スーサイド・スクワッド:米国生まれの日本人・カタナ役の福原かれんに聞く「空手の経験が役に立った」

映画「スーサイド・スクワッド」でカタナ役を演じた福原かれんさん
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映画「スーサイド・スクワッド」でカタナ役を演じた福原かれんさん

 映画「スーサイド・スクワッド」(デビッド・エアー監督)は、DCコミックスに登場する悪役の中でも極めて強烈な悪党、すなわち“スーパービラン”をかき集めて結成されたチーム“スーサイド・スクワッド”の活躍を描いている。今作に出演している福原かれんさんは、日本人の両親のもと、米国で生まれ育った。作品のPRのためにこのほど来日した福原さんに、出演の経緯や役作り、さらに今後の抱負や日々心掛けていることなどを聞いた。

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 ◇「間違えた」と思ったオーディション

 福原さんが演じるのは、スーサイド・スクワッドを率いるエリート軍人、リック・フラッグ大佐の右腕で、顔をマスクで隠した無口で冷酷な女サムライ、カタナ。夫と死に分かれた過去を持ち、斬(き)り殺した相手の魂を吸い取るという、太古からある刀“ソウルテーカー”が武器だ。福原さんはこの役を、オーディションで射止めた。

 オーディションには、「すごくシンプルな黒い洋服」で参加。ウィッグを付けたり、セクシー系の着物などを着て“完全武装”しているほかの応募者を見て、「間違えた。これ、受からないなと思った」というが、マーシャルアーツと、師範をしている友人から前日に数時間教わった殺陣のデモンストレーションを披露。空手をやっていたため、「フィジカルな面ではできたなと思った」ものの、演技力は、勉強を始めたばかりだったため「不安でした」と語る。しかし、結果は合格だった。

 ◇「サムライ魂は理解していた」

 原作コミックは、オーディションに受かってから読んだ。当初は、「クールで冷酷な女サムライというイメージを出していかなくちゃ」と考えたそうだが、読み進めるうちに、「亡くなった旦那さんの魂が、ソウルテーカーの中に封じ込められてしまっているフラストレーションみたいなもののせいで、笑うことやうれしさ、仲間への信頼といった感情をすべて仮面の下に封じ込めている。そういう深みのあるキャラクターなんだ」と考えを改めた。加えて、「サムライとして、主君であるジョエル・キナマンさんが演じるリック・フラッグ大佐への忠義心を表現できればと思いながら演技をしていきました」と明かす。

 英語も日本語も堪能な福原さんは、生まれも育ちも米ロサンゼルスだが、家庭では、両親から日本の文化を教わり、日本食も食べ、日本語を話すなど、日本のものに触れて成長した。テレビ番組も、時代劇にはじまり、「ウルトラマン」「ドラえもん」、宮崎駿監督のアニメ、さらに「ごくせん」も見ていたそうで、「そういう面では、一からこの映画のために学ばなくても、サムライ魂の何たるかは理解していました」と話す。

 ◇「勇気を出してよかった」

 女優には、子供の頃から憧れ、小学生のときは演技のクラスを取ったりもしたという。しかし、「日系米国人として、エンターテインメントビジネスの世界にどうしたら入ることができるのか分からなかった」上に、「達成できるゴールなのかも分からなかった」ため、その思いを一度は封印。大学に進学し、2014年6月に卒業。「友達はやりたいことを見つけ、仕事を探し始めているのに、私は何がやりたいのが分からない」と進路が見つからず悩みながら、夏の間を日本で過ごした。そんな中、「女優にずっとなりたかったんだ。やるなら今だ。たとえだめでも、頑張って努力すれば“何か”は得られるのではないか」との思いが湧き起こった。

 思い立ったが吉日だ。季節は秋。帰国すると同時に演技のクラスに入り、翌年2月に今作のオーディションを受け、カタナ役を射止め、映画デビューを飾った。「本当に私はラッキーだと実感しています」としみじみ語り、「一歩を踏み出す勇気を出してよかったと思います」と笑顔を見せる。

 ◇「初心を忘れない」

 今後の活躍が期待される福原さんだが、今回の共演者からは、「変わるなよ」と言われているという。有名になればなるほど、周囲に“イエスマン”が増えていくのは世のならい。「こういうときはこういうことをやってはいけないときっぱり言ってくれる人がいなくなったとき、自分が一番だと思い始めることが、一番いけないことだと思うんです」と福原さん。そのため、「初心を忘れないことが、この業界では一番大切」と日々自身を戒めている。

 さらに、撮影現場で、周囲の俳優たちの迫力に気圧され、おどおどしていた福原さんを、スクワッドのメンバーで、デッドショット役のウィル・スミスさんやハーレイ・クイン役のマーゴット・ロビーさんらが、「カタナ、こっちにおいでよ!」と声をかけ、一緒にご飯を食べたり、写真を撮ったりなど、ビッグスター面をすることなく接してくれた心遣いに感謝しながら、「みんな同じ人間。私も人間。みんな一緒だから。そういう考えをずっと持ち続けないといけないなと思います」と気を引き締める。

 ◇「アジア人にもチャンスを!」

 カタナとのギャップに戸惑うほど、素顔は愛らしい福原さんだが、美しさを保つために日々心掛けているのは、「どこでも寝られる体質なので、睡眠をとることと水をとること」、さらに、「できればヘルシーなものを、好きなだけよく食べる」ことを挙げる。ただ、「炭水化物(の食べ物)がすごく好きで、そればかり食べていると太るので(笑い)、このごろは、できるだけお肉を食べるようにしています」と、“糖質ダイエット”を心掛けているのだという。もっとも、「おすしがすごく好きなので食べちゃう(笑い)」というが……。

 今後の目標は、「スタービング・アクター(食べていけない役者)のレベルから抜け出す」ことを掲げ、「シャーリーズ・セロンさんやジョニー・デップさんのように、きれいな役も、それとは真逆の役もできる幅の広い役者さんになりたいので、いろんな役をやっていきたい」と意欲を見せる。そして、スクワッドの“生みの親”アマンダ・ウォラー役のビオラ・デイビスさんが、米テレビシリーズ「殺人を無罪にする方法」の演技で15年のエミー賞最優秀主演女優賞に輝いた際、「有色人種の女性とそれ以外の人々を隔てているのはチャンスだけ。役が与えられなければ受賞もできません」というスピーチに触れ、「できることなら私も、アジア人の社会にもチャンスをください!とアピールしていきたいです」と力強く語った。

 <プロフィル>

 1992年生まれ、米ロサンゼルス出身。「スーサイド・スクワッド」が映画デビュー作。小学校6年生のとき、日本の視聴者をターゲットにしたディズニーのテレビ番組「Movie Surfer」(98年~)でキャスティングディレクターに発掘され、米国映画のスターたちにインタビューし、ディズニー映画を紹介する役割を約6年間担った。ほかに2010年からNHKのスポーツリポートを担当。数多くのCMにも出演してきた。カリフォルニア大学ロサンゼルス校とアーロン・スパイザー・アクティング・スタジオで演技の訓練を積んだ。極真空手の経験があり、国内外の大会に出場している。

 (取材・文・撮影/りんたいこ)

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