NHK:コミケに出展し続ける理由 “中の人”に聞く

昨年冬に開催された日本最大級の同人誌即売会「コミックマーケット89」のNHKのブース
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昨年冬に開催された日本最大級の同人誌即売会「コミックマーケット89」のNHKのブース

 NHKが、東京ビッグサイト(東京都江東区)で29~31日に開催される日本最大の同人誌即売会「コミックマーケット(コミケ)91」の企業ブースに出展する。NHKとコミケは一見、無縁のようだが、2014年冬のコミケ87、15年冬のコミケ89に続いて3回目で3年連続の出展となる。もはやNHKはコミケの“常連”になりつつあるが、そもそもなぜ出展したのか? また、なぜ出展し続けるのか? NHKの“中の人”に理由を聞いた。

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 ◇若いファンを作るための先行投資

 コミケは、1975年に始まったマンガや小説、ゲーム、音楽などの同人誌の即売会で、現在は夏と冬の年2回開催されている。ブースには、同人誌を販売する一般ブースと商業作品を扱う企業ブースがあり、企業ブースは、95年夏から導入され、96年冬から本格的にスタートした。企業ブースは出版社やアニメ会社、ゲームメーカーの出展が大半だったが、近年はホンダやグーグル、マイクロソフトなどさまざまな“無縁企業”が出展している。

 コミケ初出展を企画したのは、NHKの広報局制作部の福島裕介さんだ。福島さんは大河ドラマのポスター制作や、SNSなどのウェブ展開を担当しており、15年放送の大河ドラマ「花燃ゆ」のPRの場としてコミケに目を付けた。福島さんは「3日間で50万人以上が集まるイベントはなかなかない。来場者は20、30代がボリュームゾーンで、普段、接することができない人たちにPRできる」と考えたようだ。

 同局は「(大河ドラマを)若い人になかなか見てもらえない」ことが、長年の課題になっていると話す。「若い人たちと接点を持つための努力をしないといけない。NHKのファンを作るための先行投資をしたかった。ネット全盛の時代だからこそ、リアルな場を求めている人も多い。NHKがコミケに出展するというギャップも面白い」と企画を練ったという。

 ギャップは面白いが、お堅いイメージが強いNHKが出展するとなると、局内から反対の声も上がりそうだ。また、年末は紅白歌合戦もあり、同局が慌ただしくなるため、スタッフを確保するのも難しいだろう。しかし、福島さんは「上司の理解もあり、チャレンジしようとなりました。最初は手探りでしたが、各所の協力もあって出展できた」と明かす。

 ◇NHKのギリギリのラインを攻める

 14年冬の「コミケ87」では、初出展のNHKブースに朝から人が殺到した。人気イラストレーターのイラストなどが掲載された無料の“薄い本”を配布し、“ヤバイアンケート”もネットで話題を集めた。“薄い本”は、西又葵さんや星野リリィさんの描き下ろしのイラストのほか、「NHKニュースウオッチ9」の気象コーナーの人気キャラクター・春ちゃんなどのイラストやマンガを掲載。用意した約9000部が3日間で“完配”した。

 また、“ヤバイアンケート”は、ブースに展示されたQRコードを携帯電話で読み込むとアクセスできる専用サイトで行われた。コミケのNHKブースや“薄い本”について、「とてもヤバイ(よい意味)」「ヤバイ(よい意味)」「ヤバイ(よくない意味)」「とてもヤバイ(よくない意味)」などと答える……というもの。3日間で約6000人のアンケートが集まり、福島さんは「3日間でこんなにアンケートが集まることはない。コミケの熱気を感じた」と手応えを感じたようだ。

 “薄い本”を配布したり、“ヤバイアンケート”を実施したのは「コミケに寄せていく」ためだ。福島さんが「『出展したぞ! どうだ!』では通用しないと思っていました。コミケ的に楽しんでいただるような施策を考えた。お客さんに寄せて、攻めるところは攻めた」と説明する。“郷に入っては郷に従え”とコミケのノリを理解した上で、NHKができるギリギリのラインを攻めた結果、来場者に受け入れられたようだ。

 ◇今冬は「選択と集中」

 2回目の出展となった15年冬の「コミケ89」では、福島さんに加え、「晴海時代からコミケに行っていた」という広報局制作部の片平洋資さんがメンバーに加わった。“薄い本”の新作が3日間で約9000部を“完配”するなど2回目も好評で、福島さんは「NHKが今年もコミケに来た!とまた盛り上りました」と2年連続で手応えを感じたようだ。

 今冬は3回目の出展となるが、方向性を少し変えるという。そもそも大河ドラマをPRするためにコミケに出展したが、今冬はアニメや教育バラエティー番組「Rの法則」などを中心に紹介するブースになるといい、恒例の“薄い本”は「忍たま乱太郎」「おじゃる丸」「3月のライオン」「クラシカロイド」「少年アシベ GO!GO!ゴマちゃん」「龍の歯医者」「にゃんぼー!」など同局のアニメを中心とした誌面構成になる。片平さんは「これまでいろいろなことをやってきましたが、コミケの来場者に素直に刺さるところに特化した。“薄い本”もより濃くしました。選択と集中をした結果です」と話す。

 NHKはコミケの成功を受けて、15年6月に北海道・洞爺湖温泉街で開催されたアニメ、マンガのイベント「TOYAKOマンガ・アニメフェスタ2015」、今年4月に動画配信サイト「ニコニコ動画」(ニコ動)の大規模イベント「ニコニコ超会議2016」にも初出展した。さまざまイベントに参加してきた中で、コミケによりマッチした展開を考えるようになったという。

 3回目の出展となると常連になりつつあるが、片平さんは出展を続ける理由を「ネットでも話題になっているので、出展していることを知っていて、訪れる方も多いのですが、たまたまブースを見つけたという人も多い。まだまだ出展していることを知らない人もいる。NHKにも面白い番組がある!と知っていただける機会。コミケのようなイベントはほかにはない。今後のことは分かりませんが、若い人にはどんどんアピールしていきたい」と話す。

 コミケは、さまざまな企業や自治体が新戦略のアピールの場として活路を見いだすケースも多いが、目の肥えたユーザーの心をつかむのは難しい……という声もある。NHKの場合、コミケ出展というギャップを“ネタ化”することで、来場者に受け入れられた希少な成功例なのかもしれない。“選択と集中”をした今冬のNHKブースの反響が注目されそうだ。

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