ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅:魔法の小道具はこうしてできた! 来日した造形美術監督に聞く

映画「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」で造形美術監督を務めたピエール・ボハナさん
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映画「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」で造形美術監督を務めたピエール・ボハナさん

 「ハリー・ポッター」シリーズの完結から5年。新たなシリーズが幕を開けた。映画「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」(デビッド・イェーツ監督)は、3部作が予定されているうちの1作目として位置付けられており、「ハリポタ」の生みの親J.K.ローリングさんが初めて映画の脚本に挑んだ作品だ。今作で造形美術監督を務めるピエール・ボハナさんが、このほど映画に登場する小道具たちと来日。実物を見せてもらいながら話を聞いた。

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 ◇ローリングさんの脚本のうまさに脱帽

 映画「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」は魔法動物学者ニュート・スキャマンダーが主人公。彼の著書「幻の動物とその生息地」が、ハリーたちの教科書になっているのは、ハリ・ポタファンにはおなじみだ。映画は、そのニュートが、米ニューヨークに降り立つところから始まる。ひょんなことから、大切にしているトランクから魔法動物たちが逃げ出し、それがもとで、人間界と魔法界をまたにかけた大事件に巻き込まれていく。ニュートを演じるのは、「博士と彼女のセオリー」(2014年)で米アカデミー賞主演男優賞に輝いたエディ・レッドメインさんだ。

 ローリングさんの脚本を読み、ボハナさんは「ワクワクした。いや、そもそもこの仕事の話が来てワクワクした(笑い)」と語る。なんといっても、足かけ10年続いた「ハリ・ポタ」シリーズの大部分のスタッフが再集結したのだ。「みんなとまた仕事ができる」という喜びに、心が浮き立ったのは当然だろう。

 その上、ローリングさんの脚本は素晴らしく、とりわけ感心させられたのは、舞台が1926年の米ニューヨークだということ。「当時は大恐慌前で、いわゆる“黄金の20年代”。大勢の人たちでにぎわう街に、風変わりな英国の魔法使いがやって来て騒動をもたらすわけです。ストーリーの持っていき方が、ものすごくうまい」と、その出来栄えをたたえる。

 ◇造形美術部門の仕事

 ボハナさんが所属する造形美術部門は、プロダクションデザイナーが監督やプロデューサーと話し合い、描いたコンセプトスケッチを受けて、形にしていく部署だ。素材選びや実際の使い勝手のよさを考えるのも、造形美術部門の仕事だ。「いろんな人と共同で作業する過程そのものに喜びを感じ、それがこの仕事の醍醐味(だいごみ)」と語るボハナさん。

 ただ、せっかく作ったものも、カメラのレンズを通すと予想と違って見えることはないだろうか。この質問に、「想定できることはすべてあらかじめ考慮してあるので、出来上がったものが、あれ、違うということはそうしょっちゅう起こることではない」としながら、「万が一違っても、小道具担当が、例えば、コップが光り過ぎるというときはラッカーを塗ってマットな仕上がりにするなどして乗り切ります。とにかく、こういう大規模な映画は、スケジュール通り進めていかないと莫大(ばくだい)なお金がかかってしまう。だから、ちょっとした不一致があっても、当日調整しながら進めていくのです」と裏事情を明かす。

 ◇杖にも個性

 ボハナさんに、持参した小道具を解説してもらった。まずは、魔法使いにとって大切な杖(つえ)について。ニュートの杖を示しながら、「面白いのは、彼はあまりものの手入れをしない人(笑い)。だから、そのずぼらな性格が分かるように傷だらけの感じを出しているし、使い込んでいることが分かるデザインになっています」。また、柄の部分に動物の骨ではなく貝殻が使われているのは、「彼の動物愛を物語っている」という。

 一方、ニュートとニューヨークで出会う米合衆国魔法議会、通称MACUSAの職員ティナ(キャサリン・ウォーターストンさん)の杖は、「彼女はおしゃれに無頓着で地味なキャラクター。だから見栄えより、とにかく実用的なデザインになっている」のだという。対して、彼女の妹のクイニー(アリソン・スドルさん)の杖は、おしゃれさが漂っている。「クイニーはとてもファッショナブルな人なので、継ぎ目のところがアールデコ調になっていたり、素材がマホガニーだったりしています」と杖一つをとっても持ち主の性格に合わせて作られていることを教えてくれた。

 ◇手間ひまかかった小道具は?

 並べられた小道具の中で、最も手間ひまがかかったのは、やはりニュート愛用のトランクで、制作には約6カ月をかけたという。まず、当時出回っていた既製品を調達し、デザインを決め、その際、「アクションシーンもあるので、ゴツく、大きなものは扱いきれない。だからなるべくコンパクトにしました。その一方で、これにはニュートが入るシーンもあるので、彼の体がすっぽり収まるくらいのサイズである必要がありました」と説明する。

 さらに、アップや引きの映像など、シチュエーションに合わせたものを用意する必要があり、「結局、17個作りました。映画ならではの試行錯誤を要された小道具でした」と明かす。せっかくなのでふたを開けてもらったが、ボハナさんが「今はマグル(人間)仕様だから何も見えないよ(笑い)」と言うように、中は空っぽだった。

 ◇注目のシーンと銀色卵

 また、MACUSAで使われるIDやMACUSAのエレベーター係のステッキを示しながら、「これは、MACUSAのシーンで使われる小道具ですが、MACUSAの構内は、セット自体がすごく美しくて、今回持ってきていない小道具もたくさんあります。私自身、期待しているシーンの一つです」とボハナさんも楽しみにしていた。

 目を引いたのが、鶏卵よりやや大きい銀色の「オカミーの卵」。しかし、これについては、「殻が本当にシルバーという設定で、結構な数を作らなければなりませんでした。ストーリー上も重要なポイントなので、あまり話すとネタバレになってしまう。これに関してはここまで……(笑い)」と語るにとどめた。映画は11月23日から全国で公開中。

 <プロフィル>

 1969年生まれ、英国オックスフォードシャー出身。「ハリー・ポッター」シリーズでは、空飛ぶほうきや魔法の杖、クィディッチの試合のスニッチなど、ほとんどすべての小道具の制作に携わる。ほかに関わった作品に「スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス」(99年)、「ダークナイト」(2008年)、「ゼロ・グラビティ」(13年)、「コードネームU.N.C.L.E.」「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」(ともに15年)、「ターザンREBORN」(16年)など。12月公開の「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」(16年)や、17年公開予定の「スター・ウォーズ エピソード8(原題)」「美女と野獣(原題)」にも関わっている。

 (インタビュー・文・撮影/りんたいこ)

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