週に約100本(再放送含む)のアニメを視聴し、アニメを使った町おこしのアドバイザーなども務める“オタレント”の小新井涼さんが、アニメにまつわるさまざまな事柄についてつづります。今回は、「僕だけがいない街」にまつわる“聖地巡礼”に参加した小新井さんがその意義について考察します。
ウナギノボリ
10年前の朝ドラ「花子とアン」 当時の吉高由里子インタビュー
「みんな!二次元へ行きたいかーっ!」
「うおおーっ!(行きたい!)」
迷わずそう答えたとしても、悲しいかな、同時にそれがかなわぬ願いというのも私たちは知っています……。
アニメの“聖地巡礼”をご存じでしょうか。作品の舞台となった場所、ゆかりのある土地を聖地とし、そこを巡礼するファン活動のことで、わたし自身もつい先日、アニメ「僕だけがいない街(僕街)」で実施してきました。
なぜ急にこんな話をするのかといいますと、ここで冒頭のくだりに戻ります。たとえ実際に行くことはできなくても、聖地巡礼を通して、“まるで二次元の世界にいるかのような体験”は、できるのです! なお、今回の僕街の“聖地”ですが、あくまでもファン同士で推測した場所ということで、公式発表はされておりません。その点だけご了承いただければと思います。
訪れたのは北海道苫小牧市。作者の三部けいさんの生まれ故郷で、物語にも苫小牧を思わせる施設やシーンが多数登場します。
まずご紹介したいのは、苫小牧川の河川敷にあるあずま屋。アニメで登場した際は周りに雪が残っていましたが、背の低い囲いのついたあずま屋のつくりをはじめ、特徴的な石畳の配置や、そこから見た河川敷の風景などは季節が違っても一致する部分が多く、そこにいるだけで劇中のワンシーンが目の前で(本来の意味で)再上映されるようでした。
続いては、大町一条通り商店会のアーケード。黄色い柱やれんが色の歩道などの配色、アーケードごしにのぞく建物上部の構造などはアニメに登場する姿とほぼ一致。クルマのフロントガラスごしに外をながめてみれば、ここで車中からターゲットを狙っていた真犯人の行動を追体験しているようで正直シビれます。
他にも市内を数カ所巡り、アニメと同じ景色を見つけては興奮して何十枚も写真を撮っていたのですが、作品を知らない人にとってはいくら解説や比較画像があったとしても「え、普通の街並みじゃん……」ですよね。
同じ景色が聖地巡礼をする人にはどうしてこうも特別に映るのか。皆さんには、においや音楽などが引き金となり、当時の記憶や感情がよみがえるという経験はありませんか。仕組みとしてはそれと同じです。
聖地の景色によってアニメの情景が呼び起こされ、それらを通じて本来自分とは縁もゆかりもないはずのその場所に強い思い入れやノスタルジーが生まれるのです。
実際私も、今回苫小牧へ赴くことで、「ああ、主人公の悟や真犯人はこの街でこの景色を見ながらきっとこんな日常を過ごしてそれぞれの人生を歩んできたんだ」と妄そ……、いや感じることで、「今、私はそんな彼らの世界にいる!」と実感することができました。
不可能に思えた「二次元への旅」は、“聖地巡礼”によって味わうことができる。今回の僕街“聖地巡礼”を通じてたどり着いた、自分なりのひとつの神髄でした。
アニメに限らず、映画や文学も含めた“コンテンツツーリズム”も盛んな昨今。地元の方々のご迷惑にならないよう注意しながら……。みなさんもぜひお好きな作品で体感してみてはいかがでしょうか。
こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。アニメ好きのオタクなタレント「オタレント」として活動し、ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」やユーストリーム「あにみー」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)のアニメを見て、全番組の感想をブログに掲載する活動を約2年前から継続。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、社会学の観点からアニメについて考察、研究している。
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