超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、「教育ゲーム」における海外と日本の違いについて語ってもらいます。
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コロナ禍は2020年のゲームビジネスに大きな影響を与えた。ゲームセンターのロケーションビジネスのように、大打撃を受けたセグメントも存在するが、巣ごもり効果によって、総じてポジティブに推移したといえる。家庭用ゲームは好例で、「あつまれ どうぶつの森」(任天堂)が全世界で3118万本の大ヒットを記録したのを筆頭に、各社でヒット作が登場。家庭用ゲーム部門の業績を押し上げる要因となった。
スマートフォン(モバイル)向けゲームも同様だ。ゲームエンジン大手のユニティ・テクノロジーズが公開した「2021 ゲーミングレポート」によると、ゲーム配信初日の課金アイテムの売り上げが、前年対比で50%以上増加。広告売上も8%以上の成長を示した。特にパンデミック初期の3~4月で、モバイルゲームのアクティブユーザー数が急増したものの、5月以降は変化が落ち着き、秋から冬にかけてPCゲームの利用者が急増するなど、興味深い変化を見せた。
もっとも、より注目べきは「遊ばれ方」の変化だ。世界的なロックダウンによって、通勤時のゲーム利用が減少する一方で、モバイルゲームの中でも、ゲームファン向けのタイトル人気が高まった。ジャンル別の広告増収額の割合でも、アドベンチャーやアクションといったゲーマー向けのジャンルが急伸し、パズルなどのカジュアルゲーマー向けのジャンルを上回った。モバイルゲームといえども、家庭でじっくり楽しむタイプのゲームが好まれたことがうかがえる。
ただし、教育ゲーム分野で懸念すべき事態もみられた。調査会社のApp Annieによると、GooglePlayにおける教育ゲームの成長率が、全世界で70%増だったのに対して、日本では5%増にとどまったのだ。iOSとGooglePlayの合計値でも、カジュアル・キッズ・ゲームの教育系サブジャンルにおけるダウンロード数が、全世界で70%増だったのに対して、日本は15%増にとどまった(App Annie/App Annie「Game IQ」調べ)。自分の知る限り、ここまで差が出ることは珍しいと思われる。
ここでいう「教育ゲーム」とは、幼児から小学生低学年を対象に、スマートフォンやタブレットで知育コンテンツを提供するジャンルのことだ。工事車両について学ぶ「子供のためのトラックゲーム - 家屋 洗車」(GoKids!)、塗り絵遊びの「ペイントと学ぶ」(Orange Studios Games)、ごっこ遊びの「リトルパンダワールド」(BabyBus)などが好例で、全世界で数千万~1億ダウンロード近いヒットを記録している。いずれも海外タイトルだ。
いわゆる「スマホ子守り」が社会問題になるなど、日本では乳幼児にスマートフォンの動画やゲームアプリなどを使わせることに対して、ネガティブなイメージがある。学校教育のICT活用についても消極的な状況が続いてきた。こうした背景も手伝って、教育ゲームのジャンルには国産ゲームが少なく、海外大手のマーケティングも低調だ。これが子育て世代の目に留まらず、日本でダウンロード数が伸び悩んだ原因の一つになったと考えられる。
もっとも、コロナ禍の一斉休校が引き金となり、GIGAスクール構想の実現が急速に進むなど、状況が大きく変化しつつある。その際に求められるのが、家庭と学校の双方でICT教育に対するリテラシーの向上だ。これにともない日本でも今後、教育ゲーム市場が活性化し、外資が本腰を入れてくる事態が考えられる。消費者としては内容が重要なのであって、国産か否かは関係ない。こうした状況をどのように捉えるか、国内各社の対応が期待される。
おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。
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