サイモン・ペッグ:個性派俳優が「スター・トレック BEYOND」で脚本・出演 最新作に込められた思いとは?

映画「スター・トレック BEYOND」にスコッティ役で出演、共同脚本も担当したサイモン・ペッグさん
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映画「スター・トレック BEYOND」にスコッティ役で出演、共同脚本も担当したサイモン・ペッグさん

 人気SF作の新シリーズ3作目「スター・トレック BEYOND」(ジャスティン・リン監督)が21日に公開された。1966年のテレビ放送からスタートした「スター・トレック」も今年で50年。前2作を監督したJ.J.エイブラムスさんが製作に名を連ねている。モンゴメリー・“スコッティ”・スコット役でおなじみのサイモン・ペッグさんが今作では共同脚本に加わった。もともと同シリーズの大ファンだったというペッグさんが、どう物語を作っていったのか。映画に込めた思いを聞いた。

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 ◇集中して書いた6カ月間

 「スター・トレック」(2009年)、「スター・トレック イントゥ・ダークネス」(13年)で、カーク、スポック、マッコイに次いで主要キャラクターである、U.S.S.エンタープライズ号の機関主任スコッティ役として出演したペッグさん。これまで、「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」(13年)など、たくさんの脚本作があるが、今回ではテレビドラマ「DARK BLUE/潜入捜査」の企画・製作総指揮を担当したダグ・ユングさんとともに脚本を担当した。

 自身の脚本・主演作「宇宙人ポール」(11年)などで、「スター・トレック」へのオマージュを入れるなど、ペッグさんはもともとこのシリーズのファンだったといい、「自分が脚本の中に書いた宇宙船が、セットの中に実際にあるんだよ!」と今回の仕事をとても楽しんだ様子。半面、50年も続く人気のシリーズという重圧と、半年間という短い執筆期間に加え、俳優として撮影をこなさなければならなかった苦労もにじませる。

 「集中して、集中して」と強調しながら、「とにかく懸命に仕事をした。あと、もう6カ月あったらよかったのに(笑い)」と振り返る。

 ペッグさんは「これまでのスター・トレックの撮影の中で一番キツかった。でも、大好きな作品に貢献できて、誇りに思う。ワクワクした作品を作ることができた。最初は、僕は出演者だったから、(脚本を書くことで)キャストのみんなから外れてしまわないか、という心配もあった。でも、実際にはそうはならず、キャスト代表という気持ちで取り組めた。撮影中も俳優たちから質問を受けながら、ずっと書いていた」と脚本執筆の舞台裏を語る。

 親友のニック・フロストさんとコンビで脚本・出演する作品が多く、いわゆる“バディもの”を書くことを得意とするサイモンさんらしく、2人1組のペアを作って、物語を進めていった。

 ◇新キャラクターを生み出したことに誇り

 ペッグさんは「まず最初に、理論的なスポックと感情的なボーンズのペアが思い浮かんだ。2人はキャプテンのカークの周りにいつもいるけれど、カークを取り払ってしまったら、どうなっていくのかと思った。尊敬し合っているけれど、ぶつかり合いながら、どのようにお互いを認め合っていくのかを楽しみにしてほしい。次に最年長のカークと最年少のチェコフのペア。そして、私が演じるスコッティには、同じエンジニアの若いジェイラと組み合わせました。まるで、父と娘、叔父とめいのような間柄で、面白いと思う」とアピールする。

 ジェイラという新たなキャラクターを生み出せたことを「誇りに思う」と言い、「今後も登場するかもしれない」とも話す。

 そんなふうに、クルーが2人1組でバラバラになってしまうのも、宇宙の最果てで未知の領域を探索中のエンタープライズ号が何者かに襲撃されて、壊されてしまうからだ。今回から新たに加わったリン監督が出したこの案に、最初は反対し、白熱した議論にもなったという。

 ペッグさんは「エンタープライズ号の破壊は、『ミスター・スポックを探せ!』『ジェネレーションズ』でやってしまったから、必要ないんじゃないかと思った。でも、リン監督の説明を聞いて理解できた。クルーたち家族のよりどころであり、物理的に彼らをまとめている宇宙船を取り払うことで、バラバラになった家族が再び集結できるのかという物語が生まれる。お互いが助け合って、団結し、協調していく、今の社会に大事なテーマが強調されていくんだ」と分かったという。

 ◇アクションは登場人物の人間性に基づいている

 そして今作は、「ワイルド・スピード」シリーズのリン監督らしく、体を張ったアクションが盛りだくさんの作品になった。このことについてペッグさんは、「映画館で上映するという市場を考えると、こういうものにしなくてはならなかった」としながらも、「アクション満載の超大作でありながら、人間味のある思慮深いものになっている」と説明する。

 「オリジナルの番組のエピソードにあるように、キャラクターの人間性について語りたいと思った。その点、リン監督はインディーズ出身なので、人間味のある作風にたけている。そして、アクションをフレームに乗せるのがうまい。私が書いたそれぞれの人物の人間性を考えながら、アクションを組み立てていってくれた」と監督をたたえる。

 リン監督や共同脚本のユングさんらと長い打ち合わせをしながら、「ただのオマージュにならないよう、自分のスター・トレックへの愛を出し過ぎてはダメ」と、気持ちを制御しながらの作業だったことを、「スポックのように理論的に書いたよ!」とおちゃめに明かすペッグさん。

 原作のジーン・ロッデンベリーさんが、理想とする未来を描いたとされるこのシリーズ。原作にある「多様性のある社会」「平和への希求」などのテーマに話が及ぶと、「今の世界もそうだったらいいと私も願っているが……」とペッグさんは語り出した。

 「今、社会は、スター・トレックの世界観とは真逆で、“アンチ”スター・トレックともいうべき状況になっている。私の住むイギリスは、EUから離脱するし、米大統領選の中にも同様のことを感じられる。アジアについてはよく分からないが、欧米では分離や壁といったものを築こうという傾向があって、たった一つの星の中で、まだまだもめごとが多い。今の世界が、希望ある未来への最後の葛藤であってほしい。スター・トレックに描かれる、すべてが協調・協力し合うことは、今、最も大切なこと。もちろん、私は未来に希望を持っていますよ」と前を向いた。

 「スター・トレック BEYOND」はペッグさんのほかクリス・パインさん、ザッカリー・クイントさん、カール・アーバンさん、ゾーイ・サルダナさん、アントン・イェルチンさん、ジョン・チョウさん、イドリス・エルバさん、ソフィア・ブテラさんらが出演。21日からTOHOシネマズ日本橋(東京都中央区)ほかで公開。

 <プロフィル>

 1970年2月14日生まれ。俳優、脚本家、プロデューサーとして活躍。ロンドンでスタンダップコメディアンとして活動し始める。エドガー・ライト監督と組んだゾンビ映画「ショーン・オブ・ザ・デッド」(2004年、日本未公開)に、親友のニック・フロストさんともに主演。米国でも人気になる。同作を気に入ったJ.J.エイブラムス監督によって、「M:i:3」(06年)のベンジー・ダン役に抜てきされる。「ショーン・オブ・ザ・デッド」は「ホットファズ 俺たちスーパーポリスメン!」(07年)、「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」(13年)とともに、「スリー・フレーバー・コルネット3部作」と呼ばれて高い評価を得た。出演作に「スター・トレック」(09年)、「スタート・レック イントゥ・ダークネス」(13年)、「宇宙人ポール」(11年)、「しあわせはどこにある」(14年)、「ミラクル・ニール!」(15年)などがある。ポップカルチャー好きで、「オタク、イエ~ス! 私はオタクです!」と笑顔で自己紹介した。

 (取材・文・撮影:キョーコ/フリーライター)

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