわるさまざまな事柄についてつづります。今回は、“聖地巡礼”に代表される「コンテンツツーリズム」にまつわるフォーラムに参加した小新井さんがその意義について考察します。

ウナギノボリ

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 ひとりでは難しいことでも、同じ志を持つ仲間が力を合わせたらどうでしょう。

 かの「三国志」にも、劉備、関羽、張飛の3人が、「生まれた日は違えども、同じ日に死せんことを~」と、義兄弟の契りを結ぶ“桃園の誓い”という有名なエピソードがあります。今回は、そんな熱い逸話をほうふつとさせるような、とあるフォーラムに参加させていただいた時のお話です。

 私が訪ねたのは、富山県南砺市で開催された「地方発世界:地方における文化・観光・事業の創造」。「コンテンツツーリズム」を中心に、地域の活力につながるクリエーティブ産業の取り組み事例を紹介し、その可能性と課題について議論するという研究会です。

 「コンテンツツーリズム」とは、アニメで最近よく言われる“聖地巡礼”をはじめ、映画やドラマ、文学などのコンテンツに関連した場所を訪れる観光旅行・観光事業のこと。研究者のひとりには、私も日ごろからアニメの聖地巡礼絡みで大変お世話になっている北海道大の山村高淑教授がいらっしゃいます。今回も教授からのお声がけをきっかけに、アニメを研究し、アニメ関連のお仕事をさせていただいている身として、講演の聴講や参加者の方々との交流をさせていただくべく出席させていただきました。

 さてこのフォーラム、注目ポイントは何と言っても「北海道大学観光学高等研究センター」、「南砺市」、ピーエーワークスさんが設立した「一般社団法人 地域発新力研究支援センター(PARUS)」による共同開催という点です。

 それにより、参加者さんやフォーラムの内容も“研究者×地域×コンテンツ制作者”の交流が実現したものとなっていました。例えば北大さんをはじめとする「研究者」としての立場からは、アニメ以外を対象としたコンテンツツーリズムの説明や、海外の取り組みと成功例の紹介。南砺市さんなど「地域」の立場からは、聖地巡礼の盛り上がりを受けて南砺市さんが制作した「恋旅 True Tours Nanto」の事例や伝統工芸とコラボしたブランド戦略の紹介がなされました。

 そしてピーエーワークスさんやガイナックスさんなど「コンテンツ制作者」の立場からは、アニメ以外の分野の人にも向けて、アニメーションの再定義や日本アニメの歴史的・文化的背景を紹介するなど、それぞれの立場だからこそ知り得る情報を共有する講演を行い、質疑応答やコメントを述べ合って互いの領域への理解を深め合っていました。

 では一体、どうしてそのことが注目ポイントとなるのでしょうか。

 実はこれまで、このように3者が共催して意見を交換するような集まりはほとんどなかったのです。そんな状況の中、研究者は学会や講義で講演や論文発表を、それぞれの地域は地元のお祭りや会議で地域活性化を、制作サイドはアニメイベントや上映会などでコンテンツの盛り上がりを……、と同じコンテンツツーリズムにかかわっていても、活動領域や目的は異なり、またお互いにそのことを知る機会がありませんでした。

 しかし山村教授によると「本来は研究者、地域、コンテンツ制作者の3者がお互いに話し合うべきだ」という問題意識は3者とも常々あったそうです。なので、今回そのような場ができたこと自体がこのフォーラムの一番の功績であり、それこそ最大の注目ポイントなのだと思います。

 会場で直接お伺いできたご意見からも、その効果が感じられました。例えば米子ガイナックスの赤井孝美社長からは、「エヴァのような昔の作品でも、聖地へ行くことでいつでも作品世界の追憶体験ができる“観光”に、可能性を感じている」ということを、さらにそんな赤井さんの講演を聞いたアニメ以外の観光研究を専攻する教授陣からは、「アニメと言ったら小さい頃にテレビで見ていたものしか思い浮かばなかったけれど、いろんな定義や歴史があること、初めて知ることがたくさんあった」などの感想をお聞きすることができました。なるほど確かに、これらは今回のように領域横断的な場でなければ生まれなかった言葉だと思います。

 言葉といえば、フォーラム全体を通して一番印象に残ったのは、3者共通の意思のように聞こえた「アニメの聖地巡礼を一時的なブームで終わらせない」という言葉でした。これから2020年の東京五輪に向けてますます観光事業が盛り上がる中、すっかりおなじみになったアニメの聖地巡礼をはじめ、コンテンツツーリズムを今まで以上に盛り上げていくには、ひとつの立場だけでは困難な場面もたくさんでてくるでしょう。

 しかしたとえ立場や目的はバラバラでも、その最終目標はみなさん同じ「文化・観光・事業の創造」です。そのための、「志が同じもの同士、力を合わせていこう!」という決意を感じた今回のフォーラムは、その後の壮大な歴史物語の始まりとなった“桃園の誓い”と同じく、新しい時代を切り開いてゆくための出発点だと、私は感じました。

 ◇プロフィル

 こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。アニメ好きのオタクなタレント「オタレント」として活動し、ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」やユーストリーム「あにみー」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)のアニメを見て、全番組の感想をブログに掲載する活動を約2年前から継続。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、社会学の観点からアニメについて考察、研究している。

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