アニメジャパン:初の完全オンライン開催で生まれた新たな魅力

オンラインではあっても、放送された作品について振り返り、これからのアニメの新情報も多数発表され、“切り替わり”をしっかり感じることができたイベントだったと思います
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オンラインではあっても、放送された作品について振り返り、これからのアニメの新情報も多数発表され、“切り替わり”をしっかり感じることができたイベントだったと思います

 世界最大級のアニメイベント「AnimeJapan(アニメジャパン)」が2年ぶりに完全オンラインイベントとして3月27、28の両日に開催された。“コロナ禍”前とは状況が一変したものの、オンラインならではの新たな発見もみられたようだ。アニメコラムニストの小新井涼さんが初の試みを分析する。

ウナギノボリ

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 この週末、世界最大級のアニメイベント「AnimeJapan(アニメジャパン)」が、昨年の新型コロナウイルスの影響による中止を経て、2年ぶりに、初の完全オンラインで開催されました。

 アニメジャパンといえば、例年3月末に東京ビッグサイトで開催され、各企業の出展ブースの他、ステージや展示パネル、コスプレエリアやフードエリアなどがあり、それぞれで物販や展示、ライブやトークイベントなどが行われ、来場者がその中を練り歩くという、まさにアニメの祭典ともいえるイベントです。そんな超大型イベントが、オンラインのみで一体どのように実施され、そこにはどんな反響があったのでしょうか。実際に参加してみての様子を振り返ってみます。

 今回のアニメジャパンでは、完全オンライン化にあたり、上述の内容が、AJステージ・AJスタジオ・企業出展と、大きく三つに収斂(しゅうれん)されていました。

 AJステージは、これまでリアルイベントで各公演抽選チケット制だったステージイベントが、オンライン視聴チケット購入者は全員一日通しで視聴可能となった配信です。同じくチケットで視聴できたAJスタジオでは、リアルイベントでみられたアニメの制作方法の紹介やコスプレに因んだ主催施策などが配信されました。企業出展では、様々な作品のトークイベントやグッズの紹介、オーディオコメンタリー付きアニメ本編などが、YouTubeやABEMAといったプラットフォームでこちらは無料配信され、各企業の特設サイトではグッズの通販なども行われていました。

 このように今年のアニメジャパンは、場所をオンラインに移したとはいえ、なるべく例年通りの内容を、より多くの人が体験できるイベントになっていた印象です。

 それでも最初は、これまでのリアルイベントとは勝手が違い、「チケットがいるのはどの配信?」「あの作品の配信はどこで見られるの?」といった戸惑いの声もありましたが、実際に始まってみると、オンラインだからこその強みが活かされた反響がみられました。

 まず印象的だったのは、キャパ制限のなさがフルに活用されていたことです。視聴数が確認できるプラットフォームでは、少ない時でも300人以上、多い時だと数千人、人気の「呪術廻戦」の配信には同時視聴1万人以上、「ゴールデンカムイ」の配信には総視聴数3万人以上という数字もみられました。これがリアルイベントだったら、コロナ禍でなくともステージやブースに集まることは不可能な人数であることから、「今回はオンラインなら参加してみようかな」という方が大勢いたことがうかがえます。

 そこには、オンライン一番の強みでもある、リアルイベントへの来場が難しい遠方の人が参加可能であったことも、大いに関係していたようです。日本各地からの参加はもちろん、今回特にそれを大きく実感できたのが、海外からの反応の多さでした。元々海外参加者の多いイベントだったので、それなりの人数をみかけるとは思いましたが、コメントの言語だけでも、英語だけでなく、韓国語やスペイン語、ポルトガル語やロシア語、ヒンディー語までが飛び交っていたことには驚きです。また、確認できただけでも、台湾やネパール、バングラデシュやカナダから参加していることがうかがえるコメント(love from ~など)もあったりと、距離的に参加が難しく、ましてやコロナ禍のこの状況ではリアル観覧は難しかっただろう人々も多く参加していたことが、こうした反響からも分かります。

 チケット購入等の手続きが必要なAJステージなどはさすがに日本語の書き込みが多かったですが、そこは普段でも抽選をくぐり抜けた猛者達が集まるエリアなので、オンラインでもリアルイベントと同様に、局地的に濃い盛り上がりが生じていたという印象でした。

 コロナ禍前、アニメジャパンは開催を重ねるうちに、単なるお祭りとしてだけでなく、毎年年度末にそれまでの作品を改めて振り返り、これから始まる新しいアニメを迎えるための、“新年度に向けたアニメシーンの切り替わり”となる年間行事としても根付いてきていました(それは参加していないアニメファンにとっても、その日解禁された新情報が大量に伝わる点で同じです)。その点、今年はたとえオンラインではあっても、放送された作品について振り返り、これからのアニメの新情報が多数発表され、それに対してみんなで反応できたことで、開催終了と共に、その“切り替わり”をしっかり感じることができたイベントだったと思います。

 確かに、直接声援や拍手が送れなかったり、会場を練り歩いての“知らない作品との偶然の出会い”が難しかったりといった、オンラインだからできないこともありました。しかしそれでも今年のオンライン開催は、昨年はリアルイベント中止後コロナの混乱で切り替えどころではなかったのもあり、実に2年ぶりに、その年間行事としての存在を思い出させてくれた、まごうことなきアニメジャパンであったと私は思います。

 ◇プロフィル

 こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。

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